表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

第五章 独り言

第五章 独り言


 それに、しても、不思議な話だなあ……?と、桜田真一は思ったのだ。



 確かに、この俺には、入院歴があるのは事実なのだが、それも、アメリカ製の治験薬で、「劇的寛解」した筈だった。



 しかし、その薬は、あまりに、劇的な治験薬過ぎたのだ。



 聞くところによると、脳内のD4受容体:認知や情動と関連している大脳皮質や辺縁系に多く存在し、統合失調症やパーキンソン病の治療薬の標的とされており、行動表現型に関連していると考えられていると言う場所があるらしい。



 統合失調症死後、脳の線条体ではD4受容体が著しく増加している事を示されていたと言うのである。

 ここで、かの治験薬は、この脳内のD4受容体を狙いうちにする薬剤だったと、聞いていたのだ。



 だから、自分も、10年以上も入院していたにもかかわらずに、あっと言う間に、治り、退院できたのだ。



 なお、この治験薬は、そのあまりに、劇的な効果が問題視され、自分の主治医のアメリカでの論文発表後、アメリカの医師会の大きな圧力により、FDAから薬の存在そのものが、握り潰されたのだ。これは、あの人羅景子都議会議員も、そう言っていた筈だ。



 ここで、再度、ここまでの話を、思い出してみよう……。



 独り言だ。



 さて、10年にもわたる入院から、無事、退院できて、フラリと立ち寄ったのは、この東京の世田谷区の「三軒茶屋」の飲食街だった。



 そこに「モリモリ軒」の看板をかけた、一軒の古びた木造のラーメン屋があった。濃厚な豚骨スープと、細い麺が、マッチして、これほど上手いラーメンを食べた事は、人生で無かった。

 店主は、既に70代後半で、一人身であった。



「住み込み店員急募」の張り紙もあったので、行くところも、住むところも無かった俺は、直ぐに、申し込んだ。

 店主は、この俺の素性を聞く事もなく、即、採用してくれた。多分、真面目そうに見えたのであろう……。

 エアコン付きの6畳の部屋を提供してくれた。



 ここで、朝から晩まで、仕込み、面茹で、チャーシューの作り方、水切り、盛り付け等を、一から、学んだ。子供もいなかった店主には、もしかしたら、自分の跡継ぎにと考えていたのかも知れない。



 しかし、この店主は、その後、癌を発症して、入院。

 すると、親戚と思われる数人が駆けつけ、結局、その店主の死を看取ると共に、残った財産の分割協議もしていたらしい。



 そこそこのお金を貯め込んでいた俺は、超安いアパートに転がり込み、次の、ラーメン屋へ、バイト先を変えたのだ。



 その数、多分5軒以上。



 このおかげもあってか、自分で、ラーメン屋を開店できる自信は付いたのだ。ただ、資金が無いだけだったのだ。



 で、開業資金を、政府系の金融機関で、無担保、超低金利で借りた。開業と言っても屋台での移動販売店、つまり屋台だったが……。

 融資担当は、現在、都議会議員をしている人羅景子だった。



 彼女は、この私に、いずれ出番があると言うが……。



 しかし、たかが一ラーメン屋に、どんな、事ができると言うのか?



 よくよく深く考えてみると、不思議な事実の連鎖を、何処か漠然と感じた。



 一つは、入院中に心理療法と称して、何か、催眠術のようなものをかけられたような記憶がかすかに残っていた事だ。いくら、病気治療中とは言え、その中身は果たして、何だったのだろうか?



 次に、不思議に思ったのは、人羅景子都議会議員と自分の主治医とは、親戚関係にあるのみならず、医者には守秘義務がある筈なのに、俺の情報がダダ漏れだったと言う事だ。

 と言う事は、何か、裏できっとつながりがあるのでは無いのか?



 それと、最大の謎は、「クール宅急便」で、「人肉」を送って来たのは誰かと言う事である。新聞や、テレビのニュース番組でも、現在、バラバラ殺人のニュースは何処もしていない。



 一体、何処の誰が、この犠牲者なのか?



 多分、どこかで、殺害・切断し、太もも2本をこの俺に、残りは、コンクリートでドラム缶にでも詰めて、東京湾にでも、沈められたのだろうか……。



 そして、頭に響いた「人肉ラーメン」の言葉だ。俺の得意なのは、豚骨ラーメンと豚チャ-シューである。何故、あのような奇妙な言葉が、急に、頭に響いたのだ。



 主治医は、もしかして、幻聴や妄想なのでは?とは言っていたが、今のところ、入院しなければならない程の、症状は酷くは無い。処方された薬で、十分に生活できるのだ。



 しかし、「人肉ラーメン」とは?何故、そんな奇妙なラーメンを作る必要が、何処に、あるのだろう?

 肉には、豚があるし、牛肉や鶏肉もあるだろうが……。



 ともかくである。



 この問題は、単なる一ラーメン屋だけの問題では、絶対にあり得無い事だけは、唯一、揺るぎの無い事実なのだ。

 何しろ、人間一人は、間違い無く殺されているのだから……。



 しかし、この俺が、どう考えてもれ以上の答えは、出しようが無い。今日は、これで、酒を飲んで寝てしまおう。



 その内に、バラバラ殺人の一部が、どこからか、発見されるかも知れないでは無いか?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ