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詐欺女神1

「本当に新人で良いんだな?」


俺は、13年遅れて本日晴れて冒険者になれた。同期の奴らのなかには既に自身のクランを運営する者もいるしSランク冒険者と呼ばれている奴もいる。


冒険者になるだけなら比較的簡単だ。15歳の時に女神から与えられる【恩恵】と冒険者ギルドで教官と立ち合えば良いだけだ。


戦闘向きなスキルの者なら勝ち負け関係なく冒険者ギルドで教官と立ち合うだけなんだ。


だから冒険者になるだけなら簡単だろう。


でも俺は13年も必要だった。冒険者になるだけなら簡単なのに冒険者になるだけまでに13年も時間を使ってしまった。


本当に、あの詐欺女神だけは…許さん。


別に有名な冒険者になりたかったわけではないんだ。

もちろん憧れはある。昔から学はない人間だと思っていたし、考えるより身体を動かす方が好きだった。


あの15歳の【恩恵祭】の時に天界から女神達が降り立った。俺は朝早くから教会前に並んで有名女神の恩恵を受けようと浮き足だっていたが、新設教会が会場だと知らずに旧教会前で待機していた。これは後から知った事だが、俺の人生はこの時に大きく狂いだした。


朝早くから並んでいたのに他の同期は誰も来なかった。そして、いつも響く教会の正午の時間を知らせる鐘が遠くから聴こえてきた。この時点で気がつければ良かったが、あいにく学がない。だから俺は旧教会の扉を自ら開けた。


薄暗く眼前に見えるステンドガラスには日を遮るように布が覆われていた。教会内の備品も乱雑だった。

僅かに漏れる隙間からの光があの詐欺女神を神秘的に演出するから俺は場所を間違えた事に気がつけ無かった。

観察力も足りなかったが、【恩恵】という餌には勝てなかったのだ。


不思議な事に俺はあの詐欺女神を何も疑わなかった。俺の学がないのも原因だったかもしれないが、詐欺女神の話術が上手かったのだろうな。結果、13年騙されていたのだから。


「我は女神スフィア。我の恩恵を望む者よ。我を信じ我が手に忠誠を誓いたまえ。さすれば汝の未来に光を示さん。」


俺は何の疑いもなく詐欺女神の手をとり頭をたれた。俺の手は温かくなり女神様の恩恵が身体に流れ込んできているのを感じる事ができた。


「こ、これは…」


未だに思い出す。あの詐欺女神の「この世を統治する者の恩恵である。」と言いながら驚きを表現したあの顔を。


学がない俺は凄い恩恵を授かったと、あの詐欺女神の前ではしゃいでしまった。


そしてあの詐欺女神は続けたんだ。


「この恩恵は語にできず、我が神力を持ってしても型を成すまでには及ばぬ。汝の力を注げよ。さすれば世界の理を知り…汝は神をも統するだろう。」


俺は理解ができなかった。困惑する表情をみて、あの詐欺女神は適当なホコリまみれの机を準備し旧教会の片隅で説明を始めた。


もうこれが詐欺の手口だった。


詐欺女神は笑顔で俺に口調を崩して俺の気持ちを弄んだ。


「お名前は?……カイロ君ね。フルネームは?…あらそう。孤児だからわからないのね。大変だった?でも大丈夫よ。貴方の恩恵は文字化けしているの。理由はね、とんでもなく凄い恩恵だからよ。でも…今はまだカイロ君には合わないかな。もちろん文字化けを解除したらカイロ君の力になるわよ。辛い思いを忘れるくらい凄い力よ。」


どうしたらいいのか。俺は詐欺女神の言葉に食い付いてしまった。


「どうしたら?…それは魔力よ。でも私達女神は魔力を保たない種。だから魔石が必要なのよ。カイロ君の魔力は小さいから魔石で持ってきてくれたらあとは女神の私が対応するわよ。だって、こんな素晴らしい力の持ち主のカイロ君…応援したくなるじゃない。本当は女神の私欲は禁忌なのだけどカイロ君は特別よ。」


魔石とは主に魔物を倒し体内からとりだす結晶石だ。

武器や防具にも使用されるが魔石の一番の効力は魔力の底上げ効果があることだ。しかし魔石を食べる事ができるのは魔族や魔物達だけだ。人間は道具以外では使い道がない。魔族や魔物は人類の敵だ。巨大な力のある魔族は魔王と呼ばれている。魔族は同種同士でも殺し合いをする。負けた相手の蓄えた魔石を喰らい自身を強くする為に。そして人間は魔族の力を押さえる為に魔石を管理する事を重点的にしている。


この時が最後の分岐点だったのだ。そして俺は間違えたんだ。


この日から俺は魔石を詐欺女神に渡す事を生業とし13年間を過ごした。


魔物を倒し、魔石を手にいれる。しかしそれは【恩恵】を与えられた。冒険者達の仕事だ。恩恵無しの者は冒険者にはなれない。だから徒党も組めなければ依頼書の任務許可もおりない。だから俺は鍛冶屋で下働きをした。

鍛冶職の恩恵がないから、工房での仕事は無かった。もっぱら材料石の運搬がメインだった。そして夜に街を出て魔物と戦った。働いていた鍛冶屋の店主は結構な頑固者だった。他の店なら店頭に並んでも良さそうな業物もこの店では店主が納得しなければ…倉庫行きとなる。


だから武器には困らなかった。店主は頑固者だが在庫管理は上手い人物ではない。俺に任せっきりだった。

そして俺も学はない。店主はそれを見越して任せていたのだ。だから剣が数本減っていても特に追及は無かった。


薄い布地の服。一般的な服だが魔物との戦闘では非常に心許ない装備だ。剣術に関しても師はいない。しいて言えば冒険者や騎士達が鍛冶屋の武器をとり素振りや試し斬りを見ていたのが、俺の剣術の師だろうか。理を理解できる学はないから俺は仕草をひたすら真似た。


初めて魔物を倒したのは、あの詐欺女神と知り合って1年が経過した頃だった。詐欺女神は天界には戻らず街に滞在していた。こんな事は通常あり得ない事なのだが、

詐欺女神は俺の恩恵の開花を最期まで見届ける女神務があると言った。


それを俺は信じてしまった。そして詐欺女神は俺の泊まる宿に居座り俺が鍛冶屋で稼いだ僅かな金を搾り取り、

生活していた。偶に酒場から出て来るのを見かけたが知らぬ男が腰に手を回していた。俺は天界からの護衛だと思い知らぬふりをした。


詐欺女神が俺の金を搾り取る為、身体の成長に対して服の買い替えが困難だった。だから俺は最低限の人間らしさだけ残した。下半身は履くが上半身は年中裸で13年を過ごしたんだ。

服がなければ己の筋肉を纏うのみ。

俺は気候に負けぬように日々身体を動かし鍛えた。真冬は特に辛かった。肌に触れてくる雪に当たらぬように躱しながら運搬作業や魔物退治をした。辛かったが流石に13年続けたらもう雪に当たる事は無くなった。




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