頑固者
「私…【A】ランク冒険者なんだよ。」
俺はギルドを出て街の中を歩いている。そして隣りにはメアリーさんが項垂れながら歩いている。その手にはマイク教官からの手紙があった。
「いつまで泣いているのですか?」
痛くない。けどまた殴られた。誰のせいよ。と言われても朝から部屋に押し寄せ連れ出して訓練所で喚き散らすメアリーさんの自分せいと、俺は思っているが彼女には言わない。
あの詐欺女神に教育されたんだ。俺は懐の深い男だ。
「こんなの…追放じゃない。」
街の中を見るのは最期かも知れない。
「ちょっと寄り道…します。」
俺は、13年間下働きさせてもらったマグレシアンの鍛冶屋に足を向けた。
「オヤジさん…あの。」
店主のマグレシアンさん。あの雑貨屋のお婆さんが言っていた。有名な鍛冶職人。でも俺はほとんど会話をした事がない。運搬作業に倉庫の管理。近くに居ても工房に入浸りの店主とは顔を合わせるのが少なかった。
暑い室内で自身と同じくらいの金槌を打ち付けているマグレシアンさん。相変わらず外まで響く金属音だ。
「行くのか。」
入口にいる俺を見ようともしない。興味がないのだろう。
「冒険者になりました。…それで、街をでます。」
良かったな。そう言いながら金槌を振り下ろすマグレシアンさん。ここを出たらもう会わないのだろう。13年間も世話になったのに、まともに会話もできないなんて
なんだか寂しいが、そのくらいの関係性だったのだろう。
「その腰のなまくらで良いのか?」
借りている剣の事がばれている。俺は急いで剣を外し部屋の机に置いた。
「お前には、この剣が似合う。」
そう言いながら金槌を置き、奥の部屋から剣を持って出てきたマグレシアンさん。こんなに小さなお爺さんだったかな?
「久しぶりに、ゆっくり顔をみたな。13年か、デカくなったな坊主。」
紅く輝く刀身。明らかに倉庫の剣達とは違う。
マグレシアンさんは、顎髭を触りながら刀身を眺めている俺をみて目元が緩んでいた。
「魔喰らい…名前は坊主がつけろ。その剣は魔力を喰らう。お前に、似合いそうだから戯れで打っただけじゃ…くれてやる。」
隣りでメアリーさんは伝説級だ。と独りで騒いでいた。
別に剣なんて何でも良かった。でも俺の事を思っていた人がいたと思うと、涙がとまらなかった。
涙を見たマグレシアンさんは振り返り奥に向かい、再び金槌を打ち付け始めた。
「泣くやつがどこにいる。お前の冒険は始まったばかりだろう。」
金属音が響く中、俺はマグレシアンさんの背中に深く頭を下げた。感謝と別れを告げるために、そして扉から出ようとした時、また金槌音がとまった。
「おい坊主。…カイロ。ここから馬車で数日走った所に新しい街ができたそうだ。…聖剣に守られた街と呼ばれている。別に俺の剣が世界一だとは思わん。でもなぁ、
聖剣と呼ばれる剣があるなら、見てみてぇ。俺は年寄りだ。だからお前が見てきて俺の剣と比べてくれや。マグレシアンの剣は聖剣に敵わねぇかってよ。そして、必ずここに答えを知らせに帰ってこい。」
その言葉に俺は何も言わなかった。
鍛冶屋を出たときにメアリーは俺の顔を覗きながら嬉しそうに言っていた。
「また、帰ってこいだって。」
懐の深い俺は懐の浅い女の冷やかしなどは気にしない。
「ぷぷ。また泣いている。28歳のくせに。」
この日の金槌の打ち付ける音は力強かった。俺が街を出るまで金属音が聴こえてきた。
「ふん。カイロ。お前は俺の最高傑作でも迷惑をかけてしまう程の強さなんだよ。全く鈍感な勇者だな…」
マグレシアンは思い出す。
彼はドワーフ族。歴代の勇者と呼ばれた英傑達に沢山の武器を打った。代替わりする英傑達は彼を頼り、マグレシアンはそれに応えた。彼の武器なら魔物も魔族も打ち倒す。そして同じ人種すら斬り伏せる。嫌気がさした。命の取り合いに。同じ者が造った武器で互いに切り合う暗闇に。
それでも誰かが争いを終わらせてくれるかもしれない。
そんな僅かな希望が、工房の窓から見える倉庫前で素振りをしていたのを…




