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第十話




 ルーチェがエルピス伯爵令嬢を連れてきて早二ヶ月。なんとか慣れてきて、普通にお話しできるようになりました。シグニともすぐに仲良くなって、なんというか。とてもお似合いです。シグニがエルピス伯爵令嬢とたまに二人でいるのを見かけるのですが、二人が笑っていると、何故か胸の奥がチクリと痛みます。おかしいですね。お友だちなのだから、二人が話すのは当たり前。そう、当たり前なんです。なのに…………。


「……ダメですね」


 シグニがルーチェと二人きりのところを見かけても、何も感じないのに、シグニがエルピス伯爵令嬢と二人きりのところを見かけると、何故か嫌です。エルピス伯爵令嬢を信頼していないワケではありません。この二ヶ月で、彼女の良いところをたくさん知れましたし、だからこそ私も一緒にいます。けど、でも……。


「お困りですね。お姫様?」

「……【時詠み】様?」


 普段使いすれば確実に不審者か変人と思われるであろう長いローブを身に纏い、チャームポイントとばかりに時計のブローチを着けている男性。ツァイト・テナシテ・ナンテン様。この世界で最も優秀とされる七人の魔法使いを軸に造られた【魔塔】の当主にして、私の魔法の先生です。何故学院に? ここ、関係者でなければ入れないはずです。……また不法侵入しました?


「そんな人のことを不法侵入常習犯みたいに……」

「そうじゃないですか」


 こうして不法侵入してますし、昔から何度も私の部屋に勝手に入ってきてましたよね? いくら自由に行き来しても良いと許可が取れていても、淑女の寝室に入って寝顔を見るのは紳士としてどうなのかと思います。【星詠み】様だったからなんとかなりましたが、他の方だったら大変でしたよ? あの時驚きすぎて魔法使いましたし。


「それは、うん。ごめんなさい。けど、ルシアの欲しそうな情報持ってきたよ?」


 私の欲しそうな情報? なんでしょうか。今欲しいものはそうありませんが、【星詠み】様は上げて下げるようなことしません。なので、信じていいと思いますが、たまに、本当にたまに、変なものを持ってくるんですよね。


「ルシアのお気に入りのガゼボに行こうか。あそこは人目につかないだろ?」


 なんでも知っている。こういうところはさすがと言うべきなのですかね。プライバシーの侵害に関しては今更だと割りきりましょう。いや、しないでほしいですけど、たぶんやります。この人、昔から過保護ですから。私が一人でいるだけで「危ない」とか「お兄さんといようね」とか、子どもじゃないんですから。自分の家が危険だったらもうどこにも安全な場所ないじゃないですか……。

 ガゼボに移動すると、すぐさま防音魔法が展開されます。手際だけはいいですね。無駄話するつもりもないので、早速本題に移りましょうか。


「この国に限ったことではないんだけどね。どうやら最近、違法薬物が流れてるらしい。それも、魅了系のね」


* * * *


 第一皇女殿下たちと接触してから二ヶ月。多少絡まれたりするものの、特段被害には遭っていない。第一皇女殿下と第二皇女殿下も、最近では少なくなってきたらしい。最初は怯えていた第二皇女殿下もかなり慣れてきてくれて、今では三人、もしくはセフィド公子を含めた四人で昼食を取ることが多い。


「私と居ていいんですか?」

「誤解されるようなことはしていませんので」


 セフィド公子は掴みどころがないというか、こうして二人きりになっても変わらない。最初は第二皇女殿下の前では猫を被ってると思ってたけど、どうやら違うらしい。


「…………第二皇女殿下?」


 遠くに見える人影は、確かに第二皇女殿下だ。けど、怪しげなローブを纏った人物が傍にいた。第二皇女殿下の知り合い? でも、ここには関係者以外が入ることはできないはず。第二皇女殿下にこの学院の関係者で知り合いの、それも親しい人がいたのか。とても失礼だけど、あれではあまり親しい人はいないと思ってた。


「……またあいつか」

「え?」


 何か、セフィド公子が言った気がした。聞き返したけれど、なんでもないと言われてしまう。第二皇女殿下の知り合いなら、セフィド公子とも知り合いだろうし、誰か分かったのかな。

 第二皇女殿下はセフィド公子に嫌われる行動は避けてる気がする。私の気のせいかもしれないけれど、セフィド公子が止めたことはしないし、言ったことはしっかり守ってる。たまに破るけど……。自覚があるのかは分からないけど、セフィド公子のことが本当に好きなんだろう。だからこそ、あの人物は危険ではないと分かる。もし知らない人なら第二皇女殿下は逃げるか魔法で撃退するし、セフィド公子が嫌っていたり、警戒してる人なら第二皇女殿下は話さないだろうし。


「……私たちも戻りましょうか。そろそろルーチェの部活も終わるでしょうし」


 セフィド公子のその笑顔が、ほんの一瞬だけ、不気味に思えた。けれどそれは本当に一瞬で、すぐにいつもの笑顔に見えて、きっと、気のせいなのだろう。

 

 セフィド公子と第二皇女殿下。二人はどう見ても仲の良いお似合いの婚約者だ。けれど、ゲームでは二人は婚約していなかった。婚約が取り消されていた。ゲームで第二皇女殿下が出てこなかった原因であろう誘拐事件。その主犯は、見つかっていないらしい。どうして、何故、誰が計画したのか分からない。それでも、ゲームでは叶わなかったこの二人の恋が叶うのなら、全力で応援しよう。友だちには幸せになってほしい。それに、ゲームでは分からなかった部分も知れて、ここがゲームではなく現実なのだと分かってる。だからこそ、人の人生の邪魔をしてはいけない。


 あの男爵令嬢はやり方を間違えた。確かにここはゲームの世界。それでも、みんな生きていて、それぞれの人生を歩んでいる。ゲームだからと好き放題していれば、あるのは破滅だけ。それが分からないから、自分から地獄へと歩いていくんだ。





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