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第四十一話




 ……いや、本当に。そんなキョトンとされても困るのよ。感覚がバグってるわよ。薬を盛った犯人ってことは、ルシアを攫わせた人間ってことでしょう? ルシアはもっと怒ってもいいと思うのだけれど。


「とりあえず部屋に戻りましょうか」

「……本当に、肝が据わってるお姫さまだな」


 オルコス卿をこんなところに放置するのも気が引けるけれど、今はまだ出せないもの。仕方ないわよね……。

 分かってはいるけれど、帰り際に彼に目を向ける。何かを叫んでいる。見たことのない形相で、ルシアを呼んでいる。声が掠れ、音になっているかも怪しいほどの大きさで。それが怖いと思ってしまった。いつもの優しいオルコス卿はそこにはおらず、私たちの知らない誰かがいる。人は薬で、ここまで変わってしまうものなのだろうか。


「……きゃ!」

「バカ! 足元に気をつけろ」


 足元をよく見ていなくてコケた。恥ずかしい……。穴があったら入りたいってこういうときに言うのかしら。隣にいたアイトが支えてくれたから怪我はしていないけれど、そうじゃなかったら悲惨ね。

 うぅ、顔が熱いわ……。お兄様も困ったようにこっちを見ているし、エルピス伯爵令嬢も困惑気味……。ルシアはスタスタ行ってしまったけれども。あの子、普段は行動するのが遅いのに、こういうときは早いのね。シグニもルシアを一人にしないようにと先に行っているし。


「……マヌケ」

「うるさいね。脳筋のクセに」

「お前もだろ」

「どんぐりの背比べだろうに……」


 お兄様、聞こえてますからね。頭悪いのは否定しませんけど、テスト赤点取りまくったバカよりは頭いいですから。ちゃんと平均以上は取ってますし。

 アイトと言い合いながら部屋に戻る。途中すれ違う人たちは「またやってる」という目をしていた。城ではもういつものこととして処理されるものね。本当に、お父様たちが優しくてよかったわよね。じゃなきゃ不敬罪で騎士団から追放待ったなしよ。


「……あの、もう少し静かに喧嘩できませんか?」

「すごい響いてたからね。いつもだけど」


 二人仲良く先にお茶するのやめなさいよ。……いや、恐怖を和らげているのか。シグニがルシアにピッタリくっついてるときはルシアが怖がっているときだ。本当に、そういうところは昔から気が利くわね。

 喧嘩を静かにするのは無理でしょうよ。それと、喧嘩ではないから。突っかかってきたから対応しただけよ。

 それぞれ座って改めて話を聞くけれど、オルコス卿は利用されたってことでいいのよね?


「そうですね。まぁ、あちらの思い通りにはいかなかったようですが」

「んで、そのお相手さんは?」


 結局はそこよね。相手が誰なのか。ルシアがすぐに分かったのを考えると有名なのかしら。誰だろうと、何故オルコス卿に薬を盛ったのかが謎だけれど。


「ルーチェたちも知っていますよ」

「……薬を盛るバカなんて知り合いにいたかしら?」


 そんなことをする相手を見抜けないほどバカではないと信じたいわね。もし仲良くしている子なら自分に自信がなくなるわ。

 ルシアは少し考えてから口を開く。言葉を選んでいるのか、どう表現するか悩んでいるのか。まぁ、こういうときのルシアは、大抵棘のある言葉選びをするから誰か分からないときが多いのだけれど。


「いるではないですか。一人、異性に大人気のおバカさんが」






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