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第114話 今日の小沼はどうした? めっちゃおしとやかキャラなんだが?


 秀樹のゴールの後、皆がグランドを吹き抜ける風の悪戯が巻き起こす素敵な光景に見とれていると・・・


 いつもは、目をキラキラさせて見とれている剛が、悔しそうな顔でゴール内のボールを回収して、センターサークルまで戻っていた。


 剛・・・?


 どうしたあいつ?

 なんだ病気か?


 午前中、劇の練習の時も、あんなピアノ下に潜って小沼のパンツを見ようとしてたヤツが、いまの光景をチラっとだけ見て、速攻ボールを回収しに行くなんて。


 センターサークルで、早くゲームを再開しようぜと言わんばかりに、やる気満々の顔で待っている剛・・・


 さっきのゴールでパスの起点になった剛なのに、女子軍団から声援を一切受けることが無く。

 それが相当悔しかったのだろうか?


 ゲームが再開してからは、剛の動きが見違えるように変化する・・・

 女子軍団から、必死に声援を貰おうと、今シーズンで一番最高のパフォーマンスを発揮し始める。


 どんどん、キレッキレな動きを見せる剛・・・

 調子に乗った剛が、一人ゴール前にカットインして、そのまま俺にマイナスのボールを出して来る。


 足元にボールが入ってくる瞬間、目の前を見ると、ディフェンスもキーパーもいない、その瞬間シュートコースが視界にスパっと飛び込んで来る。 その瞬間から、まるで自分だけが、スローモーションになったような感覚。


 瞬間的に見えた、そのシュートコース目掛けてボールを蹴り込むと・・・


 自分にだけ見えたそのシュートコースへ、ボールが吸い込まれて行き、『パシュ!!』っという爽快な音をさせてボールがゴールネットに突き刺さる。


 その瞬間、なぜか俺だけに黄色い声援が・・・

 えっと・・・今のは剛が~


 どうやら、女子達の目にはカットインしたけど、ゴール前で潰されたダサいヤツとしか映ってないみたい。 剛・・・がんばってるのに、トコトン報われないなお前・・・


 その後も、強引に突破を仕掛けて、潰されかけたところを、体制を崩しながらも俺にパスをだしてくる剛。 そのまま、秀樹にダイレクトパス・・・それを難なくゴールする秀樹・・・


 『キュア~!!!! 佐久間く~ん!!』

 『ズミヒ~!! ナイス~!!』


 えっと・・・これは・・・

 ゴールエリア内で、倒れ込んでいる剛を見ると。

 どんどん、剛から闇のオーラが舞い上がって行くのが見える。


 イヤ、剛・・・えっと・・・どうしよう。


 『ピッピーーーーーーーー!!!!』


 えっ? ゲーム終了・・・?


 結局、紅白戦は5-0でレギュラーチーム側の完全勝利で終ったのだが。

 監督は単純だから、この日1人で3点決めて、ハットトリックを達成した秀樹を大絶賛するワケなんだけど。


 コーチだけは、剛の所へ行って、ゴールの起点になった動きを褒めちぎっている。

 このチーム・・・あのコーチが監督になった方が良いんじゃないのかっといっつも思ってしまう。


 監督はいっつも、派手で見立つ所ばっかり褒めるけど、その前の良い動きをしたヤツとかは一切褒めたりしない。 イヤ・・・そもそも、あいつ、サッカーを分かってないんじゃないのかって思ってしまうほど、素人目線なことしか言わないのだけど。


 『よし! 今日は、皆すごい集中して良い試合だった。 来週からは、おそらく体育館での練習になると思うから、体育館用のアップシューズもちゃんと用意して来てくれ』


 『は~い!!』


 『ハイ!! じゃあ解散!!』


 練習が終わっても、まだ女子軍団が残っているのを見て、色めき立つ、男ども・・・


 『オイ・・・誰か、告白されるんじゃないか?』

 『俺・・・あの、1組の女の子めっちゃ好きかも~ 可愛い~』

 『俺も!! あの、1組の女の子めっちゃ好き~ 可愛い~!』


 あれ? 小沼? めっちゃ人気あるやん。


 まあ、黙ってればな~ 巻き髪ロングに、その可愛い洋服。

 漫画に出て来そうなお嬢様キャラやもんな~

 性格を知らない、他の組の連中には人気が出て当然か・・・


「秀樹?」

「なに?」


「小菅達に見に来てくれたお礼言いに行く?」

「ん? ああ、そうだな・・・」


 そんな、会話を聞いた、剛がジト目で俺らを見ながら、だまって、後ろをついて来て、ボソッとつぶやく。


「良いよな・・・お前らばっかり・・・」


 試合中、一切声援を受けることが無かった剛が恨み顔で俺らを見てくるのだけど・・・

 まあ、女の子からしたら、イキって、ゴール前までボール持って突っ込んで、ディフェンスに潰されたカッコ悪いヤツにしか見えないもんな~

 もう少し、剛にテクがあって、当たり負けしない体があればな~ あのまま強引に点を決めれたんだけどな~


 そんなことを考えながら秀樹と一緒に女子軍団の所へ向かうと・・・


「佐久間君!! めっちゃカッコよかった~!!」


 えっと・・・この子は確か・・・ピアニカ隊に居た子?


「佐久間君!! 素敵~」

「佐久間君、ピアノも素敵なのに、サッカーまでなんてカッコよすぎるよ~」


 えっと・・・この子達は、3組のピアノ組の子達か~

 なんだ? 俺3組の女子にめっちゃ人気あるじゃん。


「佐久間君も清水君も凄かったね~」


 えっと・・・遥ちゃんまで、そんな俺と秀樹ばっかり。

 こうなると・・・


 俺らの後にしっかりとついて来て、一緒に集団に加わっている剛だったが・・・

 顔がもう、闇に取りつかれた少年のように、ヤバイ顔をしてやがる。


「えっと・・・石川君? さっきの、サイドからのカットイン凄かったね?」


 ん? 誰だ? この子? 3組の子か?


「えっ? えっと・・・僕?」

「うん! なんども、なんどもトライしてめっちゃカッコ良かったよ~♪」


「えっ? 本当? えっと・・・君は?」

「あっ、私・・・3組の小林美穂、よろしくね♪」


 えっ? 剛がモテとる・・・

 でも、剛が好きな感じの子じゃないような~


「うん! ありがとう!! 美穂ちゃん!!」


 えっ!? いきなり美穂ちゃん呼び?

 って、お前は女子なら誰でも良いのかよ!


「秀樹、あの子誰?」

「えっ? あ~ アイツ、コンサドーレのガチサポーターだから・・・」


 なるほど、サッカー好き女子か・・・

 この時期のコンサドーレはJ2落ちして、まだまだ人気はそこそこな感じだったはず。

 そのガチサポータをしている女の子なんて、相当サッカーが好きなはず。


「毎週、自転車で練習見にいってるらしいよ」

「マジ? ガチジャン・・・」


 あれ? でも、この子って・・・どっかで?

 花のワルツのダンサー組の子じゃなかったっけ?

 確か、こんな子がいた気がするんだけどな~


 てか、剛のヤツ。


 明日から美穂ちゃん騒ぎするんだろうな~

 まあ、今まで毎日毎日妬み嫉みの嵐しでめっちゃうるさかったから、少しはマシに~


 イヤ、そんなことないか・・・

 美穂ちゃん可愛い騒ぎするコイツも、それはそれでウザい気がする。


 ん? 小沼・・・


「大丈夫か? めっちゃ寒そうだけど?」

「うん。すっごい寒い・・・」


 もう、しょうがないな~

 アッコちゃんが寒がった時用に鞄に入れてあった、カイロを小沼に手渡す。


「えっ? ありがとう・・・」

「そんな寒いなら、先に帰ればよかったのに」

「だって・・・」


 なんだコイツ・・・


「ほら、帰ろうぜ。 あと、これ羽織よ」


 そう言って、自分の持ってる厚手のパーカーを小沼に手渡して、二人で歩き始めると。


「えっ? でも・・・あっちゃんだって寒いでしょ?」


 こいつ・・・普通にあっちゃんって言いやがる・・・

 美姫でも、最近はそんな、あっちゃんなんて言わないのに。


 後ろを歩いてる、剛と小菅に聞かれたらどうするんだよ。


「俺は大丈夫だよ。 てかさ~ 俺の事をその幼名で呼ぶのヤメロ」

「だって、あっちゃんは、あっちゃんじゃん・・・」


 なんだそれ?


 ん? てか、小沼と二人っきりになっちゃってるけど。

 後ろに、付いて来ていると思ってたのに、小菅と秀樹はどこ行った?

 あれ? さっきまで声してたのに・・・


「あれ? さっきまで、小菅と秀樹が後ろにいなかった?」

「えっ? そう言えば・・・」


 小沼と二人っきりじゃん、こんなところ木下とかに見られたら超面倒くさいんだけど。


「あっちゃん・・・サッカー凄かったね」

「お前さ~ 普通にあっちゃんって言うの止めろって」

「別にイイじゃん。 ピアノ教室じゃいっつも、そう呼んでるんだから」


 それは、いっつもお前が俺をバカにするときに、ワザと言ってるんだろ?


「ねえ?」

「なに?」


「うちらって、幼馴染って言うのかな?」

「ん? まあ、3歳からの付き合いだからな~ そうとも言うんじゃないの?」


「幼稚園が別でも?」

「う~ん・・・幼馴染の枠組みって、幼稚園が一緒じゃ無いとダメなのか?」

「わかんない・・・」


 今日の小沼はどうした? めっちゃおしとやかキャラなんだが?

 普段から、こうなら可愛いのに。


「ねえ・・・ピアノさ~」

「うん」

「私、なんか自信なくなって来たんだけど・・・」

「だからさ~ ゆっくり弾く練習と、リズム練習を騙されたと思ってやってみなよ」


「それって、本当に効果ある?」

「あるよ、俺いっつもそうやって練習してるもん」

「えっ? そうなんだ」


「そうだよ、全曲通しで弾く練習なんて、本当に仕上げの時くらいじゃないかな?」

「そうなんだ・・・じゃあ、ちょっとやってみようかな」


 なんだ、こいつ。

 急に素直じゃん、なんなんだ急に?


 マジで、ツンデレ少女じゃないかよ。

 てか、こいつとこんな二人っきりで、親しく会話するイベントなんて前世であったっけ?


 う~ん、アッコちゃんがいなくなって、6年生の頃に隣の席になって~

 しばらく、なんかめっちゃ優しい時期があったような記憶があるけど・・・


 あの時くらいだよな。

 小沼と色々二人っきりで話したりしたの。


 6年生の終り頃に、ピアノの先生が、もう歳だからって辞めることになって、それでピアノの教室が別々になって、中学でも別のクラスになって・・・

 それで小沼とは、疎遠になったような気がするからな~


「ねえ?」

「なに?」


「アコのどこが良かったの?」

「アッコちゃんは・・・一目惚れだったから。 彼女の全てが好きなんだよ」


「そうなんだ・・・一目惚れか・・・それまで好きな子はいなかったの?」

「ん? う~ん・・・可愛いとか思った子はいたけど。 一緒にいるだけで、ドキドキしたのはアッコちゃんだけかも」

「そうなんだ・・・そっか・・・」


 そんな会話をしながら歩ていると、小沼のアパートの前まで辿り着いてしまった。

 ああ、本当だったらアッコちゃんへお届けものするのにココにくるはずだったのに。


「これ、パーカーありがとう」

「うん、じゃあまた明日」


「送ってくれてありがとね? じゃあ・・・また明日ね、あっちゃん」

「また! ヤメロそれ!」

「ふふふっ、じゃあね~ バイバイ、あっちゃん!」


 ニヒヒヒっと悪戯顔で笑って、バイバイっと手を振って、自分のアパートに走って入っていく小沼を見送ると。 受け取ったパーカーを羽織って、自分の家に向けて歩き出す・・・


 自分の家まで帰ってくると、隣の家が何やら引っ越しの準備をしているのが目に入った。

 家の前に大きな引っ越し屋のトラックが停まっている・・・


 そっか、そう言えばお隣さん、いつの間にかいなくなっていた記憶だったけど。

 そんなことを思いながら、家に入って行く。


「ただいま~」

「うん、お帰り」

「お隣さん、引っ越しみたいだよ」

「うん、そうだって・・・転勤なんですって。よかったわね、もうあの犬に吠えられること無くなるわね」


 ふ~ん・・・折角、家を建てたのに大変だな・・・

 てか、あのバカ犬もいなくなるのか、それは良いことだ。


「ねえ? アキラ?」

「なに?」

「あんた、また美姫の部屋掃除してくれたの?」

「なんで?」


「だって、洗濯物が美姫の服いっぱい出てたから」

「あ~ 脱ぎっぱなしで放置されてたから。 カビ生えたらイヤじゃん」

「本当に・・・あの子はどうして。 なんで姉弟でここまで性格が違うのかしら・・・同じに育てたはずなのに・・・」


 そんな母親の愚痴を聞きながら、リビングのソファーに置かれてる美姫の服を見つける。

 美姫の服に紛れ込ませて、洗濯をしてもらったゆかりちゃんの下着と一緒に回収して2階に上がって行く。


 美姫の服を持ってヤツの部屋に入り、ベッドの上に服を置いて自分の部屋に戻る・・・

 そして、すっかり、ウチの香りになってしまった、ゆかりちゃんの綺麗な下着を自分の部屋のタンスの奥に隠す。


 はぁ~ まだ火曜日・・・

 ゆかりちゃんが帰って来るの土曜日か。


 アッコちゃんもいない、ゆかりちゃんもいない・・・

 誰もいない部屋が妙に静かで、ひとりになるとまたちょっと寂しい気持ちになって来てしまう。


 ゆかりちゃんのニットを出して、石鹸の香りをスーッと吸い込み。

 少し気持ちを落ち着かせよう思ったのだけど。


 寂しい気持ちが加速しちゃうだけで、逆効果だったみたい・・・

 そのまま、ベッドに倒れ込んで、ゆかりちゃんのニットをギュッと抱きしめると、自然と涙がツーっと流れてしまう。


 はぁ~ あっこちゃんもいない・・・

 ゆかりちゃんもいない。


 ヤバイ、寂しすぎる。

 俺って、こんなに寂しさに弱かったっけ?


 いつの間にかアッコちゃんと一緒にいるのが当たり前で、美姫もいっつもうるさくて。

 最近は、ゆかりちゃんも加わって、毎日すっごい賑やかだったから・・・


 1人でいる時間が少なかったせいで、この寂しい気持ちをどうやって処理したら良いのか分からない。

 アッコちゃん・・・明日学校これるかな?

 風邪、早く治ると良いな・・・


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