第70話 アッコちゃんのお見舞い
昨日別れ際に、明日は午前中から来いと言われたので、アッコちゃんが大好きなお菓子に暇つぶしのゲームなんかを持参して、お見舞いに来ている。 俺が病室に来てからすぐ、アッコちゃんママは気を使ってなのか、アッコちゃんの着替えやら買い物をしてくるって言って、早々に病室から出て行ってしまった。 なので、いまはアッコちゃんと二人っきりだ。
「うふふふん♪ あ~むっ。 ボリボリボリ、美味しい~♪」
ご満悦だな・・・
アッコちゃん、それ大好きだもんね~
てか、これってそんな前からあったんだな~
2011年にススキノを舞台にした探偵映画の作中に出て来て。
北海道の大スター、あの洋ちゃんが世に広めたことで、空前の大ヒットとなり、一時入手困難になったこの・・・
『北菓楼の北海道開拓おかき』
前に家で、アッコちゃんに食べさせたら、妙にハマっちゃったんだよね~
今日は、札幌駅からバスに乗る前に、駅直結の百貨店の地下で買って来たわけだけど。
「あんまり、たべたら、ママに怒られるよ?」
「え~ だって・・・おかし食べるの2日ぶりなんだもん!」
入院してからずっと食べさせてもらってなかったのか?
「なんで2日ぶり?」
「お薬が効かなくなるからとか言っちゃってさ~ お菓子買ってくれないの!」
そうなんだ・・・
でも、それなのに、俺が餌づけしてよかったんだろうか?
「病院のごはんもおいしくないんだ~」
「まあ、病院なんてどこもそんなもんなんじゃない?」
「でも、塩辛欲しいって言っても、塩分取り過ぎちゃうからダメって言うんだよ?」
「そうなんだ・・・アッコちゃん、けっこう渋い食べ物が好きだね?」
「え~ なんで、塩辛美味しいじゃん」
う~ん 確かに・・・大人になったアッコちゃん。
お酒大好きだったっけ・・・
この頃から、その片鱗が出てきてるのか?
「えっと~ じゃあ、次来る時は塩辛買ってくるよ~」
「本当!? アキラくん、だ~いすき♪ ふんふん♪ ボリボリボリ♪」
あははは・・・こんな所、アッコちゃんママに見つかったら・・・
俺めっちゃ怒られるのかな?
「あ~ でも、塩辛・・・あれが良いな~」
「なに?」
「社長の塩辛っていうの」
あ~ それも、いつぞやテレビで紹介されてから結構人気でたヤ~ツ。
あれって、こんな前からあったんだな?
「じゃあ、今日帰りに探してくるよ」
「えへへへ、楽しみだな~♪ あっ・・・」
ん? どうした?
「アキラくん?」
「なに?」
「なんかしょっぱい物食べてたら~ アイスクリーム食べたくなっちゃった」
「えっ? えっと・・・食べても大丈夫なの?」
「だって、手と足以外全然平気だもん!」
「まあ、そうなんだけど・・・低体温症の後遺症っていうか、その治療みたいのはもう平気なの?」
「低体温症? だって、もう体暖かいよ?」
まあ・・・見ればわかりますよ。
大変、血色が良く、健康的に見えますから。
食欲も旺盛で、元気そのものなんだが・・・
「えっと~ じゃあ、いま隣のサティーで買ってくるよ」
「え~ 良いの!?」
「うん、ちょっと走って買ってくるから、何味が良いの?」
「ポッピングシャワーが食べたい! パチパチするヤツ!」
「あ~ あれね・・・ あったら買ってくるよ」
そう言って、病室を出て、病院隣のサティーへ。
えっと・・・31・・・31・・・
あった!
でも、ポッピングシャワーってそんな前からあったんだな?
「すいません、ポッピングシャワーとそのいちごのヤツをダブルで」
「はい、少々お待ちください!」
俺はアッコちゃんに言われるがままに買っているけど~
はたして・・・良いんだろうか?
アッコちゃんママ、15時に戻るって言ってたな?
ヤバイ、早くもどらないとバレる・・・
「ハイ、お待たせしました~」
「あっ、ありがとうございます」
急げ! 急げ! 急げ! 急げ!
「アッコちゃん~ お待たせ~」
「買って来てくれたの!?」
「うん、ほら~」
「うわ~!! ポッピングシャワー!!」
「早く食べた方が良いよ、もうそろそろアッコちゃんママが戻ってくるかもだから~」
「うん、そうだね! うわ~ パチパチする~ 美味しい~♪」
それは良かった~
はぁ~ 可愛い~
アッコちゃん、天使や~
「アキラくんのは?」
「あ~ 急いでたから、アッコちゃんのだけだよ」
「う~ん・・・じゃあ、一口あげる、あ~ん♪」
えっ? アッコちゃんにあ~ん・・・って。
うう、なんか幸せすぎるかも。
「あ~ん・・・ハムっ」
ん~ 久々に食べたけど、パチパチや~
『アコ~ ただいま~』
えっ!? ゴクリ・・・ヤッバイ・・・
「あれ~ ママ・・・帰って来るの早かったね~?」
「えっ? そう? 思ったより道路が混んでなかったからね。 アキラくん、ありがとうね~ アコのソバに居てくれて~」
「イエ~ 僕は全然・・・」
「ん? クンクンクン・・・ なんか、おせんべいの匂いしない?」
えっ!? イヤ・・・それは・・・
ん? アッコちゃん、ふとんの中に。
えっ? なに? アイコンタクト?
えっ? なに、それ回収しろって事?
アッコちゃんのママと、ベッドを挟んで反対側のふとんの中から、アッコちゃんがおかきの袋をチラチラさせているのをバレないように回収する。
「え~ お母さんの気のせいだよ~ それよりさ~ アキラくんが花買ってきてくれたんだ~ おかあさん、花瓶に水入れて来てよ~」
「えっ? あっそうね・・・ じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
・・・・・・
「はぁ~! びっくりした~ いきなり帰って来るんだもん。 あ~! アイスちょっと溶けちゃってる~!! え~ん!」
「ハハハ・・・ てか、おかきどうしようか? このアッコちゃんのバックの奥に隠しておくね?」
「うん、お願い! もう、アイス急いで食べちゃわないと~」
『ガラガラガラ! そういえば~ アコ~ 何か飲み・・・』
「あっ・・・」
うっ・・・
ゴクリ・・・
「アコ? 何食べてるの? それ?」
「えっと・・・これ? なんだろう? お昼に出て来てたゼリーかな?」
「ふ~ん・・・ 31って見えるけど?」
「エヘヘヘ・・・」
アッコちゃんママ・・・笑顔が怖い・・・
「ごめんなさい! あの、あの! 僕が買ってきて食べてたら、アッコちゃんも食べたいってなって・・・その、その、その! 僕が悪いので!!」
「違うのママ! 私が、アイスクリーム食べたいって、アキラくんに我儘言って! それで!」
「もう・・・良いわよ・・・そこまで食べたんだったら・・・ で? お菓子は?」
「えっ!? お菓子なんて持ってないよ~」
「じゃあ、そのアイスも没収ね」
「えっと、ここです! アキラくん!」
イエッサ~!
「アッコちゃんママ! ここです! すいません! あの、でも、お菓子だめって知らなくて・・・ これアッコちゃんが大好きなヤツだから」
「もう・・・アキラ君!」
「ハイ!」
「なんでもかんでもアコの言いなりになったらダメよ!」
「えっ? イヤ・・・それは・・・」
「そんなことだと、将来、この子に尻に敷かれちゃうわよ!」
アッコちゃんに尻に敷かれる分には全然良いかも~
なんか、それはそれで幸せかもしれないな~
「もう、困った子達ね・・・ 他には隠してないでしょうね?」
「隠してないよ・・・それで全部だからママ」
『コンコンコン』
ん? 誰か来た?
『あら、希美ちゃん? それと・・・学校のお友達?』
『ハイ、アコのお見舞いにきたんですけど・・・』
『ありがとうね~ さっ入って~』
「あれ~!? 佐久間じゃん! 怪我したって聞いたのに元気じゃん! なにサボり?」
イヤ、サボったって言ったって。
今日は日曜日だし・・・もともと休みじゃん!
てか、あゆみちゃん達まで来たのか。
でも、ナイスタイミング。
はぁ~ 一時はどうなるかと思った~
アッコちゃんママに要注意人物認定されたら、アウトだからな。
「え~ みんな来てくれたんだ~ ありがとう!」
「アコ~ もう大丈夫なの?」
えっと、俺も一応は、救急車で運ばれたんだが?
無視ね・・・存在すら気にしてないって感じね?
「う~ん、左腕と右足を怪我しちゃったみたい」
「えっ? 折れたの?」
「折れてはないけど~ しばらく入院って言われて・・・」
「あの後、大変だったんだよ~」
「木下!!」
「なによ!? 佐久間?」
「えっと、その・・・あの後の話とか、そいうのはまだアッコちゃんも聞きたくないと思うから」
俺だって、まだあいつ等の話なんて聞きたくも無いんだから。
アッコちゃんは・・・もっと聞きたくないはず・・・
あいつらがどうなったかなんて、今はまだ聞きたくも無いよ。
「あっ、そうだよね。 ごめん。 アコ」
「ううん。 大丈夫だよ・・・ アキラくんが、昨日からずっと一緒に居てくれたから、だいぶ元気出たし。 さっきもアイスクリーム買って来てくれたし~♪」
「そっか・・・そうなんだ。 それは良かったね?」
てか、やっぱり、こいつってノンデリっていうか・・・
なんなん? 親友ならもう少し気を使うとかできないのか?
その後は、ハルちゃん先生が来て、アッコちゃんパパも来て、病室内で大人同士で話を初めてしまう。
アッコちゃんと二人、なんとなく居心地の悪い空気のなか、過ごしていると、あっという間に、夕方になってしまい、お家に帰らないといけない時間になってしまった。
「じゃあ、アッコちゃん。また、来るからね」
「もう行っちゃうの?」
「アコ! 我儘言わないの! アキラ君だって困るでしょ?」
「アキラくん、わたしと一緒にいると困るの?」
えっと・・・そうい事じゃ無いんだけどな・・・
「アッコちゃんと一緒で困るわけないでしょ。 本当は、ずっと一緒にいたいけど・・・でも、ほら17時になるから帰らないと」
「そっか・・・そうだよね・・・」
あ~ せめて携帯でもPHSでもあればな~っと思ってしまう。
なんとなく、一生の別れのような別れをして、後ろ髪を引かれながら病室を後にする。
「本当に、あなた達って仲が良いのね?」
「えっ? だって・・・彼女だもん・・・」
「イイな~ 先生も彼氏欲しい~」
イヤ・・・ハルちゃん先生?
そんな、生徒の前でそんな、大っぴらな発言を・・・
「佐久間君は帰りは?」
「バスですけど」
「そう、じゃあ先生が車で送って行ってあげる」
「えっ? 良いんすか?」
「良いわよ、どうせ予定なんて無いし・・・」
う~ん・・・この人、意外と自虐が多いな。
それだけの可愛らしいお顔と、ムッチムチのお胸があれば、彼氏なんて速攻出来ると思うけどな・・・
なんとも勿体ない。
「佐久間君は火曜日から学校来れる?」
「まあ、僕は大した怪我もしてないですから・・・」
「良かった・・・」
そう言って、何か神妙な顔で運転をするハルちゃん先生をちらっと見て、なんか色々あるんだろうなと感じてしまう。 それでも、俺達がまだ色々と話を聞きたくないのを察してか、取り留めない会話で間を繋いでくれた。 着任早々、この人にも苦労を掛けて申し訳ないなっという気持ちでいっぱいになってしまった。
なんとなく、火曜日学校に行くのが憂鬱だ。 アッコちゃんのいない学校、それだけで、もう行く気が起きないよ。
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