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第四話




 煌びやかなシャンデリアの光が照らすパーティー会場。既に多くの生徒が居て、お兄様の挨拶を合図に歓迎会が始まります。パーティー会場を見渡すと、大人数の集まりが四つほど。そのうち二つはこの国の公爵家のご令嬢のグループ。お兄様の婚約者争いと言ったところでしょうか。片方はお兄様と同い年で、確か生徒会の方ですね。もう片方の方はシグニと同い年のご令嬢のはずです。残りの二つは留学生である王子殿下のグループと、もう一つは見えませんが、ご令息が多くいるので、友人関係で集まっているのですかね。


「……お兄様」

「どうした」

「五時の方から、殺気です」


 ルーチェと私に向けられたもの。その中でも割合はルーチェの方が圧倒的に多いです。殺気のしてくる方向にいるのはご令息たちのグループ。どうやら、仲良しで集まっているワケではないようですね。


「こちらに来たら言ってくれ」

「分かり、ました」


 お母様が、場合によっては敵が多いと言っていましたが、これは多すぎますね。心休まる時間が少なそうです。警戒しながらも、お兄様のご友人や公爵令嬢方のところへ挨拶回りをします。今のところ、動きはありませんね。ジロジロと値踏みするように見られるのは大変不愉快ですが。おそらく、こちらを注視して欠点を見つけようとでもしているのでしょう。それを突いてこちらが崩れれば御の字。欠点を見つけられなくとも、こちらの出方を窺えます。交友関係なども把握できますし、敵として取る行動は正しいです。


「……お兄様がいるからかしら。来ないわね」

「一人になるのを待っているんだろうね。あそこ、ヴェルメリオ子息の派閥だ」


 クリム様の派閥。となれば、この視線も納得ですね。ルーチェの悪い噂を流しているのでしょう。私に視線が来ている理由は、ルーチェと私の区別が付かないのでしょうね。敵のことを知るのは常識だと言うのに。事前調べもないのはあまりオススメできません。そもそも、敵情視察をするのならばせめて殺気を隠さなければ。こんな見え見えの殺気では誰も殺せずにバレて現行犯です。


「……わざと、誘き寄せますか?」

「わざわざリスクを冒す必要はない。相手は爵位だけが上なだけの小物だ」


 そういうことでしたら、わざわざ引っ張り出す必要はありませんね。あちらの出方を窺って対処しましょう。後手に回ったところでこちらが負ける可能性はゼロに等しいですから。皇族に喧嘩を売ると言うのならば、買ってあげましょう。あちらの望む形で、華々しいエンディング(最高のラスト)を迎えさせてあげましょうか。


 とは言え、あちらもただのバカではないようですね。歓迎会の間は特に何もしてこないです。今日は何事もなく終わりましたが、油断はできませんね。シグニと別れ、お兄様は仕事があるようで学院に残るようで、私とルーチェを送るようオルコス卿たちに申し付けますが、


「お兄様の護衛なのだからアイト卿は残りなさいな」

「二人で送り届けろ」


 護衛不要と言うお兄様と、お兄様の護衛をお借りしている立場であり帰るだけだからお兄様と返すと言うルーチェ。どちらかが折れなければ話は永遠と平行線になるのですが、どちらも譲る気配はありません。お兄様としては、学院で襲撃など起こるはずがないとのお考えなのでしょう。それに、もし何かあってもお兄様ならば確実に撃退することが可能です。


「お兄様の御身が最優先です」

「私よりもお前たちを優先するのは当然だろう」


 こんな話が続き、もういっそのことお兄様の仕事が終わるまで待っていれば良いのではないかと思いましたが、お兄様は待たせたくないと言いますし、ルーチェも邪魔はしたくないと言います。なんなんですかね、この二人は。最終的に、魔法を使えば良いのではないのかと言う、何故今まで出てこなかったのか分からない結論に至り、転移魔法を使って戻ります。

 転移魔法。使える人がかなり少ない魔法です。理屈としては空間ごと指定した場所と交換する魔法なため、範囲を間違えれば転移する側に被害が及び、転移する場所に人がいたりすればその人はこちらに来てしまう。言ってしまえば、範囲に人の一部が入っていたらその範囲に入っている一部のみが転移してしまう。そうなればその人は身体が損傷した状態となり、最悪の場合死に至る。使えば便利になる分、リスクが非常に高いものです。


「相変わらず、乱れがないわね」

「慣れてる、から」


 魔力も多く、魔法に特化しているため私の日常ほ常に魔法と隣り合わせです。転移魔法は物を運ぶのに便利なため、魔法の先生に教えてもらいました。生活に使える基礎魔法から自身の属性である【星魔法】について。自分の属性ではなくとも扱える方もいるらしく、私もその一人だからと他属性の魔法も教えてもらいました。あの方には感謝しかないです。


 翌日、学院へ行くのにまたシグニが迎えに来てくれて、ルーチェと三人で学院に向かいます。それで待っているのは分かっていましたがオルコス卿とアイト卿で、これから三年間、私たちの護衛に回りそうですね。


「またね」

「えぇ。気をつけて」


 ルーチェと一緒に教室へ行くと、こちらを見て何やらコソコソと話しています。どうやら、手を打ってきたようですね。魔法で集音して聞いてみれば「昨日の歓迎会で男爵令嬢を睨んでいたらしい」「嫉妬で婚約者へ罵声を浴びせた」などと意味の分からないことばかり。どうやら、こちらが皇族であることを忘れているようですね。もしくは、皇族であるけれどもいずれ降家するからなのか、舐めているようです。

 モノを隠したりするなどはさすがにせず、コソコソとこちらの陰口を吐くだけ。これなら害はありませんし、問題はないですかね。ルーチェも気にしていないみたいです。


 そうして数日が過ぎ、友人はできないものの有意義な学院生活を送れています。ルーチェは想像していた通り部活動に入りました。確か剣舞をする部活だったはずです。私は部活動には入らずにルーチェを待つ間に中庭で本を読んだり、植物を観察したりしています。オルコス卿には趣味まで把握されるのは恥ずかしいからと、放課後はお兄様のところに居てもらうようにしています。これで一人の時間確保です。


「ちょっと!」


 中庭で本を読んでいたら突然声をかけられ、本を閉じて前を見てみると、珊瑚色の髪を後ろでまとめ、撫子色の瞳にこちらへの敵意を宿すご令嬢がいました。この方、何方でしょうか。記憶にいないので、初対面のはず。私が皇女であると知らない? そんなはずはありません。歓迎会に参加していれば分かりますし、そうでなくても自国の皇女を知らないのはおかしいです。


「あんた、悪女の仕事しないでどういうつもりなのよ!」


 ……………………はい?






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