第十一章 二十一世紀の神話
第十一章 二十一世紀の神話
この状況では、誰が、どう考えても、岡村課長は、絶対絶命的状態だ。
だが、ここで、岡村課長は、気が狂ったように、笑いだしたのだ。
「ワッハハハハ!ワッハハハハ!!!お前らは、この私を、一体、誰だと思っているんだ!
W大学政経学部を、かって過去に無い成績で主席で卒業した人間なんだぞ。こんな事も、全て、折り込み済みだよ。お前ら、皆、馬鹿の集まりか!
もっと言わせて貰えば、今の、警察庁長官は、一体、誰だ?答えてみろ。
岡村浩一だろう。これは、実は私の、叔父さんだ。無論、T大法学部卒のキャリア組だよ。
こんな事は、自分の自慢になるので、今まで、都庁の誰にも言わなかったが、この際、ハッキリ言おう。私の、住所地の区役所にでも問い合わせて、戸籍を調べれば、馬鹿でも分かる事だ。
いいか、私が死んだり、行方不明になると同時に、人羅景子都知事の、例の「路上生活者収容施設」の実態、「人肉ラーメン屋」の真実、「路上生活対策課」の裏の顔、それらの全ての謎が、自動的に、叔父さん(現:警察庁長官)や、マスコミ各社に、行く手筈になっているのだ……。
先ほどの、お前らの話も、田村秘書課長の話も、全て、無線で、ある人間が録音している。この話も、自動連絡されているのだよ。
つまり、ここにいる、お前ら警官3人も、全員、既に殺人罪だろうが……。どうなんだ!」
「馬鹿な、そ、そんな事がありえる筈が、あり得無い」
「田村先輩、私の能力を最も高くかっていたのは、紛れも無い貴方でしょう。
貴方こそが、私の能力をめちゃくちゃ褒めていた筈じゃ無いですか?
その私が、こんな事ぐらいは、想定内の一つとして考えもしなかったとでも思っていたのですか。
これでも、この私を逮捕できるのですか?
あの床柱の上に、黒いプラスチックのカバーが見えるだろう。あれも、防犯カメラで、音声も録音も完全に録音されている。
これでも、本気で、私を捕まえられるのかね」
「ううう、これでは、私は、都知事に会わす顔が無い事になる。この私の命の保証も無さそうだ」
ここで、急に、岡村課長は、今までと違って、トンデモ無い事を言い出した。
「どうも、このままでは、日本版『ワルキューレ作戦』は失敗に終わりそうな予感がするが、これも、やはり運命かも知れないなあ……。私は、この日本版『ワルキューレ作戦』の中止を、後で、仲間の皆に、連絡するつもりだ。
なあ、そこの警官3人よ。私の代わりに、田村秘書課長にをこそ手錠をかけて、例の「路上生活者収容施設」に送り込め。これは、命令だ。
そうすれば、この「人肉ラーメン」の話は、単なる噂話や都市伝説で終わってしまうのだ。
この私は、最初は、本気で、日本版『ワルキューレ作戦』を実行するつもりでいたが、やはり、どうも不可能のように思えてきたのだ。
どう言えば良いのか分からないが、私の、直感だ。
こうなったらば、『人羅都知事毒をくらわば皿までだ』。幸い、私は、まだ、人羅景子都知事知事には、十分に信用されている。その信頼は絶対的だと言っても良い。
私は、ここで、人羅都知事と心中する事を覚悟しよう。
私も、きっと、どこかで人羅都知事と共鳴する部分が、あるのに違いが無いのだ。
あの「ラーメン屋」のおやじのようにねえ。
で、田村秘書課長を、例の施設に送ってしまえ。その代わり、私は、これまでの全ての真実を完全に闇に葬る事を約束する!」
「ホ、ホント、ですか?では、私らの身は安全だと保証してくれますか?」と、警官の一人が、おそるおそる聞いてきた。
「ああ、もうこれ以上の事は言わないよ。
人羅景子都知事は、半分程度は気が狂っているかも知れないが、私も、一時期、自分の保身のために、都議会議員時代に、彼女に屈服している。
もう、「後は野となれ山となれ」だよ!」
「では、田村秘書課長を、もう一度確認しますが、人肉ラーメンにしても良いのですか?」
警官の一人が聞いたが、岡村課長は、ハッキリと首を縦に振ったのだ。
つまり、ここで、一発で形勢逆転、「人肉ラーメン」になるのは、岡村課長でなくて、田村秘書課長になったのだ。
岡村課長は、全てをリセットして、この「人肉ラーメン」の話に、立ち向かう事にしたのだ。
つまり、日本版『ワルキューレ作戦』を中止し、人羅都知事側に付いて、全ての証拠を抹消するのである。
しかし、この時の岡村課長の最終決断が、やがて、日本国を、めちゃくちゃにするのを、岡村課長は、まだ知っていないのだった。
「『二十一世紀の神話』、の始まりだな」、と、岡村課長は、ポツリとつぶやいたのだが。 了




