第十七話:人間の国、ミドガルド王国の野望
今回は傲慢な人間が自分たちは特別だと勘違いし、他の者たちを見下してすべて征服するような企みを書きました。無の民は属性を持たぬ民として無と書いてます。
文明が芽吹き千年が経過した。
星に生きる種族たちはそれぞれ独自の進化を遂げ、
属性に応じた土地に根ざし、
原始的ながらも確かに文明の営みを築き上げていた。
火の民は燃え盛る火山の麓に住まい、
熱と鉄を操り戦を得意とした。
水の民は広大な海中に都市を築き、
流麗な文化と舞を重んじる者たちだった。
風の民は風の渓谷に羽ばたき、
空と音を信仰の対象とした。
雷の民は雷雲の下に住まい、
発明に日々明け暮れ、閃きの民とも呼ばれた。
土の民は地底深くに鉱都を築き、
魔石や鉱物を自在に操る鍛冶の名手として知られた。
光の民は神殿都市を築き、
最も強く創造神ダイチを信仰していた。
闇の民は暗闇の中に隠れ住み、
静かなる叡智と呪術に通じていた。
そして、どの属性にも染まらず、
変化に柔軟な存在として誕生したのが“人間”、
すなわち無の民であった。
彼らは無属性であるがゆえに加護こそ持たなかったが、
他の種族に比べて繁殖力に優れ、
柔軟な適応力で次第に勢力を広げていった。
時は流れ、世界は中世ヨーロッパを思わせる
発展を遂げていた。
城塞都市が築かれ、鉄と石で街が形作られ、
武器と盾、剣と魔法が支配する時代。
その中心にあったのが無の民の国家、ミドガルドである。
ミドガルドは国土を広げるべく積極的に開拓を進め、
平地や山の麓、丘の上、海岸沿い、
そして森の周辺にまで街や村を築いていった。
だがその拡大政策は、当然他種族との衝突を招いた。
特に森の民と沼の民との関係は険悪であった。
ミドガルドの民は、彼らの獣に近い容姿や異質な
文化を“魔物”と見なし、幾度となく小競り合いを
繰り返していた。
「野蛮な魔物どもに、我々の理知と文明の
足元を汚されるわけにはいかん」
それがミドガルドの王、ユリウスの信念だった。
ミドガルド王城。
白き石の城壁と尖塔が空を突き、
無数の衛兵と魔術師が巡回するこの場所で、
王とその側近たちは今日も王国の
未来について語り合っていた。
「……陛下。南方の森の民が、
また補給隊を襲ったとの報が届いております」
厳しい表情で報告したのは、宰相ベルク。
「奴らは人の言葉も通じぬ獣。対話など無意味。蹂躙し、
焼き払うほかあるまい」
王の椅子にふんぞり返ったユリウスは、
ワインの杯を軽く振りながら言った。
「だが、あの森には貴重な薬草や魔石が眠っております。
学術院としては乱暴な侵攻には……」
「ふん。学者風情が口を挟むな。
ミドガルドの未来を担うのは、剣と力だ」
「陛下。最近、光の民の使者が我が国を訪れました。
創造神ダイチの偉業を語り、
信仰を広めようとしましたが……」
「神? 崇めてどうなる。奴が我らに何をした?
我々は、自らの手でここまで築き上げてきたのだ。
神の加護など無くとも、知恵と数、技術と剣で栄えた。
崇拝など笑止千万」
「しかし、我が国の中にも属性持ちの者や
神を信仰する者もおり……」
「好きにさせておけ。ただし国の政策に口を出させるな。
我が国を支配するのは“人間”、我ら無の民だ」
城内に集う貴族たちはそれに満場一致で頷いた。
「火の民は脳筋ばかりで、剣を振り回すことしか知らん。
水の連中は優雅ぶって泳いでばかり。
まともな戦術すら知らん。
風の民? あの空っぽな鳥頭どもが文明を築けると?
笑わせる。雷の奴らはひらめきばかりで、
成功せずに爆発させるのが関の山。
土の連中は地下にこもって何をしているかもわからん。
光もない世界で鉱石と戯れていればいい。
闇の民など、もはや人とは呼べぬ。影に隠れ、
こそこそと……あれが文明か?」
豪奢な衣をまとった重鎮たちは、
杯を打ち鳴らしながら高らかに笑った。
「結局、最も優れているのは我ら“人間”だ。
他の種族がどれだけ加護を受けようと、
結局は“数”と“技”に勝ることなどできぬ
創造神だか精霊だか知らんが、見ているならば
知るがいい。世界を支配するのは我々ミドガルドだと!」
その言葉の裏には、焦りや不安はない。
ただただ、自分たちが選ばれし存在であるという
“思い込み”だけが満ちていた。
そして、その思い込みは、ゆっくりと、
しかし確実に他種族との対立の火種を
膨らませていくのであった。
だがその時、天の高みからそのすべてを
静かに見下ろす存在がいた。
創造神ダイチ。
すべてを見守る神は、静かに目を閉じ、
言葉なく星の未来を想っていた。
次回森と沼の民側で話を勧めます。