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【第二十一話】

「あれ?マスター、碧ちゃんはまだ来てない?」

「いや、今日はまだ来てないよ。待ち合わせかい?」

「はい。ちょっと用事がありまして」

「ふむ……」

 マスターは髭を触りながら何か思案している。

「来てはいないんだが……伝言ならある」

「碧ちゃんからですか?」

「そうだね。聞きたいかい?」

「ええ、まぁ」

 何をそんなに勿体ぶるのか分からなかったけども、内容を聞いたら納得してしまった。


『告白しておいてなんなんですけど、この話はなかったことにして下さい』

 

「ええ……」

 メモ書きを渡されて思わず声が出てしまった。

「フラれた、のかね?」

「まぁ、そんなところです」

「カフェオレ、飲んでいくかい?」

「お願いします」

 

 カフェオレをちびちび飲み終わってお会計のために財布を出したら、お札を入れる場所に紙切れが入っているのに気がついた。

「あ……」

 春日部さんからの手紙だ。すっかり忘れていた。僕は再びカウンターに座ってその手紙を読んでみた。

 

『まずは読んでくれてありがとう。梓川社長から諸々聞いた。なんか大変なことになってるね。それでね、以前、私のことを好きって言ってくれてたことなんだけど、アレってまだ継続中なの?』

 

 僕はその手紙を読んでから自分の心を確かめるように目を閉じてみた。

「もうちょっと考えていくかい?コーヒーなら奢るよ」

 マスターにそう言われて再びカウンターに座って考えを巡らす。僕は春日部さんのことが好きなのか。仮にそうだとしても同じ事務所だし、恋愛禁止っていうのは誓約書を書かされてるし。仮に付き合うにしても友達を装う感じになるだろう。それは今の関係と何が違うのか。それに涼香はどうするのか。

「ふー……」

 僕は大きく息を吐いてからスマホを取り出して涼香に連絡を入れた。

 

「どうしたの?碧ちゃんと約束してたって言ってなかったけ?」

「事前にフラれた」

 僕は涼香の家に行ったのだが、久し振りに両親が帰って来てるのでゆっくりさせてあげたいとの事で僕の部屋に向かったのだ。

「事前にってなに?」

「マスターに伝言で。理由はわからない。んで、財布の中にこれがあるのを思い出した」

 そう言って春日部さんからの手紙を涼香に見せた。ずるい。ずるいことをしている。

「こんなの私に見せてもいいの?」

「相談、かな。事務所の制約があるじゃない?それってどうしたらいいと思う?」

「うーん……。バレたら面倒なことになるから梓川社長に面と向かって相談するのがいいと思うけど」

「やっぱりそれだよなぁ」

「でも碧ちゃんのことはいいの?」

「元々断る予定だったから」

「え?そうなの?」

「そうだよ。だって……。いや、なんでもない」

「なに?気になる」

 涼香が遠くに行ってしまうような気がした、なんて言えるはずがない。

「そういえばさ。涼香のお母さんってなんの仕事してるんだ?」

「んー……。正直よく知らない。いつも遅くに帰ってきてるみたいだけど。私は早寝してるからよく分からないかな」

「いつも思うけど、そんなので大丈夫なのか……」

「だってきーちゃんいるし」

「僕は涼香の親じゃないぞ」

「じゃあ、兄妹?」

 涼香の口から兄妹という言葉が出てきて思わず心臓が跳ねるのがわかった。

「きーちゃん?」

「いや、なんでもない。しかし、兄妹なぁ。仮にそうだとしたらどうなるんだろうな」

「うーん。今と変わらないんじゃないかな」

「涼香は僕に恋愛感情ってのはないの?」

 思い切って聞いてみる

「きーちゃんを?」

「そう」

「なに?そういう風に見てもらいたいの?佳奈の事はどうするの?」

 否定しないあたり、非常に具合が悪い。ここで僕が涼香に告白したらどうなるのか。そんなことを考えながらも涼香の問いに答えた。

「僕は春日部さん一筋だよ」

「そうだよね。あんなに佳奈に憧れていたものね。でも同じ事務所になってお互いに恋愛禁止になってるのはどうするの?内緒で付き合うの?あ、でも同じクラスメイトだし、その辺は大丈夫か……」

「そうだな。一緒にご飯を食べるくらいは問題ないと思うけど。いや、僕がフラれてるのを知ってる奴もいるから不自然かな。涼香も一緒に食べてくれないか?弁当作るから」

「えー。なんかダシに使われてるみたい。じゃあ、私は健吾くんと一緒に食べててもいいの?」

「そうだな。じゃあ、その四人で食うか」

 そんなことを話していたけども、記者から言われた涼香の母親とのアポイントの件はうまく切り出すことが出来なかった。

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