プロローグ:気付いたら何も無い世界へ
これは世界を創る一人の男の物語
お菓子の箱に、割り箸、画用紙、粘土。
子供の頃のダイチにとって、それらは宝だった。
テレビゲームやおもちゃよりも、自分の手で何かをつくる方がずっと楽しかった。廊下の隅に秘密基地をつくり、空き箱を重ねてタワーを建てる。トイレットペーパーの芯を望遠鏡に、チラシを切り抜いてポスターに見立てた。
「ここが町で、この裏が森で、あそこに魔王の城があるんだ」
と、誰に見せるわけでもない“世界”を一人で延々と作り続けた。誰かと遊ぶよりも、想像を形にする方が好きだった。
成長してからも、その本質は変わらなかった。
高校では街作りゲームで仮想の都市を作り、大学では建築模型を部屋いっぱいに広げた。
「現実にないものを、現実に置く」
何かを創ることは彼の生きがいだった。
そして社会人になってからは、夜ごとにPCの前に座り、世界創造ゲームに没頭した。
ただのゲームじゃない。
彼にとってそれは“もうひとつの現実”だった。
そこには彼の創った都市があり、そこで暮らす人々がいて、朝になれば太陽が昇り、夜になれば星が降った。
だが、リアルな現実は、あまりにも冷たかった。
無難な事務職に就いたが、職場には居場所がなかった。
上司からの叱責、同僚とのすれ違い、意味のない作業、壊れていく自尊心。
「なんで怒られたのか分からない」
と笑ってごまかしても、心は少しずつ削られていった。
やがて、現実と自分の世界のバランスは崩れていった。
会社では“消耗”し、家では“創造”で癒やされる。
その繰り返しの中で、現実は“義務”に、創造は“生存本能”になっていった。朝はギリギリまで眠り、
会社ではボーッとしながら定時まで耐える。
夜になればPCの前で目を輝かせ、建物を設計し、
川を流し、森を広げる。
次第に睡眠時間は削られ、栄養も偏り、
体調も崩れていった。
でも、やめられなかった。
疲れきった心に、唯一火が灯るのは、“つくる”という行為だけだった。気づけば、現実と創造の境目は曖昧になっていた。ある晩、ダイチは自分の創った街を眺めながら、
ふと呟いた。
「ここに行きたいな……この世界で生きてみたい」
その夜、彼は机の上に突っ伏すようにして眠りに落ちた。
パソコンの画面には、彼が作った世界の夜景が広がっていた。目を覚ました時、そこには何もなかった。
真っ黒な空間。
空も、地も、音も、風も、すべてが消えていた。
ただ、自分の“意識”だけが浮いている。
「……どこだ、ここ……夢?」
自分の身体も、声すらも、確かかどうか分からない。
それでも、自分が“ここにいる”という感覚だけは不思議なほどに鮮明だった。どれだけの時間が経ったのか分からない。
そのときだった。闇の中に、ひとつの光が浮かび上がった。
それは、小さな球体だった。
手のひらサイズで、心臓のように脈打っている。
近づくわけでもないのに、自然と彼の前にあるように感じた。そして、誰かの声が聞こえた。
けれどそれは声ではなかった。
頭の奥で、直接“意味”が流れ込んできた。
『創造主よ。目覚めの時だ』
『今こそ、汝に世界を託そう』
「……創造主?」
ダイチは戸惑った。
だが、心のどこかで、納得していた。
今までずっと、“創る”ことでしか自分を保てなかった人生。
その果てに、自分は“世界そのものを創る存在”になった。
「いいだろう……やってやろうじゃないか」
彼はゆっくりと手を伸ばし、光の球を掴んだ。
その瞬間、虚無が震えた。
彼の手の中にあった温もりが、確かな脈動となって広がり始める。
「俺は、ここで“世界”を創る。
今度こそ、俺の理想の世界を。
誰にも壊されず、誰も傷つかず、すべてが美しく、やさしい世界を……」
まさにその瞬間、彼の創造が、世界を動かし始めた。
はじめて書くので拙い部分は多いと思いますが、よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾