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【完結】廃れた世界のリボルバー  作者: 恋若スミレ
嵐の前の静けさ?
7/30

7.次の戦いに備えろ。

『緋夏汰、やっぱお前のノリにはついていけないな…でも一応、()()()()、ヒナ』



「おかえり、ササ」


どちらも何も言わない。ただ互いを見つめ合っていた。


「あのさ…」


先に口を開いたのは、緋夏汰だった。


「お前、なんか変わった?…いや悪い意味じゃなくて、なんか…こう、うーん、言葉にするのが難しい!」


「なんなんだよ、全く。言いたいならはっきりと言葉にしなさい」


「仕方ねーだろ!俺は座学の成績は下から数えたほうが早いんだ!」



『あらあらあら、仲が良いのは美しきこと。でももう少しだけ静かにしましょ?』


自分の真後ろから聞こえた声は、美しく透き通っていて、どこか艶も感じさせる。


「「咲蘭(さくら)さん!?」」


「…そこまで驚かれるとは思わなかったわ」


彼女の名前は優木(ゆうき) 咲蘭(さくら)。なんか魔性っぽいいつも妖しい感じのすっごい美人さんである。ちなみに同い年。


(ほんとに同い年か怪しくなる雰囲気だな、懐かしい)


「それよりも、ササが生きてたなんて…!私ササのことが心配で夜しか寝られなかったのよ…?」


「十分寝てるよ。問題ない。というか皆私が帰ってこないと思ってたの?」


「まあ、な。もちろん、俺は帰ってくるって信じてたけどよ」


若干含みがある言い方だが気にしないことにする。


「謙島、いるか?…いた」


「どういたしましたか?少将様」


「緊急会議だ。参謀がどうしてもお前に来てほしいとのことでな」


「了解しました」


緋夏汰と咲蘭にまたな、と言ってから少将と一緒に

軍用車で政府軍の本部まで移動した。




 『事件はいつも突然にやってくる。今日は会議に緊急招集された。』


 そう日記に書きつける。日記を書くのは子供の頃からの習慣だ。


(そういえば、目覚めた当初に忘れていたことがあったな…何だっけ?…あ)


忘れていたことを忘れる、という一見奇妙なパラドックスに陥っていたがとうとう思い出した。


(忘れていたのは、自分の名前。というか自分に関することのほぼ全て)


なぜ自分に関することだけ忘れていたのか。深く考えると眠れないような気がしてきたため、今日は寝ることにした。


(明日も戦闘に明け暮れるのか。明け、という感覚ももう無いな。()()()()()()()()()この世界は、いつ終わるのだろうか)


昼。夜。かつては当たり前だったこの基準は、今の時代では役に立たない。空は暗い雲が覆い隠し、雨が降るばかりだ。晴れ、だなんて物は存在しない。もう少し田舎のほうに行けば、まだ昼と夜は存在するがいつまで続くだろうか。1日中暗い世界は、一体いつまで続くのか。誰が終わらせるのか。


(……zzz)


もう脳が限界だ。フリーズする前に私は寝る。




 次の日は朝から騒がしかった。本部から発表された作戦のせいでもあるだろう。


「はよ〜 ササ」


「挨拶はしっかり。はい、やり直し」


「ふたりとも、そんなことしている場合じゃないわよ!早く早く!」


半分寝ている緋夏汰と朝から真面目な私を咲蘭が強制的にキャンプ内掲示板のところまで連れて行く。

そこには今日の作戦の概要が書かれた紙がでかでかと貼られていた。


『今日は白兵戦は行わない。だが遠距離からの攻撃は行う。一般兵は今日は狙撃兵の補助にまわれ』


要約するとそんな感じの文だった。これが兵士たちに動揺を与えているのは、3文目のせいである。

 基本、一般兵は白兵戦(近距離での銃撃戦や殴り合い)のみを仕事にし、狙撃兵の補助というのはしない。きっとほとんどの兵はやったことがないだろう。さらに、狙撃兵の仕事というのは敵に見つからないように敵の将を殺害することだ。いくら優秀な狙撃兵でもターゲットがいなければ撃てない。通常であれば白兵戦で出てきた将を撃つのだが、今日はそうもいかないらしい。


(詳細は朝礼で、とか書いてありますが朝礼の5分間で話すんですか)


朝から攻撃されたらどうすんだろ、と随分と他人事に考えた私であった。




ゴーストビル 二〇階

 我はいつもと同じように礼拝を行い、機械を調整し、作戦会議を行った。いつもと同じはずだった。 

……アラームが鳴るまでは。


「失礼致します教主様!脱走者が出ました!」


その言葉を聞いた瞬間、部屋にいた幹部たちの顔色が変わった。


「馬鹿な!入院室は5階にあり、監視を抜けることなど出来ぬはず!」


「衛兵は何をしておったのじゃ!」


ああ、五月蝿い。静かにせねば誰もが道を誤るというのに。


「落ち着け。皆五月蝿いぞ。…して、抜け出されたということは、差し向けた兵は全滅か?」


「はい…物音に気づいた兵士3人が向かったのですが、皆気絶させられ、我らが発見したときには脱走者はもう居ませんでした」


「そうか、ではその3人の内最も傷が少なきものを殺せ」


「…承知しました。()()()の意のままに」


ふう、戦いもしない役立たずも少しは減るだろう。

一息ついていると、奥の人影が動いた。手を振っている。


「皆外に出よ。ヴィオリエッタ様が我と対話したいと仰せだ」


全員が外に出ると、今まで奥の人物との間にあったレースカーテンがずらされる。


「おはようございます、ヴィオリエッタ様」


「おはよう、お姉さん。なんか疲れているみたいだけど大丈夫?」


金糸の様な髪が、ヴィオリエッタ様の首の動きに対応して、白い服の上をさらさらと滑る。


「少し問題が起きまして。とうとう脱走者が出ました。現在兵士に命じて周辺の建物を捜査しています」


ヴィオリエッタ様はその幼い顔に不釣り合いな薄く妖しい笑みを浮かべた。



『大丈夫。もう少ししたら、あの娘のほうから戻ってきてくれるから。もう少しの我慢。あの娘は"黄金の機界"を栄華に導く者だからね』

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