第61話 平穏な日々はまだ先みたい
ん? なんだかまた教室の前が騒がしいな・・・
こんどは何だろう・・・?
「皆、何やってんの?」
「あっ、アキラ・・・ほら、アイツら・・・」
剛がアゴで示した方を見ると、高橋に川上、溝口らが教室にいた。
中澤と小林は自分の席に大人しく座っているのが見える。
何故か4人は、高橋の席の周りに集まってムスっとしていた。
「で? 剛はなんでこんな所にいるの?」
「だって・・・アソコ俺の席なんだけど・・・」
あ~ なるほど・・・
いま、谷口が座ってる高橋の前の席・・・
そういえば、剛の席だっけ。
高橋の席の周りに座ってる連中が、自分の席に座りずらくて、教室の入口付近で集まっていた。
その人垣を抜けて教室に入ると、窓側の中央くらいの席に、小沼を中心に女子が7~8人集まって集団になっていた。
どうやら、小沼の周りの女子集団と、高橋と川上達の間で、ひと悶着あったようで、お互い、睨みあって対峙していた・・・
「剛? あれなに?」
「えっと、小沼の女子軍団が、登校してきた高橋に、『謝りなさいよ~』って詰めよったんだけど。高橋のヤツ、一応悪かったとか謝りはしたんだけどさ~ 態度がね・・・ それで女子軍団が高橋のこと責め始めたら、なんか高橋の周りに川上とか溝口が来て・・・ ワーって」
イヤ。ワーって・・・語彙力。
まっ、なんとなく状況は把握・・・
二つの集団がそれぞれ睨み会って対峙しているせいで、クラス中央の席の連中が、行き場なく教壇周りと、教室の後ろの方でおろおろしていた。
その集団の中に、不安そうにするアッコちゃんと木下をみつける。
「アッコちゃん、おはよう」
「えっ? あっ、おはよう・・・」
二人の席は、後ろから2番目の中央付近なので、睨みあう視線の射線上からは微妙にずれているので、普通に座ることにした。 不安そうに見守るアッコちゃんの手を握って、自分とアッコちゃんの席に連れて行き座る。
すると、小沼軍団の女子が・・・
「佐久間!? なんか、あんたも言いたい事あるんじゃないの!?」
面倒くさいから、こっちにはフラないで欲しんだけど・・・
別にあいつら自主的に謝ってくるならそれでも良いし。
謝らないでムスっとしてても何もしてこないならそれで良いんだけど・・・
とわいえ、先週小沼から聞いた、公園であつまってへんな相談をしていたっていう話も気になるっちゃ~気になる。 どうしたもんかな~っと考えていると。
女子軍団にまた火がついたようで。
イヤ、本当やめて欲しいんだけどと思いつつ・・・
『お前らさ~ あんな酷いことしたんだから、謝ったらどうなの!?』
『だから、さっき謝っただろうがよ!!』
『何なのその態度!? それに、アッコちゃんと佐久間達にまだ謝ってないじゃん!!』
イヤ・・・なんか味方してくるのは非常にありがたいとは思うんだけど・・・
あそこまで、意固地になってるヤツから、無理くり謝罪されても嬉しくもなんともないから・・・
出来れば、そっとしておいて欲しいんだが。
「イヤ~ 皆、気遣ってくれてありがとう。嬉しいけど。 俺は、イジメさえなくなればそれだけで良いから・・・」
女子軍団を敵に回すわけにはいかないので、気を使って話はしたものの。
でも、これだと、微妙に高橋達を煽ってる感じになるんだよな・・・
頼む・・・早く先生来てくれないかな。
超面倒くさいんだけど・・・
それにしても、高橋達も強心臓だよな~
普通は中澤とか小林みたに、おとなしくそれぞれ自分の席に座って神妙にしていると思うんだけど。
バチバチやりあうとか・・・やっぱり、あいつらちょっと頭イカれてんな・・・
ん? 藤さん・・・
一瞬ギョッとした顔をしたが、俺らの方を見て、つかつかと歩いてくる。
「おはよう!」
「あ~ おはよう。 相変わらず、ギリギリだね?」
「えっ? 今日は2分前だよ」
そう言って、高橋達の方に一切視線を送らず。
存在その物が無いかのように、振る舞っていた。
あ~ 早く先生来てくれ・・・
めちゃ空気重い。
『キンコンカンコ~ン キンコンカンコ~ン♪』
『お前ら何やってる! チャイムなったぞ~ 席に座れ!』
キタ・・・とりあえず、いったん落ち着けそうだな・・・
『起立・・・礼・・・』
『おはようございます』
『着席』
ん? 誰かいる・・・
「え~ 体調不良で休んでいる小西先生の代わりに、今日から5年1組の新しい担任の先生に来てもらいました! 自己紹介してもらえる?」
「はい・・・」
ん? 若ッ・・・
「え~ 今日から皆さんの担任になります、小泉遥と言います。 どうかこれからよろしくお願いします!」
「小泉先生、ありがとう。 え~ いきなり来てすぐには厳しいところもあると思うので、しばらくは僕も副担任として1組に来るのでよろしく」
その後は、何事も無かったかのように授業が始まり。
いつも通りに、時間が進んで行った。
一応、あいつらがアッコちゃんに何かしないかは、しっかりと警戒はしていたが。
何も起こること無く、5時間目まで終わった・・・
「はいじゃあ、皆気を付けて帰るように。 あと、高橋、谷口、川上、溝口は、そのまま残れ」
尾崎先生から、残るように言われた4人を横目に、アッコちゃんの手を引いて帰ることにする。
すると、また女子軍団に下駄箱付近で囲まれ。
『ねえ、佐久間! あの4人あれで良いわけ?』
「イヤ・・・まあ、本人達が本気で悪い事したって自覚持って、自分で謝ってくる気にならないうちは、無駄だって。 今、集団であいつらにとやかく言っても、意固地になってどんどん態度悪くなるだけだと思うよ?」
『そうかもしれないけどさ~ それで気が済むの?』
「気持ちはスッキリはしないけど。 俺は、アッコちゃんにさえ、へんなことしないでいてくれたら、それだけで良いんだよ。 俺たちは、前みたいに、皆で普通に遊んだり楽しくやりたいだけだから。 イヤ、みんながそうやって気をつかってくれるのは本当に嬉しいんだけど、なんかごめんね?」
『別に・・・佐久間に謝ってもらわなくても・・・ あんたがそれで良いなら良いけどさ・・・』
「じゃあ、俺ら帰るから。 バイバイ」
はぁ~ まるで、前世で経験した、バイト先、会社とかの派閥ごとこのごたごたに巻き込まれた時を思い出す・・・ 善意で、気を使ってくれるのは嬉しいけど・・・ それに乗っかると、また余計な軋轢が生まれて、エンドレスになっちゃうから。
まあ、あそこまで引っ掻き回しておいてあれだけど・・・
そっとしておいて欲しい・・・ただそれだけなんだよな。
「ねえ? アキラくん? あの4人・・・残されてたね?」
「うん・・・ 多分、先生と面談なんじゃない? 本人達が本気で反省したってなるまでずっと続くと思うけど」
「じゃあ、まだあの人達、自分が悪いって思ってないってこと?」
「えっ? たぶんだけど・・・被害者みたいな気持ちでいると思うよ」
そういうと、不服そうな顔で眉をひそめてしまった・・・
「アッコちゃん・・・ 顔・・・怖いよ?」
そう言って、眉間によったシワを、両手の親指で押し広げるようにしてシワを無くす。
そして、そのまま口角をクイっと上にあげて、ニコッとした表情にしようとする。
「もう! 人の顔で遊ばないで! 何やってんの~ ふふっ」
そう言って、笑って怒る彼女。
「だって・・・ アッコちゃんは笑った顔が一番可愛いし・・・ 笑っている君が好きだから」
「もう、わかったよ~」
そう言うと、いつものニコニコした可愛い彼女に戻っていた・・・
ずっと、その笑顔を守れれば良いのにと願って、その日は一緒に家に帰った。
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