表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生して優しい世界を創る  作者: MASK
第1章:始まり
2/48

第一話:星を生み出そう

星を作るのに悪戦苦闘します

まずは、星を産み出そう。

言葉にする前に、心の奥底でそう思っていた。

けれど、それがどれほど遠くて不確かな道なのか、

ダイチはこのときまだ知らなかった。


何もない。


虚無。


色も音も温度も、すべてが存在しない空間。

そこに、たったひとつだけ浮かんでいた光の球。

それを手にしたとき、彼は自分が「創造主」として

目覚めたのだと、直感で理解した。


しかし、どうすればいい?


手の中の光球は脈動するように温かく、まるで

「始まりの火種」のようだった。

彼は恐る恐る、その球を前に突き出す。

何か起きることを期待して。


……何も起きなかった。


次に、投げてみた。

弾くように、空間へ放ったが、光はただふわりと浮いて、

ゆっくりと戻ってきただけだった。


「うーん……使い方がわからない……」


何かキー操作があるわけでもない。音声入力もなければ、

マニュアルも存在しない。

今あるのは、自分の“想像力”と“意志”だけ。


彼は考える。


「星って、どうやってできるんだっけ……?」


学校で習った知識、ゲームの知識、映画の映像。

重力、ガスの圧縮、星の核融合、惑星の形成……。


「……いや、理屈で作るもんじゃない。

これは“神の世界”だ。感覚だ、願いだ」


そう自分に言い聞かせ、再び光を見つめた。


「ここに、星を創る。俺だけの、世界の中心になる星を」


そう心の中で願った……だが。


何も起きなかった。


彼はため息を吐き、再び考えた。

頭の中で星の形を思い浮かべ、質量や軌道までイメージし、気合いを入れて意志を込めてみる。


光が、震えた。


「……きたか……?」


わずかに脈動が強くなった。

彼の想像に呼応している。


「よし……このまま……!」


彼は全力で、想像し続けた。

星の輪郭、回転、軌道、核。大地の構成、水の循環。

全身が火照るような熱で満ち、光が彼の手の中で拡がり、

空間全体が揺れる。


光が、爆ぜた。


眩しさに目を閉じた。

そして——開けた目の前には、巨大な星が浮かんでいた。


灰色の地表、無数の岩山、凹凸と裂け目の走る荒地。

月のような、静かで冷たい惑星だった。


「……星はできた。けど……」


彼の理想とはまるで違った。


草一本生えていない。水もない。風も感じられない。

ただの岩の塊。無機質で、無感情で、“生きていない星”。


「……これ、失敗じゃないのか……?」


初めて創った“世界”。

成功とは言えない。

だけど、虚無から何かを生み出した事実は、

彼の中で確かな手応えだった。


「最初はこんなもんか……いや、まだ始まったばかりだろ」


そこから、彼の試行錯誤が始まった。

まずは空気を生み出そうとした。

「空を」と願ってみる。何も起きない。


ならば、と気体の構成を想像してみる。

酸素、窒素、二酸化炭素。

大気圧、温度差、雲の流れ。


光が反応し、空間に風のような流れが生まれた。

が、すぐに消えた。循環が続かない。


「流れを作らないと維持できない……? どうやって?」


次は水。

雨を降らせようとイメージする。

地表が濡れ、川が流れる姿を思い浮かべる。


何かが落ちた。彼の目の前で、ぽたりと水滴が一滴だけ現れ、乾いた地に吸い込まれた。


それだけ。


「一滴って……何も潤わないよ……」


失敗だった。

火山を生み出そうとした時は、制御できず爆発し、

星の一部が砕けた。

生き物を創ろうとした時には、どこか歪な存在が生まれ、

光に飲まれて消えた。


失敗の連続。


試しても試しても、うまくいかない。


彼の精神はじわじわと削られていった。


「俺……向いてないのか?」


虚無の空に、声は吸い込まれるように消えた。

誰も答えてくれない。誰も助けてくれない。


それでも、やめられなかった。


“創ること”だけが、自分を保つ手段だった。

ここに至るまで、そうして生きてきた。


失敗するたびに、彼は立ち上がった。


「もっと風が必要だったのかもしれない」


「流れを作るには気圧の差が必要だ」


「火山は制御じゃなく、意志の柱として活かせないか」


「生き物を創るなら、まず環境を整えてから」


何度も繰り返した。

何百回も、失敗とやり直しを積み重ねた。

やがて、ある時。

彼はただ黙って、星を見つめ、深く深く願った。


「俺の世界に、命が芽吹いてほしい」


その時だった。


彼の想像に応えるように、星の一部が光り始めた。

光は粒子となって星全体を包み込み、

乾いていた大地の隙間に、小さな芽がぽつんと生えた。


「……っ」


その瞬間、彼の胸に熱いものがこみ上げた。

涙だった。止めどなく溢れてくる。


「……やっと……やっと……」


それは、最初の“命”だった。

たったひとつの芽。たったひとつの成功。

でもその小さな成功が、彼にとってはどんな街より、

どんな模型よりも、重く、意味のあるものだった。


「少しずつでいい。きっとできる。

俺は、俺だけの世界を、ちゃんと創ってみせる」


そう、胸に誓った。


まだ荒れ果てた星。

けれど確かに今、“創造”が始まった。

そしてその始まりは、

何度も失敗し、何度もくじけかけた、

たったひとりの神の願いだった。

次回自然を創ります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ