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【第三話】

 その日の僕は自分のやった事に若干の後悔をし始めていた。お昼になって涼香を見たら、涼香は心ここに在らず、と言った顔をしていて話しかけにくかったので、中庭に出て行ったら担任の先生に呼び止められてこう言われた。

「お。木下。良いところに。机を運ぶのを手伝ってくれ」

「机ですか?どこに運ぶんですか?」

「放課後でいいから職員室まで来てくれ」

「了解です」

 机を運ぶ。そんなに大量の作業があるのだろうか。だとしたら、僕以外にも応援を呼んでいるのだろうか。そんなことを考えながら斜め前にいる涼香を眺めていたら午後の授業が終わって行った。

 

「きーちゃん、この後は図書室行くんだよね?」

「あ、悪い。担任に机を運ぶように言われてるんだ。終わったら行くから先に行ってて」

「りょうかーい。でね?今朝の件なんだけど……」

「あー、あれか。使うか使わないかは涼香に任せるよ。それじゃ僕は職員室に行ってくるな。それじゃ!」

 僕は半ば逃げるかのようにバッグを持って教室を飛び出して行った。こんな気持ちになるならやらなければ良かったのに。涼香も笑顔というより戸惑いの顔をしていたし。

 

「仁科せんせー。机ってどこ……、え?」 

「お。丁度いいところに」

「あ、お久しぶりです。幼稚園以来ですね」

 僕に丁寧に挨拶してきたのは樫野宮健吾その人だった。なんでこんなところに?

「僕、この学校に転校する事になったんですよ。通ってた高校、なんか居づらくて」

「だ、そうだ。なんかお前たち知り合いみたいだから、仲良くしてやってくれ。っと、机は視聴覚室からお前の教室まで運んで欲しいんだ。机は木下、椅子は樫野宮でいいか?俺は用事がまだあるから頼んだぞ」

「え?いや、なんで?」

 僕が混乱していたら樫野宮が僕に話しかけてきた。

「急な話でごめん」

「いや。それは良いんだけど、涼香が知ったら卒倒しそうだなって」

「涼香?」

「ああ、僕の幼馴染で樫野宮の超絶なファンなんだよ。そんなのが同じ教室にって考えたらさ」

「気が気でいられない?」

「そんなんじゃないって。まぁ、話は歩きながらでも」

 僕たちは視聴覚室に行って机と椅子を運びながら夕暮れが差してグネグネに光を反射させているノリリウムの廊下を歩きながら話をした。

「なんでこっちに?」

「さっきも言ったけど、通ってた高校、居心地が悪くなっちゃって。ほら、なんていうか……自分で言うのもなんだけど、僕ってこういう感じになったじゃない?それで疎まれるというか……」

「あー、今の高校って芸能科みたいなのがあるんだっけ」

「そう。出席日数とかその辺が融通が効くから、そこは良いんだけどもクラス番長みたいな人がいてさ、その人と今度始まるドラマの出演オーディションで競う事になって」

「で、見事勝ち抜けたらいじめが始まったと」

「ストレートに言うなぁ。まぁ、そんなところ」

「で、なんでこの高校なんだ?」

「木下君が居るからかな」

「何かの冗談か?」

「あ、ごめんごめん。本当は母さんの紹介なんだ。ほら、木下君のご両親と、僕の両親は交友があるみたいで」

 そのようだ。だから僕は今朝、こいつの連絡先なんてものを涼香ちゃんに渡して、なんて言われて手渡されたのだ。

 

 ポコン 

 

 と、静まり返った廊下にメッセージ着信音が鳴り響いた。

「メールか?」

「ああ、メッセージが届いたみたい。事務所かな」

 そう言ってスマホを樫野宮が取り出した。しかし、返信する素振りでもなくスマホをそのままポケットに仕舞った。

「返信しなくても良いのか?」

「ああ、プライベートな内容だったから。後で返信するよ。それより、その涼香ちゃんって幼馴染とはどういう関係?」

「え?幼馴染、以外の関係は無いかな。なんで?」

「いや、幼馴染って響きがなんか良いなって思って。今度紹介してよ」

「なんなら今からでもいいぞ。図書室に居ると思うから」

 そう言いながら教室一番後ろの空いている場所に机を設置して、僕は図書室に足を向けた。

「あれ?行かないの?」

「ああ、ちょっと今日はこの後仕事があるから。また今度」

「そうか。それじゃ、明日皆んなの驚く顔を楽しみにしておくよ。有名人」

 最後の有名人、と呼んだのは何か引っかかる表情をしたので、今後はやめておこう。

 

「涼香、いるか?」

「きーちゃん?なにー?」

「何してるんだお前……」

 受付カウンターの下に潜り込んで何かをしている涼香。何か物でも落としたのだろうか。

「あ、あった」

 やはり落とし物だったようだ。

 ゴンッ!

「あいたっ!」

 お約束のようにカウンターに頭をぶつけている。そして頭をさすりながら涼香がカウンター下から顔を出して来た。

「何やってたんだお前……」

「これ」

「なにこれ?」

「健吾くんのファンクラブ特典!可愛いでしょ」

 手に持っているのはヒヨコらしき手のひらサイズのマスコット人形。こいつ、明日本当に大丈夫なんだろうか。卒倒しないだろうか。今から耐性を付けるために事前情報を伝えるか、何も言わないでその反応を楽しむのか。イタズラ心が湧き上がる。

「なぁ、涼香。サインっていつ貰えるんだ?」

「うーん。ハッキリ聞いてないけど今週中には貰えるって」

「明日貰えたらどうする?」

「明日?なんで?きーちゃんのお母さんがそう言ったの?」

「そういう訳じゃないけど。例えば、みたいな」

「うーん。心の準備がまだだからなぁ」

 サインを貰うのに心の準備が必要なのか。しかも他人から貰うだけで。直接本人から貰ったらどうなってしまうんだ。やはりここは内緒にして明日の反応を楽しむことにしよう。

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