第66話 アッコちゃんは俺が助ける
尾崎先生達が引き続きアッコちゃんを捜索してくれている。
俺は、ハルちゃん先生に青少年の家まで連れ戻されてしまった。
生徒達は、宿泊棟に待機ということで皆、班ごとに割り振られた部屋にいるらしい。
「先生、捜索隊とかは?」
「さっき、他の先生が警察に連絡したって、だからあなたは宿泊棟で他の子と一緒に待ってて」
こんな所で呑気に待ってるとか無理だろ・・・
アッコちゃん・・・どこに?
宿泊棟に向かっていると、木下、あゆみちゃん、藤さん達が駆け寄って来た。
「佐久間!」
「アキラ!」
クッ! コイツらが一緒にいてくれたら・・・
イヤ、違う・・・コイツらを責めてもどうしようも無い。
「佐久間君? アッコちゃんは?」
「見つかってない・・・」
ん? そうだ、溝口は!?
「あゆみちゃん、溝口と高橋達は?」
「えっ? 宿泊棟の部屋に普通にいたけど・・・」
なに? あいつら!
その瞬間、宿泊棟に向かって走り始める。
溝口・・・どの部屋だ!?
「ちょっと! 佐久間! 女子部屋よここ!」
「溝口!! どこだ!!」
「えっ、溝口さんなら隣の部屋よ・・・」
隣!? そのまま、すたすた歩いて、隣の部屋の扉を開ける。
「溝口!!!! どこだ!!!! 出て来い!!!!」
「えっ!? 佐久間!? 溝口さんなら・・・そこだよ・・・」
違う班の女子が溝口のいる方向に指をさす。
俺と目があって、ギョッとしている溝口がそこに居た。
「溝口!! テメ~!! アッコちゃんをどこにやった!! 言え!!」
「イタイ!! やめろ!! クソが!! イタイ!!」
もう怒りで頭がどうかしそうだった・・・
この憎たらしい口の利き方。
何も悪い事していないと言って、ムスっとするふてぶてしい態度・・・
あまりの怒りで、溝口の胸ぐらをつかんで、持ちあげた状態で壁に押し付けていた。
「言え!! アッコちゃんはどこだ!!」
「ヤメロ!! 佐久間!! 雫が痛がってんだろ!!」
「うるせ~!! 川上テメーは黙ってろ!! 言え!! 溝口!! テメ~アッコちゃんにもしもの事があったら、お前、生きていられると思うなよ!! さあ言え!! アッコちゃんはどこだ!!」
壁にドンドンと、なんども押し付けながら、執拗に聞き出す・・・
「知らないよ!! 私見てないもん!!」
「嘘つけ!!」
「谷口と高橋達だもんアッコちゃん連れってたの!!」
はあ!? なに言ってるんだ!? こいつ!
「じゃあ、あいつら、アッコちゃんをどこに連れてった!!」
「私知らない! わたしは、あいつらが居る方へ、アッコちゃんを誘導しただけ!!」
クソ!? 高橋!!
そのまま、床に溝口を投げ捨て、その部屋を出る。
騒ぎを聞きつけて、他の生徒達もワイワイ、野次馬のように集まってる中を抜け。
高橋達のいる、宿泊棟へ足早に移動する。
男子の部屋ならわかってる。
あいつがいるのは・・・
「高橋!! どこだ!!」
部屋を見渡すと、一番奥に腰を下ろしている高橋を見つける。
俺のことを敵視するような目で、睨みつけてるアイツの目の前まで行って、そのまま顔面目掛けて喧嘩キックをかますと、そのまま後ろの壁まで体ごと吹っ飛んで行き、ゴツン!っと鈍い音がして、高橋がもだえ苦しんでいた。
そんなの、お構いなしに、高橋にマウントポジションをとる。
「オイ・・・ 高橋・・・ 良く聞けよ? 俺がまだ冷静なうちに答えろ? アッコちゃんをどこに連れてった?」
「俺はなんにも知らない!!」
「お前と谷口が連れてったって、溝口が言ってんだよ! しらばっくれても無駄だ。 イイか? 時間がないんだ、さっさと答えろ? さっきのケリで分るよな? 俺は本気だぞ高橋。 アッコちゃんにもしものことがあったら、お前まじで生きていられると思うなよ」
「知らね~よ!!」
「もう遅いんだよ! 遅かれ早かれこれから警察がくるんだ! お前ら全員事情聴取されて、ありのままを話さないといけない状況になるんだ。早く言え! テメ~が口割らないなら、こののままお前をヤッテ谷口をボコボコにするだけだ」
「ヤルってなんだよ!!」
「高橋・・・俺は本気だって言ったよな? アッコちゃんにもしもの事があったら、お前を殺す。 言え・・・アッコちゃんはどこだ!? 言え!! コラ!!!!」
「森見の塔から坂を上がって、隣の散策路にまで連れてって、そこで奥の藪に・・・突き落とした・・・」
突き落とした? 坂を上がったところ? 溝口が降りて来た方じゃないか!
そのまま、怒りにまかせて掴んで持ちあげていた高橋の胸ぐらをそのまま床に思いっきり突き放す。
ゴツンという鈍い音とともに、高橋のうめき声が聞こえたが、そんなのお構いなし宿泊棟を後にする。
そのまま来た通路を引き返し、森見の塔を目指すために、青年の家の入口から出ようとした時。
「佐久間君! どこに行くの!!」
先生に呼び止められるが、無視してそのまま突っ切るように走り去る。
「佐久間!! 待て!!」
尾崎が俺を呼ぶ声も聞こえたがそんなの関係無い・・・
アッコちゃんは俺が助ける。
早く、森見の塔のところまで行かないといけないんだ。
さっき、数十分前に来た道を全速力で引き返す。
もう辺りはすっかり暗い。
リュックの中から、懐中電灯を取り出して足元を照らしながら、森見の塔のところまで引き返す。
途中まで、尾崎が後ろを追っかけてくるような音がしたが、いまはその足音も聞こえなくなった。
でも、この先で継続して捜索を続けてる、先生達にみつかったら、また連れ戻されてしまう。
あいつら、森見の塔に行く途中の散策路から、隣の散策路に連れてったって言ってたな?
だとすると、こっちの脇道の方か?
「アッコちゃ~ん!!!!!!」
暗闇に向かって、彼女を呼ぶ。
声や笛の音がしないか耳を澄ます。
クソ・・・ここじゃないのか?
それとも・・・
イヤなイメージが頭をよぎったが、悪いイメージを振りほどくように、首を横にフリ。
そのまま、散策路を進んで行く。
「アッコちゃ~ん!!!!!!」
また、暗闇に向かって、彼女を呼ぶ。
そして、耳を澄ます・・・
『ヒュルルル・・・・』
微かに、本当に小さな音だった。
掠れるような、フォイッスルの音が聴こえたような気がする。
どこだ? どっちだ?
「アッコちゃ~ん!! 聞こえたら笛を鳴らして!!
『ヒュルルル・・・・』
すると、呼び声に反応するように、左の藪の奥からわずかな笛の音が聴こえた。
あたりをライトで照らしてみても、アッコちゃんらしき人影が見つからない。
リュックから、ザイルを取り出し、近くにあった少し太めの木にくくりつける。
そして、目印になるように、ハンカチも一緒に散策路側に見えるようにくくりつけると、そのまま、藪の奥へ慎重に下って行く。
北海道特有の子供の腰あたりまで来るような、熊笹をかき分けながら、慎重にまっすぐに下りながら辺りをさがす。
「アッコちゃ~ん!! 聞こえたら笛を鳴らして!!」
『ヒュルルル・・・・』
さっきよりも近づいた感じだ。
林の右の奥の方から笛の音が聴こえてくる。
足場がぐにょぐにょする中、熊笹をかきわけて笛の音がした方へ向かっていく。
あたりを懐中電灯で照らして、慎重に探していると、藪の陰に光が反射している所を見つけた。
急いで、その方向へ進んで行く。
すると、俺が渡した災害シートを体に巻き付けた状態のアッコちゃんが横たわっていた。
「アッコちゃん! わかる!? 俺だよ! アキラ! 聞こえる!」
「・・・アッ・・・アッ・・・」
ダメだ・・・寒さで震えて、声が出ないんだ。
寒さで震えて、唇も青い、暖めないとと思い、キャンプ用のアルミシートが張ったマットをアッコちゃんの真横に広げると、アッコちゃんの体の下へマットを滑りこませる。
そして、持って来てたありったけのカイロを出してアッコちゃんがくるまっている災害シートの中に、お腹周りを中心にまんべんなく入れていく。
落ちた時に、頭を打ってるかもしれない。
下手に動かすのは危険かもしれない。
このままここで助けを待つしか無いのか?
「アッコちゃん? 俺が分かる? わかったら、俺の手を強く握って」
そう言って、彼女の手を握ると、弱々しいが、震える手で握り返してくれた。
意識は、まだちゃんとしているようだ。
自分の着ていた、アウタージャケットを脱いで彼女の体に覆いかぶせる。
アッコちゃんのバックから、朝に手渡しておいた懐中電灯をつけて、散策路側へ向けてバックに立てかける。
「アッコちゃん!? 待ってて、いま助けを呼んでくるから、もう少しの辛抱だから! がんばるんだよ!」
そういって、ずっと散策路から伸ばして来たザイルを掴んで、散策路の方へ戻っていくと。
持っていたフォイッスルを力いっぱい吹く。
『ピュルルルルルルル!! ピュルルルルルルル!!』
『助けて下さい!!』
持っている懐中電灯を振りながら、繰り返し助けと呼ぶ。
『ピュルルルルルルル!! ピュルルルルルルル!!』
『助けて下さい!!』
お願い!! 誰か!! 助けて!! アッコちゃんを助けて!!
『ピュルルルルルルル!! ピュルルルルルルル!!』
『助けて下さい!!』
誰か・・・
『大丈夫ですか~!!』
大人の声!?
『こっちです!! こっち!! 助けて下さい!! 子供が二人いま~す!!』
暗闇の向こうから、いくつもの光が見えて、こっちへ向かってくる姿が見えた。
『君は!? 佐久間君か!?』
『そうです!! 岩崎さんはこの下です!! お願いします・・・助けて・・・』
そういって、捜索隊らしき大人の集団が俺の近くまで駆け寄って来てくれた。
「だいじょうぶか? ケガは!?」
「僕は大丈夫だから! それよりも、この下にアッコちゃんが!! 早く助けて下さい!!」
「下? ・・・このザイルを伝っていけば、たどり着けるのか?」
「そうです、お願いします。 早く助けてください!!」
そう言うと、大人数人が藪の中へ降りて行く。
しばらくしてから、俺の近くに居る人の無線に、要救助者を発見という音声が流れて来た。
それから、しばらくすると救急車のサイレン音がこちらへ向かってくるのが聴こえきた。
ようやく助かったと思い・・・膝から崩れ落ちそうになる。
近くの救助隊の人に、体を支えられて、そのままお姫様だっこのように抱えられてしまう。
「ダメ! まだ! アッコちゃんが! アッコちゃん! まだ!」
「だいじょうぶ、もうだいじょうぶだから。 おじさん達が、すぐ彼女を連れて来てくれる。 だいじょうぶ」
そう言われて、溜まっていた何かが溢れ出し・・・
救助隊の人に抱っこされながら、ワンワンと泣きだしてしまう。
まだ、アッコちゃんがちゃんと助けだされても無いのに。
自分の不甲斐なさと、力の無さ、アッコちゃんを心配な気持ちでぐちゃぐちゃになっていた。
中身が32のオッサンなのに・・・
1人じゃなにも出来ない不甲斐なさで、どんどん涙が溢れて来てしまう。
彼女を守ると、偉そうに言っときながら、このザマだよ。
なにやってんだ・・・俺は・・・
しばらくして、尾崎先生にハルちゃん先生も現場に駆け付けてきた。
救急隊員らしき人に、毛布を羽織らされて、先生と一緒に救急車のすぐ近くで立ち尽くす・・・
しばらくすると、アッコちゃんが、タンカに乗せられて大人4人に運ばれて、救急車の方へ向かってくるのが見えた。 すぐにアッコちゃんの元へ駆け寄ろうとするところを、ハルちゃん先生に抱きかかえられて捕まえられてしまう。
僕の横を通って、救急車へ運び込まれるアッコちゃん。
その後を、ハルちゃん先生と一緒に毛布にくるまれた状態で、同じ救急車へ押し込まれる。
しばらくして、サイレンが鳴りはじめ、救急車がゆっくりと走りはじめる。
救急隊員の人が手を握ってあげてと言うので、アッコちゃんの手をずっと握って、ひたすらに無事であることを祈る。
冷たく冷え切った、彼女の手を握って。
また自分の不甲斐なさで頭がいっぱいになってしまう。
感情のコントロールが出来なくなり、また涙が溢れてしまう・・・
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