第十五話
考えるべきことがありますが、まずは明日から行われるテストです。四人で勉強したので自信はありますが、点数が高すぎると周りから目をつけられそうです。なので、とても申し訳ないですが、手を抜きます。とは言え少しなので、そこまで下がることはないはずです。私の穏やかな学院生活のためには必要なことです。
皆が引っかかりそうな問題や間違えそうな問題で計算間違いをしたり、綴りを間違えたりと、一人だけ頑張る方向性は違いますが、頑張りました。そのおかげか、テストの総合順位は学年で八位です。良いです。とても良い順位です。高すぎず、かつ皇族としてしっかりと学年のトップ層に入れています。
「……ルシア?」
まぁ、ルーチェたちにバレてそれなりに説教されましたが……。け、けど良いのです。私は程々に頑張ればいいんです。第二皇女ですし、そこまで重要性はありませんから。皇位継承なんて考えていませんから。そんなことしたら内戦まっしぐらですしね。そんなことしたくありません。
「明日は終業式を兼ねたパーティーでしたっけ」
「うぅ、出たくないです……」
学院は社会の縮図。学生のうちから交流の場を作るべきという考えのもと、学期ごとにパーティーが開かれます。新入生歓迎会もそうですね。新入生にはどのような人がいるのか、親交を深める価値があるのか。それを見極めるためのものです。今回は無事に一学期を終え、夏季休暇に入る前に新たに親交を深めようという目的があります。主に他学年との交流目的ですね。
「二年生がどうなるか、ですね」
「セフィド公子以外は敵と見て良いくらいですからね」
ヴェルメリオ様とペルクシム男爵令嬢が何を言っているかは分かりませんが、この一学期に突っかかってきたほとんどの方々は二年生。ほぼ間違いなく、お二人からルーチェに関する悪いことを聞かされているはずです。というか、私のことも言われて少しムカつきました。根暗とか、引きこもりとか。合ってますけど、まともに話したこともない人たちに言われたくないです。合ってますけど!
「ルシアはシグニが選んだドレスよね?」
「はい。この前送ってもらいましたし、私好みのものですし」
シグニは私の好みを把握しているのか、いつもくれるのは私が好きなものばかりです。きらびやかな豪華なドレスよりも、シンプルで繊細なドレスが好きなのですが、分かってくれる人は少ないです。大抵の方は自分をよく見せようとするか、財力を示すために宝石が散りばめられた見ていて目が痛くなりそうなドレスを着ています。けど、そういうのは私には似合いませんし、何より着ることに罪悪感が湧いてしまって……。だから社交は苦手なんですが、シンプルでいて社交の場に出て申し分ない程立派なドレスをシグニはいつも用意してくれます。
「私なんてあいつからドレスどころかプレゼント一つもらったことないわよ?」
「え、そうなんですか!?」
「政略結婚だとしても、こうも天と地の差があると嫌になっちゃうわね」
……でも、私とシグニの間にも、愛はありません。シグニは優しいから、婚約者である私に殊更優しくしてくれているだけで、平等に優しいですから。だから……。
「私が嫌でも、言えないんだろうなぁ……」
思ったことが口に出てしまって二人を見ますがヴェルメリオ様への愚痴を話しているようで、聞こえていなかったようです。それにホッとします。誰にも聞かれてはいけませんから。
シグニに不満があるワケではありません。むしろ、不満なんて見つかりません。いつも私のためにたくさん良くしてくれます。それがとても嬉しくて、とても苦しい。私はシグニにもらってばかりで、何も返してあげられないのに。だから、ルーチェがヴェルメリオ様との婚約を破棄できたらそのときは、シグニを解放してあげたいです。シグニは優しいから、私が嫌でも婚約を解消したいと言わないです。だから、私から言えば、きっと……。そうすれば、シグニとルーチェが婚約できるはずです。大丈夫……。
「……ルシア?」
「はい?」
「ボーッとしてたけれど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
知ってるんですよ。シグニとルーチェが、よく城の庭園で会っていることを。私に会う前に庭園で二人でいて、仲良さそうにしていることを。知ってるんです。聞いたんです。教えてもらったんです。
二人を恨んでいるワケでも、憎んでるワケでもありません。だって、私には二人の仲を裂く権利はありませんから。むしろ、知れて良かったです。だって、そうすれば無駄な期待を持つことがないんですから。シグニと婚約を続けて、その後に二人の関係を知る方が、よっぽどツラいことですから。もし、知るのがもっと遅かったら、私は二人のことを、信じられなくなっていたかもしれないから。だから、大丈夫です。
いつものように笑って、送り出しましょう。大好きな二人の幸せな未来のために、邪魔者である私はいなくなりましょう。大丈夫です。シグニとの婚約がなくなったとしても、【時詠み】様にはいつでも魔塔に来ていいと言われています。魔術師の皆様とは仲良くしてもらっていますから、追い出されることはないはずです。お父様とお母様も、ちゃんと話せば分かってくれます。私は皇族としても、家族としても、お荷物ですから。そんな私を追い出せて、ルーチェの想いが実るなら、きっと喜んで受け入れてくれます。
……何故でしょうか。自分で決めたことなのに、胸の奥がチクリと痛みます。気のせいですかね。そんなはずはありませんから。二人の幸せな未来を想像して苦しくなるなんて、そんなことは。




