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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

トンデモ総理 ~秘書と見る“表現の自由”~

作者: はらぐろ せきれい

 画面の中で、女が問う。


『総理! X国の核実験について、どう思われますか!?』


 国会中継の、画面が切り替わる。マイクの前に、恰幅(かっぷく)のいい男が歩いてきた。


『X国の核実験? あぁ、フ●ッキンボケカスう○こ垂れチ●コもげろ、って思ってますよ』


 男の答えに、議場はざわつく。


『いよっ! よく言った!!』

『バカヤロー! 言い方考えろ!!』

『最っ低……! 下品すぎる!!』

(わり)ぃのはX国だろ、総理じゃねえ!』

『それでも総理の器かよ!? ふざけんな!!』

『……静粛に』


 ヤジが飛び()う。議長の声もかき消されんばかりだ。


「あぁもう! そういう言い方はやめろ、って散々言ったのに……!!」


 画面の前で、僕は頭を抱えた。

 国の代表者として、あるまじき発言だ。もっと他に言い方があるだろう。


「誠に遺憾だ」

「最も強い言葉で非難する」


みたいな。

 もうちょっとこう、総理大臣としての自覚を持ってほしい。


 けれども難しい。彼を今の地位に押し上げたのは、まさにその“失言癖”だからだ。



 ◆


 第128代内閣総理大臣、豚田(とんだ) 王平(おうへい)。彼は僕の腐れえ……失礼、(おさな)馴染(なじみ)だ。

 乱暴な悪童(わるガキ)として、地元では有名だった。正直、あまりいい思い出はない。

 そして、今は僕の上司でもある。

 5人いる、議員秘書の1人。ただし、僕は一番(した)()だから、ほぼ雑用係だ。不満はないけど、疑問は常にある。


「なんでアイツは、大卒のデキる人たちの中に、高卒の僕を()()んだの……?」



 1つだけ、心当たりがある。出自だ。

 今、日本人の7割は公立中学の卒業生だ。“一般常識”とか“庶民の感覚”なんかは、僕ら「こっち側」の価値観だ。

 一方、「あっち側」――優秀な人たちの9割は、“私立中高一貫校”の卒業生とされている。前の総理とか、昔アメリカのプロ野球で大暴れしてた人とかね。

 するとどうなるか? 極端にいえば「あっち側」……世間知らずの、非常識なお金持ちだけが偉くなる。

 そんな世の中だと、最近まで言われていた。


「不平等だ! もっと庶民を出世させないと!!」


 “庶民の声を政治に!”って動画で、そう叫んでた偉い先生。ズレてるなぁ……と思ったら、やっぱり「あっち側」の人だった。

 そうじゃないんだよ、先生。偉くなっても、「黙れ」で終わりじゃ意味ないでしょ……。


 ……そんな息苦しい世の中に、“豚田総理”は現れた。誰が呼んだか、「庶民上がりのヤンキー総理」だってさ――



 ◇



 画面は再び、質問者の女性議員に切り替わる。


『総理。あなたが先日上げた動画が、炎上しています。その中身についてお聞きしたい! あれは“焚書(ふんしょ)”ではありませんか!?』


 総理が答える。


『あれは“現代アート”です。パフォーマンスであって、“焚書”じゃないと考えてます』


 動画のタイトルは、「【黒歴史】昔書いた本を燃やしてみた【自分で処分】」。中身はお察しください。自虐ネタだ。

 これを、「表現規制だ!」「日本終了」などと騒ぎ立てた人たちがいる。

 アホらしい。不愉快なのは分かる、けど“作品を守る”のと“表現の自由”は別物だ。作品をぶっ壊すパフォーマンスも、表現の自由に含まれている。

 昔流行(はや)ったらしい「名画にスープ」とかね。あれ環境運動なんだって。どこが地球に優しいんだろ?

 洗剤……??


『お言葉ですが総理、ネットではそう思われてはいませんよ? たとえば“豚田総理は検閲を復活させる気だ!”とか、“本を焼くなんて低俗な行為がアートだなんてありえない!!”とか、色々心配されております。総理は本気で、表現の自由を守るおつもりですか!?』


 バカかこの女ァ? アンタもその人たちも、まともに動画見てないでしょ。見てから文句言え。


『お言葉ですが、私がやりたいのは“表現規制の規制”です。“表現の自由を守る”なんて言ったことないですし、そんなの誰にもできないと思いますよ? 人工知能(エーアイ)なんかと違って、人は誰でも“ムカつく表現”がありますから』



 表現規制の規制。いや、表現規制の緩和というべきか。カッコよく言っているがこの男、エロい動画を無修正で見たいだけだ。

 外国行けバァカ!


 ……まあヤツの性癖はともかく、それぐらい“人は気持ちで動く生き物”なんだな、と。

 理屈じゃないんだよ、どれだけ理屈っぽい人でもね。たとえば……


「理論通りになると、めちゃくちゃ気持ちいいんだ!」


っていう快感とか、


面倒(めんど)くさいけど、仕事だからね……」


っていう義務感なんかが、彼らを動かしている。

 表現の自由/規制でも、そこは変わらない。


「表現の自由が名作を生む。規制なんか要らん、邪魔なだけだ」

「教育上よくない、全部規制しろ」


 ……なんて理屈は通らない。

 ある作品を、見て怒る人もいれば、禁止されて怒る人もいる。


「いや……どうでもよくね?」


って人もいる。

 あるいは、


「作品をぶっ壊す、面白ぇじゃん!」

「いや勿体(もったい)ないでしょ~」

「正直どうでもいい……」


 ……とまあ、色んな人がいる。その中で、アンタは何を大事にするのか。それを守るために、どんなルールが必要か。

 あとはバランスの問題、そこを話し合え、って話だ。



 ◇


 またまた、画面は質問者の女性に切り替わる。


『最後に総理、今日の週刊誌で報じられた女優Aさんとの不倫についてですが……』

『マジですすみませんでした』

『……素直!』



 ……はい。僕からは以上です。



 お読みいただき、ありがとうございます。

 某所で「対戦型SNS」なる文字列を見て書きました。それがどうしてこうなった……?


 自由はいいんですが、無法地帯は勘弁してほしい……と、私は思います。



【追記】一部修正しました

(2025/04/08)



 あと、

「面白かったで!」

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