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【第十五話】

「ただいまー」

「あ、きーちゃんおかえり。ちょっと良い話があるんだけど、聞く?」

「良い話?なに?」

「樫野宮さんのお母さんがね、今度のドラマ脚本を書いてるらしいの。それで台本に出演者みんなのサインを書いてドラマが終わったらくれるって!涼香ちゃん、喜ぶんじゃないかしら」

「え。脚本を樫野宮のお母さんが書いてるの?脚本家だったの?」

「そうよ。言ってなかったかしら。結構有名だから知ってると思ってたんだけど。それで台本……」

「そうだな。それは涼香も喜ぶと思うよ」

「なんか淡白な反応ね。きーちゃんから涼香ちゃんに渡したら喜ばれるんじゃないの?」

「いや、まぁ。ところでさ、お風呂ってもう沸いてる?」

「沸いてるけど」

「それじゃ先にお風呂に入っちゃうね」

 僕は母さんとの会話を打ち切ってお風呂に入った。あのまま話していたら涼香の話になってしまうだろう。その時、僕はなんて言えば良いのかわからなくて。

「放送が始まったら、母さんびっくりするんだろうなぁ」

 その日の夜、涼香にメッセージを送ろうかと思ってたのに何故か手が動かず。涼香からも連絡はないし。そんなことを考えていたらいつの間にか寝てしまった。

 

「木下先輩。事件です」

 あの日から数日が経って、元の生活に戻って僕が図書館のカウンターに入って貸し出しカードを整理していたらカウンターから身を乗り出して碧ちゃんが話しかけて来た。

「なに?事件って。大事件?」

「大事件です。木下先輩が知ったら腰を抜かしてしまうほどの大事件です」

「そこまで言うなら聞かせて貰おうか」

「なんと!あの小泉先輩がテレビドラマに!」

「へえ、あの涼香が。なんのドラマ?」

「あれ。びっくりしないんですか?」

「予め聞いていたからな。ってか、一応幼馴染何だからその辺は知ってるって」

「なんかつまらないです。もっとこう……」

「えええ⁉︎ってリアクションを求めていたのか?」

「まぁ。でもなんでそんな事になったんです?急にテレビドラマなんて」

 ここで碧ちゃんに話しても大丈夫なのだろうか。例の噂については涼香がうまく話しておくなんて言ってたけども。

「そういえば、噂の件ってどうなったんだ?テレビドラマに出るなら結構重要な話だろ?」

「それ!それなんですけど、小泉先輩が自分で流したから適当に有耶無耶にして欲しいって。大変だったんですから」

 有耶無耶にして欲しいって……。なんて雑なリクエストなんだ。

「それでそのリクエストをうまくこなしたって訳か。その報酬にその情報ってことか?」

「ええ、まぁ。でも木下先輩が驚かなかったんでちょっと拍子抜けです。それで、どんな話なんです?」

「そこまでは敢えて聞いてない。面白く無くなるだろ?でも涼香のやつ、どの程度のポジションの役柄なんだ?」

「え⁉︎聞いてないんですか⁉︎ヒロインですよ!ヒロイン!」

「は?」

「やっとビックリした。だから大事件なんですよ。あのドラマ枠のヒロインって芸能界の登竜門なんて言われてて。抜擢された女優は今後の活躍が約束されるというか。いいんですか木下先輩」

「良いも何も。涼香のやつがその道を選ぶのなら応援するよ」

「遠くにいっちゃうかもしれないんですよ?」

「かもな。でも樫野宮もこうして学校に来てて普通に接してるし、大丈夫なんじゃないのか?」

「んもう、分かってないんですから。今まで幼馴染だからって近くにいたかもしれませんけど、これからは大勢のファンを相手にするんですよ?特別扱いなんてされないかも知れませんよ?それに……」

「それに?」

「これは隠しようがないので話しますけども、週刊誌がもう木下先輩のことを嗅ぎつけてるらしいんですよ。私の周りでも木下先輩と小泉先輩の間柄について探りが入っているみたいですし。なので、付き合ってるんじゃないのかーっていう噂も勿論伝わってると思うんですよ。もしドラマがヒットしたら木下先輩も今まで通りの生活が出来なくなるかも知れませんよ?」

「大袈裟だなぁ。たかが幼馴染でそんな事になるはずないだろ」

「先輩……。あのドラマ枠から芸能界に入っていった女優さんのラインナップ確認したんですか?」

「いや?そんなに凄いのか?」

「凄いなんてものじゃないですよ。ほら」

 そう言って碧ちゃんはスマホを見せてきた。例のドラマの番宣的なサイトのようだ。そこには歴代ヒロインの名前と写真が並んでいたけども、名前までは知らないけど顔は全員知っていた。芸能界に疎い僕でも知ってるくらいだ。かなりの有名人なのだろう。そんな世界に涼香がなぁ。

「確かに凄いな。でもこれって涼香に物凄いプレッシャーがかかるんじゃないのか?」

「だと思いますよ。だから木下先輩の支えが必要になると思うんですよね。でもそうすると……」

「週刊誌の餌食になるって算段か」

「そうなんですよー」

「まぁ、なるようにしかならないだろ。でも涼香には僕の家には来ないように言っておいた方が良いかも知れないな。でもそうすると晩ご飯どうするんだろう」

 そうだ。僕の家に来ないとなると涼香は自宅で独りご飯を食べる事になる。料理は筋金入りのヘタクソだから自炊はしないだろうし。

 

 なんて思っていたら、その日の夕方に涼香は僕の家にやって来た。

「まったく。週刊誌が狙ってるって話だろ?良いのか?僕の家に来たりなんかして」

「問題ないって証明すれば良いんでしょ?それなら簡単だから」

「どうするんだよ」

「最初から週刊誌にきーちゃんの存在をバラしちゃえばいいんだよ。下手に隠そうとするから、あらぬ疑いがかかるってものですよ。と言うわけで、来週の木曜日、ドラマの発表イベントがあるからきーちゃんも一緒に来て」

「んー。でもそうするしかないかぁ。でも男がいるとか書き立てられたらどうするんだ?」

「きーちゃんはそうなりたいの?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「ごめん、意地悪な質問した」

「別にいいけど……」

 

 とは言ったものの。涼香と僕は一体どんな関係なんだ。晩ご飯を食べる程度の仲?それとも……

 

『私、きーちゃんのお嫁さんになる!』

 

 昔の涼香のことを思い出してしまった。僕はその光景が脳裏に焼き付いてしまって髪を掻きながらお風呂に向かった。

「お嫁さん、かぁ」

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