僕と君の恋(1)
いつもありがとう。そう言って僕は家を出た。そして、扉を閉めると「はぁ~」大きなため息が零れた。「やっぱり、まだ無理だなあ……」そう呟くと、少しだけ胸が苦しくなった。
僕には好きな人がいる。その人は、僕のことを好きだと言ってくれた女の子で、とても可愛くて優しくて。
僕なんかの側にずっといてくれるような子だった。
だけど、僕はその子に何もしてあげられない。
こんなことじゃ駄目だってわかっているけど、どうしても前に進めなかった。
だから、僕はあの子の気持ちに応えられない。応えちゃいけないんだ……。
「……よしっ!」パンッ!と両頬を叩き、気合いを入れる。今は、学校に行くことが先決だ。遅刻しそうな時間になっているし、急ごう。
「……ふぅ」教室に着くなり、自分の席に座って一息つく。今朝は、何とか間に合ったみたいだ。この時間に登校すればギリギリ大丈夫だと、最近になって気づいたから良かったよ。
それにしても、今日も暑いなあ……。もうすぐ夏休みに入るっていうのに、この暑さは本当に嫌になる。教室を見渡せば、みんな涼しい顔をしているように見えた。
きっと、エアコンのおかげで快適なんだろう。羨ましい限りだよ。……ん?なんだか騒がしくなってきたな。
どうしたんだろう? そんなことを考えているうちにチャイムが鳴り、先生が入ってくる。そして、ホームルームが始まった。「えー、連絡事項は特にありません。それでは、これで終わりますね。
皆さん、気をつけて帰るように」……ふう、やっと終わったか。さて、これからどうしようかな。
「ねぇねぇ、悠くん。この後ヒマ?」
すると突然、後ろの席の子に声をかけられた。「えっと……」ふり返ってみると、そこには見慣れた顔があった。
彼女は僕の幼馴染みで、名前は篠宮楓乃という。昔からよく一緒にいることが多いんだけど、最近は何かと声をかけてくることが多くなった気がする。
「ごめん。ちょっと用事があるんだ」
まあ、大体こういう感じのことを言われるわけだけど。
「そっかぁ……。残念だなぁ……」
でも、今回は違ったみたいだ。何やら悲しげな雰囲気を感じる。……うーん。正直言うと、僕にも予定はある。ただそれは、決して楽しいことでは無いけれど。
それでも一応、彼女に聞いてみることにする。
「あのさ、もしよかったら―――」キーンコーンカーンコーン♪「あっ!予鈴が鳴っちゃった!私、急いで戻らないと!また後でね!」…………。うん。
これは完全に勘違いされたな。仕方ないか。それよりも早く移動しないと。遅れると怒られそうだし。
それから、数分後のこと。
僕は、とある場所に来ていた。その場所とは――屋上である。どうしてここに来たのかといえば、答えはとても簡単だ。なぜなら、ここには誰もいないからである。
ここは普段立ち入り禁止になっていて、生徒達は基本的に出入りすることができないようになっているからだ。
つまり、この場所は誰の目も気にせずゆっくりできる唯一の空間なのだ。ガチャッ。ギィィイイ……。よし、到着。……ふう、やっぱり落ち着くなあ。
ここでなら誰にも邪魔されずに考え事ができるよ。さて、何を考えてるかっていうと――もちろん、彼女のことだ。僕は今、ある悩みを抱えている。
それを解決するためには、まず原因を突き止める必要があった。その原因というのは他でもない、僕の目の前にいる彼女のことである。
「ふぅ……」……改めて見ると、本当に綺麗な子だと思う。容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能と三拍子揃っていて、おまけに性格まで良いときたら文句無しだ。
まさに完璧という言葉がよく似合うと思う。しかもそれだけじゃなくて、彼女の周りには常に沢山の人達が集まっているのだ。
こんな子がモテないはずがない。実際、告白されているところを見たこともあるし。
だからこそ思う。僕なんかには勿体無いくらいの女の子だって。だから、僕には無理だ。付き合うなんて、絶対にできないよ……。
『私はあなたが好き』
「っ!?」……ああ、ダメだ!思い出すだけでドキドキしてくる!「はぁ……」……ほんと、困ったものだよ。こればかりは自分でもどうしようもないんだ。そう。実は僕も、彼女のことが好きなんだ。
だから悩んでいるんだよ。でも、こんなことはもう終わらせないといけない。いつまでも中途半端なままでは、きっと良くないことが起こるはずだから。
だから、ちゃんと伝えよう。自分の本当の気持ちを。
そして、この想いに終止符を打つんだ。「ふぅ~……」
よしっ!覚悟は決まったぞ! そうと決まれば、早速実行だ! 待っていてくれ、楓乃。
必ず君に伝えに行くから。……でも、本当にこれでいいのだろうか? …………いや!今は迷っている場合じゃない!! 決めたじゃないか、自分の意思を貫くって。
だったら最後まで貫き通せ!!!「よしっ!」パンッ!頬を強く叩き、気合いを入れる。こうして、僕の長い一日が始まった――。