第89話 Re:2000年11月1日 水曜日 17:00-18:30
木下の家を後にして、アパートの階段を駆け下りていると。
上の階から、ドアが閉まる音がして。
「アキラく~ん!!」
っとアッコちゃんの声が聞こえて来て、上の方から階段を駆け下りてくる音が聞こえ、その場に立ち止まっていると。
僕のことを追いかけて来たらしく。
アッコちゃんが階段の上からヒョイっと顔を覗かせて。
目が遭った瞬間、嬉しそうに僕目掛けて。
階段をジャンプして飛びついて来てしまった。
「ワァ! はぁ・・・追いついた~」
「イヤ、アッコちゃん、危ないから・・・」
「だって、いきなりいなくなっちゃうんだもん」
「あぁ、ちょっと、その、ゆかりちゃんが気になって」
「そっか・・・えっと、そうだよね・・・」
何か、押し入れでイケないモノを見てしまったのか。
アッコちゃんが、少し浮かない顔をする。
「でも、よかった、アキラくんが来てくれて。 本当に助かったよ・・・」
「うん、俺もギリギリだけど。 大事に至らずよかった」
「ふふっ、また・・・」
「なに?」
「大事に至らずって大人みたいな言い方・・・」
「あぁぁ、えっと、そうかな?」
「そうだよ。 もう、たまに難しい、大人みたいな話かたするから」
それから、アッコちゃんと手を繋ぎながら階段を降りながら会話を続け。
押し入れから出れなくなって怖かったけど、ギリギリ俺が来て。
彼女の服を脱がせる寸前で、どうやら間に合ったらしいと、話を聞いた。
「なんか、ちょっとショックだったんだ」
「なにが?」
「えっ? 希美のお兄ちゃんがあんな風に女の人を力ずくで抑え込むようなことしてるの見て」
「ん~ 男が皆そんなヤツってわけじゃないけどね」
「そうなの?」
「少なくとも、俺はアッコちゃんには絶対そんな酷いことしないよ」
「ふふっ、そうだね・・・」
そして、手を繋いでアパートの1階まで降りて来ると。
「あっ、そうだ!」
「なに?」
「アッコちゃん? えっと・・・今週末ってなんか予定ある?」
「えっ? 3連休?」
「うん」
ダブルデートの約束しないと・・・
「えっと・・・日曜日はお父さんとお出かけしないといけないから。 金曜日と土曜日なら大丈夫だよ」
「じゃあ、どっちかデートしない? 秀樹がね、小菅のことデートに誘いたいらしくって。 ダブルデートはどうかって言うの?」
「えっ? ルナと?」
「うん、まあ、向こうがどうなるかまだ分からないんだけど。 仮に向こうがダメでも、二人でデートしたいなって・・・」
「うん、イイよ! デートしよう!」
「じゃあ、約束ね?」
「うん、楽しみしてる♪」
木下のアパートを出ると、そのままアッコちゃんの棟へ向かって歩き出し。
アコちゃんをアパートの入口に着いた。
「じゃあ、アッコちゃん。また明日・・・」
「うん、今日は本当にありがとう。 また明日ね。 バイバイ」
アッコちゃんと別れた後、アパートの脇に停めていた自転車に飛び乗ると。
ゆかりちゃんを追いかけて、立ち漕ぎで公園の方へと向かった。
11月に入り、紅葉に染まったた木々から落ちた葉っぱで、真っ赤になった公園の中をゆかりちゃんを追いかけて自転車を漕いでいると。
さっきまで、秀樹達がいたブランコに、ひとり浮かない顔で座っている女の子を見つけた。
自転車の速度を緩めて、ブランコへ近寄って行くと。
もう、太陽が沈みかけた公園で、ゆかりちゃんがひとり、ブランコに寂しそうに座っている姿を見つけてしまった。
そんな彼女を放っておけるはずも無く・・・
ゆかりちゃんの傍まで歩いて行くと、彼女へ向けて声を掛けた。
「ゆかりちゃん?」
それまで、俯いてガクっと項垂れていたゆかりちゃんが、僕の声を聞いて、びっくりして顔を上げて来た。
「えっ? あっ、アキラか・・・」
今に泣き出しそうな顔をして、僕の名前を呼ぶゆかりちゃんを見て、僕まで胸になにかが込み上げてくる感覚を覚えてしまい。
それでも、必死に笑顔を作って、ゆかりちゃんに微笑み掛けた。
「へへへ、なんか変な所、見られちゃったね・・・」
「木下の兄貴と付き合ってたの?」
「ううん、ずっと前に別れたのに。 なんかね、どうしても会って話したいっていうから・・・」
「そっか・・・」
そこまで、話すと僕はゆかりちゃんの隣のもうひとつの空いてるブランコに腰を掛けた。
「もう帰ったら。 寒くなってきたし、もうすぐ日も沈んじゃうよ」
急に隣に座って来た僕のことを心配してゆかりちゃんが声を掛けてくれた。
でも、そんなこと言われて、ゆかりちゃんを1人になんかできるわけも無く。
「イヤ、なんとなく。 隣に誰かいた方が、落ち着くかなって思って」
「何、生意気なこと言ってるのよ。 しばらく見ない間に、大人みたいになっちゃって」
その後は・・・しばらく、何か会話するわけでも無く。
黙って、ゆかりちゃんの隣でブランコをこいでいると。
「アキラ?」
「なに?」
「ありがとね・・・」
「なにが?」
「ううん・・・心配してくるてるんでしょ?」
「別に、そんなんじゃないけど」
「ふふっ、本当に優しいね・・・」
なんて声を掛けたら良いんだろう。
でも別れたのは、かなり前だって言ってたけど。
でも、それって、前に聞いた、無理やり襲われたからなんじゃ?
「それにしても、可愛い女の子二人と遊ぶなんてモテモテね?」
「えっ? イヤ・・・モテモテって。 木下は別なヤツが好きだし」
「ふ~ん、でもびっくりした。 アキラが来て大声で叫んだら、あの子達が急に押し入れから出て来るんだもん」
「あ~ 木下・・・なんかお兄ちゃんの部屋で漫画読むのが日課らしくて。押入れがあいつの定位置なんだって」
「そっか・・・じゃあ、なんか色々恥ずかしい事聞かれてたのかな・・・」
「どうかな・・・」
どうしよう、別れるきっかけが何だったのかとか。
襲われたって聞いたけど・・・
大丈夫だったのかとか、めっちゃ聞きたいのに。
いきなりそんなこと聞くわけにもいかないし。
なにより、こんなにも落ち込んでるゆかりちゃんに、そんなことズケズケと聞けない。
「ねえ? ひょっとして、美姫に私と木下君のこと、話したのってアキラ?」
「・・・なんで、そう思うの?」
「だって、美姫が人の恋愛ごとに口だすなんて変だもん。 それにあの子が、そもそも気づくわけないし・・・」
「えっと、美姫はなんて?」
「えっ? 木下なんかにもう会っちゃダメって。 あまりに唐突だったから、なんでって聞いたんだけど。 なんか適当に、話はぐらかされてさ。 今日アキラと会って、美姫に話してくれたのかなって・・・」
「ごめん、木下の妹から・・・その、ゆかりちゃんが、なんか乱暴されてたって話を聞いちゃって」
「そっか・・・ひょっとして、あの時も妹さんに聞かれてたのかな」
そこまで話すと、急にゆかりちゃんがシクシク泣きだしてしまった。
1カ月前の嫌な事を思い出させてしまったのか・・・
ごめん、ゆかりちゃん・・・
そんなゆかりちゃんの事を放っておけるわけも無く。
僕はブランコから立ち上がると、カバンからハンカチを取り出すと、泣いているゆかりちゃんの目元の涙をそっと拭ってあげた。
すると、えっという表情を浮かべて、僕の方を驚いた顔で見て来るゆかりちゃんに。
「ゆかりちゃん・・・1人にしないから、泣きたかったらその・・・僕の胸でも貸すけど・・・」
「ふふっ、ありがとう。 あいかわらず、優しいねアキラ。 でも、なに? カッコつけちゃってさ・・・」
「だって、いまのゆかりちゃんを1人になんてさせられないよ・・・」
「そっか、ありがとね。 もう・・・本当に君は、なんでそんなに優しいかな?」
「だって・・・ゆかりちゃんのことが好きだもん。 いまでも、変わらず好きだから。 放っておけないよ・・・」
「そっか・・・でも、そんな事美姫に聞かれたら、殺されちゃうね?」
「なんで?」
「だって、あの子、アキラのこと大好きじゃん。 アキラのこと独り占め出来たと思ってたのに、こんな所で、私に・・・」
「美姫は関係ないじゃん。 独り占めって・・・ゆかりちゃんが居なくなっちゃったからじゃん・・・」
「だって・・・」
そこまで話すと、また何か込み上げてくるものがあったのか。
また、ゆかりちゃんがシクシクと泣き出してしまった。
僕はそんな彼女を放ってなくて、泣いてるゆかりちゃんに一歩近づくと、その場にしゃがみこむと、膝の上で握りしめた彼女の手をそって握った。
懐かしいゆかりちゃんの手は、もうすっかり冷たくなっていて、僕はその冷たくなったゆかりちゃんの手を、悲しみと一緒に両手で包み込んだ。
手を握った瞬間、またびっくりした表情で僕を見るゆかりちゃんが、涙を浮かべたままニコリと微笑んで、そのまま僕の頭にコツンと額を付けて寄り添って来て・・・
「なんか、見ない間に、すっかり男の子になちゃって・・・」
「もう、小学5年生だもん・・・」
「こんな、女の子の扱いを覚えちゃってさ・・・」
「扱いって・・・」
「もう・・・キュンってしちゃったじゃない・・・」
「えっ? ほんとう?」
「しちゃったよ・・・このまま抱きしめたくなっちゃうくらい・・・」
久しぶりに会う彼女にキュンとしちゃったと言われ。
前の人生のことを思い出してしまい、僕は1人ドキドキしていた。
懐かしいな・・・また、こうしてゆかりちゃんに会えるなんて思ってもみなかったのに。
こんな形で再会しちゃうなんて・・・
それに、ゆかりちゃんにまた抱きしめたいなんて言われてしまい。
ゆかりちゃんの手を握ったまま、彼女の膝から伝わる温もりで、ドキドキしていると。
「元気だった?」
「元気じゃないよ」
「どうして?」
「だって・・・ゆかりちゃんが会いに来てくれなくなっちゃったから・・・」
「それは、こっちのセリフなんだけどな・・・バカ・・・」
そこまで言うと、ゆかりちゃんはまた黙り込んでしまい。
僕は彼女と額を押し付け合ったまま、その場で彼女に寄り添い続けていた。
ゆかりちゃんの気持ちが落ち着くまでは傍にいてあげたい。
傷ついた女の子を、こんな暗闇に1人になんて出来ないから・・・
太陽が沈んで、辺りは徐々に薄暗くなっていき、気温もさっきよりもまた少しだけ下がって。
ひんやりとした空気が、もう冬が近いんだと感じさせてしまう。
すると・・・
―――クチュッ!
なつかしいクシャミ声・・・
ふふっ、相変わらず可愛いな・・・
「ねえ、ゆかりちゃん? 久しぶりに、僕の家に来ない?」
「えっ? でも・・・美姫がいるから・・・」
「美姫なんか関係ないよ。 僕の部屋に行こう?」
「行っても良いの?」
「もともと、ゆかりちゃんの家みたいなもんじゃん・・・」
「でも・・・」
目線を斜め下に落として、僕から視線を外してとっても寂しそうな表情を浮かべるゆかりちゃんを見て、僕は気持ちが抑えられ無くなり、ゆかりちゃんの手を握っていた片方の手を離すと・・・
ゆかりちゃんの冷たくなった、ほっぺたにそのまま左手を優しく添えた。
「お願い・・・僕が、ゆかりちゃんに来て欲しいんだ。 それに、こんなにも顔を冷たくしてたら、風邪引いちゃうよ?」
「もう、このマセガキ・・・どこでそんな女の子の扱いを覚えたの? もう、こんなに優しくされたら、好きになっちゃうじゃない・・・」
「それで良いじゃん・・・」
「バカ・・・何言ってるの?」
「僕はいまでも、ゆかりちゃんのことが好きだよ」
「嘘ばっかり・・・」
そう言うと、ゆかりちゃんが愛おしそうに頬に添えた僕の手に、彼女の手を重ねてくると。
「後で、嘘だよなんて、許さないんだからね?」
「うん、良いよ。 僕はもう、ゆかりちゃんに嘘なんてつかないから・・・」
「もう・・・バカ・・・」
そう言うと、何かを思い出し様子で、クシャっと顔を崩して、目を閉じて、静かに泣き始めてしまった。
そんな姿を見てしまった僕は、スクっとその場に立ち上がると、ブランコに座ったままゆかりちゃんを優しく抱きしめてあげたんだ。
久しぶりに嗅ぐ、ゆかりちゃんの良い香りに。
昔の色んなことを一気に思い出していってしまった・・・
ゆかりちゃんも、僕に甘えるように抱きつきながらシクシクと泣いていた。
きっと、ゆかりちゃんも、僕と同じなのかもしれない・・・
ゆかりちゃんを抱きしめて、懐かしい香りに包まれて目を閉じていると。
次から次へと、ゆかりちゃんとの思い出を思い出して行き。
同時に、辛い思いでも思い出してしまっていた・・・
それから、どれくらいそうしていたか分からないけど。
気づいたら、もう辺りは真っ暗になっていた。
さっきまで、オレンジ色にぼんやりと染まっていた空も、もう漆黒の青へと変わっていた・・・
「はぁ~ ふふっ、ありとう・・・あきら。 少し落ち着いてた・・・」
「もう、だいじょうぶ?」
「アキラみたいに、こんな風に優しくしてくれる、彼氏だったら、よかったのにな・・・」
そう言って、僕を見上げながら、瞳からポロっと一粒の涙を流して、ニコって微笑み掛けて来た。
僕はそんな彼女の手を優しく握ると、そのままブランコから彼女を立たせると。
「ねえ? ウチに帰ろう?」
「うん・・・帰ろうっか・・・」
そのまま、お互い何も言わず、手を握ったまま見つめ合うと。
なにも言わずに、僕の家の方へ向かって歩き出した・・・
そして、二人で道路を歩いていると。
反対方向から、見慣れたコートを着たJKが、家に向かって歩いてくるのが見えた。
僕等がそのJKを見つけるの同時に、向こうも僕等を見つけたらしく。
なにやら、わめきながら急に走り出して、まるで体育の時間の全力疾走のように、すごい勢いで僕らの方へ向かって来た。
そして、息を切らしながら、僕らの前に姿を現したその子に・・・
「ヤッホ~ 美姫! さっき振り~」
「ちょっ! ちょ! ちょ! ちょ! ちょ! ちょっと! なんで手なんか握ってるのよ!!」
えっ? そこ?
何が起きたか察しろよ、バカ美姫が・・・
「え~ だって、私の新しい彼氏だもん!」
えっ? ゆかりちゃん?
ちょっと・・・何言ってるの?
「はっ!? あんたうちの弟に・・・ちょっと!?」
「ふふふっ、冗談よ。 公園でちょっと落ち込んでたら、アキラに見つかって。 ちょっと慰められちゃってた、へへ」
「アキラが? ゆかりを? アンタ、なんで? ハッ!? ちょっと、あんたさてはまた木下の!?」
「―――ハイ、ハイ、ハイ、その話は後にしよう」
美姫が何かを言いだした瞬間。
それを遮るように、ゆかりちゃんがそう言うと。
しょうがないわねっと、美姫が先に家に入って行き。
僕等も美姫につづいて、家に入っていったんだけど・・・
「ヤバイ!」
「どうしたの?」
「自転車、公園に置きっぱなしだった! ゴメン、二人、先に家に入ってて! 僕自転車取って来る!!」
そう言って、急いで家を飛び出すと。
全速力で公園に駆け出した。
くぅ~ せっかくゆかりちゃんと良い雰囲気だったのに~
なんで、俺はこうもいっつも絞まらないんだよ~!!
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