第71話 こんな不条理ってあるの?
「アキラ? もう体大丈夫なのか?」
「えっ? 俺は平気だよ。 藪に入った時のかすり傷だけだから」
「てか、俺お前がブチギレてるの見て、ちょっと怖かったんだけど」
あ~ あれ・・・見られてるたのか。
あの時マジ冷静じゃなかったからな。
「アッコちゃんは?」
「一応、大丈夫だよ。 ただ、足と腕は怪我してて、顔にもかすり傷があるけど・・・」
「そっか・・・なんかゴメン」
なんか、気を使われてるな。
まあ、聞きづらいよな。
「時に、秀樹の方は告白したの?」
「イヤ・・・ナイトハイクは中止になったから」
そっか・・・まあそうなるよな。
なんか、色々ごめんって感じだな・・・
「それに、るなっちもそれどころじゃなかったっぽいし」
まあ、そっか。
一応、アッコちゃんとも、友達っちゃ~友達だもんな・・・
「なんか、色々ごめんだね・・・」
「イヤ、なんか色々辛いと思うけどさ。もしなんかあれば、俺も協力するからさ」
「うん、ありがとう」
秀樹でこんな感じってことは・・・学校いったらどうなるのかな?
でも、中にはナイトハイクにキャンプファイヤー中止に腹立ててるヤツもいるんだろうな?
「じゃあ、また」
「うん、またね・・・」
はぁ~ 教室入りずらい・・・
―――ガラガラ・・・
教室に入った瞬間に、皆が一斉にこっちを見てくる。
うわ~ 超気まずい・・・しばらく大人しく生きるから許してくれ~
そんな事を考えながら、自分の席に座ると、剛がトコトコ寄って来る。
「アキラ~ ケガってもうだいじょうぶなの?」
「えっ? ああ、俺はかすり傷だけだから」
「アッコちゃんは?」
「アッコちゃんは、まだちょっとかかりそうだよ」
「そっか・・・」
そう言うと、会話が止まってしまう。
なんか、皆に気を使わせてる感じで、すごく申し訳ない気持ちになる。
時間ギリギリになって藤さんが登校してきた。
そして、僕には何も聞かずに、隣の席に黙って座っていた。
なんか、色々聞きたそうな様子だけど。
やっぱり、気を使ってくれてるのがモロわかりだった。
「藤さん、おはよう」
「えっ? ああ、おはよう。 もう良いの?」
「ああ、俺はね」
「あっ、そっか・・・うん・・・」
うわ~ 俺めっちゃ腫れ物扱いヤン。
そう言えば、あの4人は来てないのか。
それから、チャイムが鳴り、ハルちゃん先生が来て。
通常通りの、時間が始まり、何事もなく1日が終わっていった。
「佐久間君? ちょっと放課後、職員室に来てもらえるかな?」
「はい・・・」
まあ、そうなるかなとは思っていたけど。
放課後に職員室へ呼ばれてしまった。
「失礼しま~す」
「オオ・・・佐久間来たか。 ちょっとこっちに来てくれ」
入ると同時に、尾崎先生から声を掛けれ、ソファーが置かれバーティションで囲われた一角へ呼ばれる。 先に俺がソファの手前側に座ると、そのあとすぐ尾崎先生が来て、遅れてハルちゃん先生が来た。
「まあ、あれだ・・・不幸中の幸いというか。岩崎が無事で良かった」
「はあ・・・まあ」
「お前には、何と言って謝罪したら良いのか言葉も無い。 本当にすまなかった・・・」
尾崎先生・・・
「あんな事が起きてしまって、先生方を信用できないのもわかるけど、今度からはあんまり無茶はしないで欲しい。 どうかこの通りだ!」
「えっ!? ちょっと・・・頭上げて先生」
えっ!? なにこれ?
先生二人からイキなり、深々と謝罪されてしまいびっくりする。
「それで今回の件なんだけど・・・ちょっといくつか教えて欲しい」
「ハイ」
「どうして、あんなに準備万端だったんだ? ひょっとして、なんかそういった予感というか兆候みたいのがあったのか?」
「えっ? イヤ、2週間前に小沼から、高橋と川上が公園でなんか相談している姿を目撃して、アッコちゃんがどうこうって会話が聞こえて来たの見たって教えてくれて。 それで、ずっと警戒してたっていうか・・・」
「なるほど、それであの装備だったわけか・・・」
まあ、小さいヤツとはイエ、銀色のキャンプマットなんてリュックにくくりつけて行ったから、違和感半端なかったと思うけど・・・
「でも、あのキャンプマットと、災害シート、それにカイロ? あれで、岩崎の体温が下がらずに助かったって言われて、お前には本当に感謝しかない」
本当は、ホットレモンティーも持ってたから、飲ませてあげたかったけど。
落下でどっか打ってたかもしれないし、下手に体起こして飲ませるのってどうなのって思って辞めたんだよな。
「イヤ違うよ先生・・・それしか出来なかったっていうか。そもそも、事前に防げなかった時点で・・・ダメダメなんですよ俺は」
「また・・・お前はそうやって・・・」
「佐久間君・・・」
だって、実際そうだもん。
落ちて気を失っちゃうなんて全然想定してなかったし。
笛さえ渡しておけば、最悪すぐ見つけられると思ったのに。
「それでな佐久間・・・あの4人のことなんだが。 話してもだいじょうぶか?」
「えっ? ・・・」
―――聞きたくも無い。
でも・・・
「はい・・・」
「一応、警察の方で調査を受けて、いまは児童相談所の預かりになってる」
「はあ・・・」
「溝口は、最初からあまり乗り気ではなかったらしくて、本人も反省しているみたいで福祉的な措置が妥当ということらしい。 それ以外は、実際に岩崎を突き落とした件でまだ時間がかかる見たいなんだが・・・」
なに? なんか歯切れ悪いな・・・
「これから、あの3人については、児童相談所の方で福祉的な措置が妥当か、それとも家庭裁判所へ送致か決まるそうなんだけど。いずれにしても、最終的には福祉的な措置に留まるじゃないかって」
「はぁ!? だって、あんなの傷害罪でしょ? 普通なら裁判して刑務所行きレベルでしょ!?」
「14歳以上なら何らからの処罰があったかもしれないけど。 あいつらはまだ小学5年生、10歳、11歳だから・・・」
少年法ってヤツ?
でたよ! なんだそれ? あんなの一歩間違えたら命落としてたのに・・・
本当にこの国の法律ってなんなんだ・・・
「まあ、怒りたい気持ちになるのも無理はないことだけど・・・ でも、現状の法制度の元ではそういうことになりそうだって」
「・・・ハァ~ で? あいつら? 戻って来るってことですか?」
ヤバイ・・・怒りで・・・手が震える・・・
「本人とご家族がどう考えるか次第だが、最終的な処分内容が出るのにまだ数週間かかりそうなんでね・・・ いまは何とも・・・」
「なんだよそれ? 少年院に入るなりそういうのも一切無いってことなのかよ」
なんだよ! それ! 子供だったんで知りませんでした?
それで済んじゃうのかよ! ウソだろ?
そんなの、やりたい放題じゃないか。
なにをやっても、子供なら、そんな風になるなんて思ってませんでした。
そう言えば全て許されるのかよ?
あんな、心の底から捻くれた連中だぞ!
テイよく反省したフリしているだけに決まってるじゃん!
「お前の気持ちはわかる。 先生だって、アイツらとこの数週間面談して来て、そんなすぐ反省しているとか信じられ無い気持ちだってある。 でも、これが現実だ・・・残念だけどな」
「・・・」
それを聞いて、首を横にフリ、がっくり項垂れてしまう。
先生の話していることが、現状では仕方がないことだって頭では理解できるけど。
どうしたって、感情が追いつかない・・・
「この事はまだ他の生徒には話をしていない。 お前なら、大人の判断が出来るんじゃないかと考えて、今こうやって話をしている。 不条理で納得いく話じゃ無いのはわかってるけど・・・事実だけはお前に伝えておこうと思って・・・」
「はい・・・ありがとうございます・・・」
ダメだ・・・こんなのそんなすぐに受け入れられない。
いくら俺が中身32歳のオッサンだって、こんな不条理なっとくいかない!
アッコちゃんパパにママだって絶対納得いくワケないよ。
「佐久間。 学校側としては、これから最大限のバックアップをするよう努力する。 もう信じて貰えないかもしれないが、もう二度とこんな事を起こさないって先生達も本気だ。 だから・・・」
「ごめん先生・・・今はちょっと冷静で居られ無い・・・ 無理・・・ この先だって納得できるか分からない。 ゴメン先生・・・」
「イヤ、すまない。 納得いかない・・・そうだよな・・・ 本当、すまない」
そう言って、トボトボと職員室をあとにする。
ハルちゃん先生が、玄関まで心配そうについて来たけど。
何か話す気にもなれず、ただ普通にあいさつするだけど学校を飛び出した。
別に復讐したいとか、そんなことまで思わないけど・・・
どうせ、アイツら児童相談所の担当官の前だけ、神妙にしてすいませんでしたとか言って済ますんだろ? アッコちゃんに対して、誠心誠意のある謝罪とかそんなこと絶対しないんだろ?
結局、この国じゃ、なんかされた側はいっつも泣き寝入りなんだよ・・・
被害者側への救済やケアが極端に軽視されすぎなんだ。
ダメだ・・・こんな状態でアッコちゃんに会いになんていけない。
アッコちゃん・・・ごめんね・・・今日はお見舞いに行けない。
君の前で笑える自信ないもん・・・
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