他者の視線
夜中ふと窓の外を眺めると妙に不気味な白色光の明かりが目に入る。向かいのマンションの非常階段だ。
周りの灯が寝静まる中、一度も途切れることなく光り続ける。「あちら側から見たこちらの明かりはどう見えているのだろう」と考える。こんなことを考えるのは何にも追われていない時だけだろう。白色光で目を細め、視線を手元に戻す。何もかも白に変えてしまいそうな真っ白な粉が入った瓶。私はおもむろに清々しい顔で蓋を開く。瓶のガラスに映る自分の顔を見る。化粧は汗でよれている。なんとも言えない醜さだ。
ポーチからファンデを取り出して思う。「こんな時でさえ視線を気にしているのか」と。筆舌に尽くし難い愚かさと悔しさに駆られながら、化粧を整える。粉を喉に張りつかせ、水で流し込む。
一瞬の後意識は遠い彼方へ消えていった。