化け疑惑
殺気立つ調達組を宥める為に商人モードのスル・メが
報酬の見直しと言う餌でクレーム対応をしている。
お尻を痛めたデデさんは宿舎の自室で早々と眠りについた。そして俺はメアリーさんにトラブルが多いと、お説教を受けている。姫様は…見張り塔からお星さまを眺めている。今晩こそ聖剣を見つけるそうだ。是非頑張ってもらいたい。
「それで、この荷台は何よ!」
砦の入口付近に置いた荷台を指差したメアリーさん。俺は事情を必死に説明した。
「あんたが盗賊じゃないの…」
見知らぬ人達を吹き飛ばして荷台を持ち帰った。これの何処が盗賊なんだ。俺の訴えにメアリーさんは間髪入れずに「全部」と答えてくれた。
全部なら…仕方がないから認めようと思う。
しかし、この荷台は人語をあやつる。これを知った時のメアリーさんは驚くに違いない。
やはり、何事にもカラクリはあるものだ。俺が詐欺られた側に属す者なら、詐欺する側に惹かれてしまう体質があるのかも知れない。自身では詐欺られた事に怒りを覚えているのに、また騙されてしまった。
しかも今回は、口車に乗せられたわけでもなく、自らの意志で詐欺荷台を引いてきた。
これがバカさ故の過ちなのだろうか。
学がないとわかっていて、難題に己の知識だけで挑もうとする。知る事の道筋を狭めて自己解決する愚かな、
無知の男…それが今の俺だ。
話す荷台。それのカラクリは荷台の布で覆われた鉄製の4面の箱。その1面は牢屋の入り口のような造りをしている。その中にいる人、おそらく女性だ。その子が、話す荷台の正体だった。
「あのさ。たぶんこの荷台…奴隷商の物よ。」
メアリーさんは、檻の中で身体を丸め背中を向けながら怯えている女性をみながら、次から次とトラブルばかり持ってくるとブツブツ呟いていた。
「鍵…あるわけないか。」
なぜ、これも呆れられるのだ。メアリーさんが鍵がなくて檻を解除できないと言うから俺は檻の1面を斬り捨てた。これなら簡単に出入りができる。
「斬鉄を簡単にしないの。」
斬鉄って何。メアリーさんは俺の質問を無視した。出入りが簡単になったのに檻の中の女性は出てこようとしない。それに何か話しているが良く聞こえなかった。だから俺は自らの意志で檻の中に入った。さすがに2人だと窮屈なスペースだが、自分の意志で決めた事だから、俺は窮屈を受け入れた。
「俺の名前はカイロ。君の名前は…荷台の語り部さんかな?」
破損した小さな檻で密着しての自己紹介。彼女の怯えた瞳が緑色の長い前髪から少しだけ見えた。
「………………だめ。」
だめ?。彼女は俺に何か話しているのだが、最後の方しか理解できない。
「……………を…して。」
やっぱり理解できない。こんなに近くにいるのに、言葉が通じないのは、何とももどかしいものだ。しかし、俺の言葉はわかっているらしく、話しかける度に長い髪の毛の間から見える耳先が僅かに動く。しばらく話しかけて見たが彼女は最終的に顔を埋めてすすり泣いていた。
俺には対応ができない。だから俺は檻から出ようとしたのだが、すすり泣いている彼女、俺の手を握り離そうとはしなかった。
俺はメアリーさんに目線を向けた。しかし、彼女は両手を広げて首を傾げる。言葉が通じないのはどうしようもない。そんな意味が込められているのだろう。
俺の手を離さない彼女。しかし、言うことは理解してくれた。檻から出て俺の手を握りながら周りを不安そうに見渡している。
「この娘たぶんエルフ族なんだけど…なんか少し違うのよね?」
メアリーさんの疑問は姫様が解決してくれた。
姫様はお星さまが見えない時間から空を見上げ、聖剣を探していた。今回も見つけれなかった事を落ち込み、宿舎の片隅で商人から購入した半皮紙に反省点を書き纏めていた。さすが教養がある方だ。
「その方…おそらく森エルフの方です。文献で描かれていた姿に似ています。」
森エルフ。エルフ族は人族と交流がある。人口は人族より少ないがエルフ族は国をもち、人族との交易と技術交流など互いに協力を惜しまない。千年前の魔族との戦争も人族と共に戦い抜いた。人族のように恩恵はない。しかし、長寿で、博識。さらにマナと呼ばれる大地の力を体内に取り込み魔族の魔法に近い術を使用する。
そして、森エルフはエルフ達より全体的に小柄だ。そして数も少なく、森の中で暮らしている。マナ術も使用するがマナ量は少なく、狩猟は力技に頼る傾向がある。しかし、希少種の為に実態は正確には解明されていない。
「でも、言葉は共通ですわよ。この世界が誕生したときから知恵のあるものの言語は神様より与えられた大事な共有文化ですもの。」
言語統一。しかし、彼女の話す事が理解できない。試しに姫様の羊皮紙に言葉を書いてもらったが、やはり全ては読むことができない。
エルフを見た事はない。しかし確かに小柄な見た目をしている。輪郭を隠す長い緑色の髪。横から見える偶に動く耳先は鋭く、前髪で見え隠れする瞳は前髪を持ち上げおでこを出して見てみても睫毛が長く瞳を俺にしっかり見せてはくれない。少し垂れ目で眠そうにも見えるが、森エルフを初めて見ているから、種族性なのか個性なのかはわからない。あの詐欺時代に寒さ対策で避けまくった雪のように白い肌。小さな唇は、まだ俺に話しかけている。理解はできないが、唇の必死さは伝わってきた。
本当に力技で狩猟するのかな。筋肉質には見えないし、手は子供の手のように小さく可愛らしい。
所々ほつれた、泥が目立つ白い1枚仕立ての服。何処となく良いものにも見えなくはないが、泥汚れが目立っては台無しだ。
だから俺はスクロール恩恵洗浄で彼女を洗ってしまった。びしょ濡れの彼女だったが俺の手は離さない。
小柄なのは分かるが、女性的なものは大層なものだった。幼くも見える彼女にたいし、あの詐欺女神を超えてきそうな膨らみ。はっきり言ってメアリーさんも姫様もお話にならない圧倒的大盛り感。
この娘の言葉はわからない。
文字は所々が理解できない。
読めない…文字?
もしかしたら文字化け詐欺被害者かもしれない。俺以外にも被害者はいたのか…
もう確認するにはあれしかない。
「貴女は聖剣を欲しますか?」
びしょ濡れの彼女は俺の手を離さない。そして俺を見上げながら、伝わらない言葉を発した。
「……け………しい。」
俺は彼女を抱えて宿舎が出た。俺の砦内での走りは彼女の濡れた服を既に乾かした。
聖剣に対して俺は証拠を残さない。広場のスル・メ達が認識できない走力を惜しみなく披露し、撹乱をさせ、見張り塔の地下に侵入した。
そう、今宵の聖剣は牢屋を聖なる牢屋へと導くのだろう。




