6.仲間と再会せよ。
『どうやって軍キャンプに帰るかねぇ…』
なんとか街まで出たのはいいが、最終目的地である政府軍本拠地の方向が分からない。
『黄界』本拠地 通称「ゴーストビル」、つまり私がつい前までいた所の周りには似た背格好の廃墟だらけだ。(なぜ"ゴーストビル"なのかというと、周りのツタや電線が髪の毛のようにビルを覆っており、遠くから見たときに幽霊のように見えるからだ。)また方位磁石も捕獲されたときに敵に没収され、手元にはない。方位磁石があっても、ゴーストビル周辺に分布している異常磁場のせいで機能しなくなっている。せっかく建物から脱出できたのにまた捕まれば、今までの努力がおじゃんだ。
(いつまでこのビルに隠れられるかな…?)
現在、私は近くにあったビルの中に逃げ込んでいる。だがこれも一時の避難場所に過ぎない。周りに十分な食料はなく、ゴーストビルにも近いため捕まる可能性が高くなっている。さらに異常磁場のせいで健康にも悪影響が出る。
(一刻も早くここを離れたいけど、周りの状況が分からないんだよね)
その時だった。ゴーストビルを挟んだ反対側から銃声が聞こえた。
(もしかして、戦闘が始まった?)
だんだんと銃声の数は多くなっていき、私の考えは間違っていないと確信した。
(これは、仲間と合流できるチャンスだ)
いま外に出ると、無防備なまま銃撃戦に巻き込まれる可能性がある。しかし方向などを特定しやすく、非戦闘時より早く合流が可能だ。私は30分ほどお世話になった廃墟を後にした。
私がビルを出た頃、一人の男が戦っていた。
(……)
何も考えず、ひたすら撃つ。弾を込める。そして撃つ。弾薬が尽きるまで撃つ。相手がいなくなるまで。
(……!)
どこからか、声がしたような気がした。もう聞けないと思っていた声が。仲間の、あいつの声が。
(…気のせいか)
また、彼はひたすら撃つ作業に移る。それは敵が攻撃を辞めるまで続くと思われた。
(音が近くなってきた…)
私は必死に走っていた。銃声が鳴り響く方へと。どこまでも。先程の隠れ家を飛び出てから一体何分経ったろう。
(もうすぐで着くと信じたいけど、一向に着く気配がない)
音は近くなっているから、政府軍の隊に近づいているとは思うが。
それからまた何分か走った。時折敵兵から隠れるためにビルの中に入っていったが、基本的な進行方向かは変わってないと思う。
変わり映えのない景色は、とうとう終わった。
(あれは、政府軍の旗!)
とうとう見つかった、政府軍。私は、周りに気をつけながらも中央の陣地に向かった。
「第1隊特殊狙撃兵、謙島 幸実、ただ今戻りました」
言った瞬間、そこにいたほぼ全員がこちらを向いた。
まるでゾンビでも見ている様な目だ。
「全員、集中しろ。今は戦闘が最優先事項だ」
威厳を感じさせる声で兵士たちを一喝すると、少将は手招きして、目で椅子をさした。そこに座れということだ。
「失礼致します」
そっと椅子に掛けると、数秒の沈黙の後、少将が口を開いた。
「怪我はないか?」
「はい、至って健康です。ただ、ビルから落下した際に少しだけ左足首を痛めましたが、もう問題ありません」
「ならいい。……ゴーストビルの内部は?」
「少し入り組んだ作りになっていますが、概ね参謀様が推測された造りと相違ないかと」
「どういう点が違う?ここにビルの略図を用意したから、書き込め」
その後も質問に答え、全ての質問が終わる頃には戦闘が終わりかけていた。まあ最後の10分ほどたが、私も戦闘に参加した。
ただ、脱出の疲れで、ある面倒くさいことを忘れていた。
「謙島!?お前マジで生きてたのかよ!?」
「謙島さん…よかった…もう駄目かと思っていました」
「謙島先輩、さすがッス!誰もがもう助からないって諦めてたのに、帰ってこられるだなんて…マジ尊敬ッス!」
…と皆から「死んでたと思った」のオンパレードである。それも知り合い全員に言われる。
(まあ死にそうだったのはそうなんだけど、皆私への期待値低くない?)
とツッコんでいるうちに、一番めんどくさい奴と目が合ってしまった…
「幸実…!お前、生きて、たんだな!やっぱお前の声がしたと思ってたんだよ。あー、空耳じゃなくてよかった〜」
とある男が涙を滝のように流しながら駆け寄ってくる。このなんか熱血(?)な奴は同僚で狙撃兵の熱田 緋夏汰である。名前から熱い。
『緋夏汰、やっぱお前のノリにはついていけないな…
でも一応、ただいま、ヒナ』