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第1話 プロローグ・・・夢を見た


「佐久間さん、これお願いしても良いですか?」

「えっ? これって、田中君が先週、課長から指示されてたやつだよね? どうしたの? それに、鈴木主任の担当じゃないの?」


「田中さんですよね・・・その~ 今日も体調不良でっていうか~ もう先週から5日間お休みで、それに鈴木主任なんですけど、急遽出張でして~ それで私達、どうしても今日は外せない予定があって~ 頼めるの佐久間主任だけなんです。お願いします」


「はぁ~ わかったよ。 じゃあ、関係資料とか、途中までやっているものあれば、共有フォルダーに入れておいて」

「はい、ありがとうございます。じゃあ、お願いしますね~」


なんで、こんなギリギリで言ってくるかな・・・

田中君も無責任っていうか・・・不器用っていうか。

 

にしても鈴木のヤツも、前からこうなるってわかってただろうに、腫れ物に触れるみたいに見て見ぬふりしやがって。 課長に目の敵にされてたの見ればわかるだろう。 そりゃ、精神も病むって・・・


「佐久間さん、何すかそれ? 鈴木さんのグループの仕事でしょ?」

「鈴木は出張だって。田中は飛んだみたい・・・」


「はぁ~ やっぱりそうなんだ。皆噂してたんですよ、絶対そうだって。 ていうか、手伝いますよ」

「はぁ? ダメだよ。 お前、昨日徹夜だろ? 今日は絶対帰れ、それにもう今月残業の残り時間無いよね?」


「そんなの、佐久間さんだって同じでしょ?」

「ん? 俺はほら、裁量労働制度だから」


「はぁ・・・とか言って、毎日10時間近く会社にいますよね?」

「そうだっけ?」


「鈴木さん所のしわ寄せがいっつもこっちに来てるの知ってるんですよ~」

「まっ、誰かがやらないとイケなくなるから・・・しょうがないよ。ほら、もう帰れって」


「は~い。 あんまり無理しないでくださいね。 佐久間さんいなくなると俺らまじ困りますから」

「りょ~かい」


俺は、佐久間 晃(さくまあきら)、IT企業勤務の32歳。

今は、同期の鈴木の尻ぬぐいをさせられて残業中だ。


鈴木のグループは、本当に終わっててミスやら遅延が多すぎるんだよ。

そのせいで、シワ寄せがこっちに来て、うちの子達には無理ばっかりさせている・・・


なのに、残業管理が出来てないとか言われ、俺ばっかりなぜか怒られる。

実際の成果を誰が上げてるのか、会社は全然見てくれない・・・

本当、部長も課長もクソすぎる。


PCの電源を落として、スマフォを見ると、もう夜中の0時2分・・・

うわ! やばい、地下鉄の最終に間に合わない!


マズいと思い、急いで席を立った瞬間―――


パッ! パッ! パッ!


ん? なんだ、照明がいま点滅したような?

立ち眩みでも無いし、なんだろうっと思ったのだが、もう時間が・・・


深夜の事務所の中を見渡して、自分が最後だと確認すると。

急いで事務所の証明を全て消して、そのままエレベータホールへと急いだ。


ホールについてボタンを連打し、扉が開いたエレベータへ飛び乗ると、締めるボタンを連打しまくり、扉が閉まるのをもどかい思い出待った。


エレベータが1階に着くと、深夜で普段使っている会社の正面玄関はとっくに閉まっているので、守衛さんのいる裏口を「お疲れさまで~す」っと声を掛けながら急いで通り過ぎ、会社の外に出るとそのまま地下鉄まで全力ダッシュを始めた。


いつもの地下鉄入口からエスカレータを下りはじめ。

終電ギリギリで、今日はマジで間に合わないかもしれないという危機感から、前には誰も居ないエスカレーターを、段飛ばしで急いで下って行った。


最後、まだ7段か10段くらい残っていただろうか、あまりにもどかしくかなりの高さからジャンプをすると、そのまま自由落下でエレベータの降り口へ飛んでいった。


―――ず~ん!!


結構な音を上げて着地をすると、落下の勢い30代を過ぎて太り始めた全体重が一気に自分の脚に伝わり。

その瞬間、明らかに膝をやった感覚があった・・・


イッテ~ やっぱり、無理があったか・・・

クソ、でも終電が・・・


痛い脚を無理やり動かし、自分のカラダにムチを打ちながら、踊り場を左に折り返して、次の最後のエスカレータを降りていくと・・・


―――パッ! パッ! パッ!


ん? まただ? 違和感を感じながらも、焦っていた僕はそんな事を全て無視して、エスカレータを降りると。 そのまま、走って改札を抜けるとホームに続く階段を駆け上がり、すでにホームに到着していた終電に急いで飛び乗ると、空いてる席を見つけてそこに座った。


終電に間に合った安堵から、一息ついていると。


―――パッ! パッ! パッ!


はっ? まただ・・・なんなんださっきから?

何か車内の照明が点滅したような気がして、車内をキョロキョロするが、周りに座っている乗客は皆普通にしている・・・


なんなんだ、さっきから。

俺、やっぱり疲れてるのかな・・・


とりあえず気を取り直して、改めて他の乗客を見ていると。

こんな時間なのに、楽しそうに笑いながら、話をしているリーマン集団がいた。

俺と同じくらいの年だよな?


合コンがどうとか言って楽しそうな会話をしている。

独身か・・・楽しそうだな・・・


俺なんて、最後に飲みに行ったのいつだっけ?

はぁ~ もう俺社畜すぎんか?

何やってんだろうな俺、断れない性格から他の奴らのカバーまでしているのに、会社からの評価も微妙・・・


ああやって、笑っている同年代の人達を見ていると、どうして自分ばっかりという思いになり、このまま全部投げ出して逃げ出せたらどんなに楽なんだろうっと思ってしまう。


それにしても、お腹が空いた・・・

次第に混みだす車内で、黙ってスマフォを見ながらボーっとしていると、最寄りの駅についたので電車を降りた。


そして、駅の改札を抜けて、自分の家に向かって歩き出す。

はぁ・・・それにしても、毎日、毎日、この暗い道を歩ていると本当に気が滅入る。

最後に定時で帰ったのはいつだろう?


俺、マジで東京までノコノコ出て来て何やってんだ?

こんな人生のためにわざわざ北海道から出て来たのかと思うと余計に気が滅入ってしまう。


駅から12分んくらいだろうか、歩いてようやくマンションに到着すると。

エレベータで上がり、自分の家へとたどり着く。


扉の鍵を開けて、家の中へ入ると、靴を脱ぎながら、小さな声で「ただいま~」っと言うが、いつもながら反応は無い・・・


もう寝てるよな。


モノ音を立てないように、キッチンへ向かい。

冷蔵庫を開けて、何かないか見てみるが、まぁ・・・

わかってはいたけど、夜ごはんなんてモノは無いわけで。


コンビニに寄ってくればよかったなっと思っていると、コトっという物音が聞こえ。

音がした方へ視線を移すした・・・


「あれ? パパ帰ってたんだ」

「ん? ああ、ただいま」


「ていうかさ~ パパ。前にも言ったよね? 私の洗濯物と一緒にパパの入れないでって」

「えっ? あっ・・・ごめん」


「もう! あっ、ママ」

「今帰ったの? なにご飯食べてないの?」

「あっ・・・うん」


「もう今日は無にも残ってないわよ~ 食べるなら連絡くらいしてよ。 私が悪いみたいじゃないのよ~」

「あ~ 何かあるかなって思っただけだから。 ごめん、ちょっとコンビニ行ってくるわ・・・」


はぁ~ なんなんだあの態度は・・・

俺がなんか悪いことしたのか?


ていうか娘のアレもなんなんだよ・・・

あれ何? 反抗期? 小学4年って早くない?

女の子ってああいうモンなのか?


それにしたって、冷蔵庫に何も無いってどうなってんの?

少しくらい食材無いのかよ・・・


冷凍食品はお弁当で使うから、夜勝手に食べるなとか言うし。

もう少し優しくしてくれたって良いんじゃないのか?

俺・・・なんであんなのと結婚したんだろ?


はぁ・・・結婚前は優しかったのに・・・

奈菜があんな態度とるのも、絶対あいつのマネだと思ってしまう。


マンションを出て、そんな事を考えながら近くのコンビニへ行き。

選択肢の少ない、売れ残りの弁当の中から選んで、適当に買って家へと帰った。


家について、買って来た弁当をレンジで温めていた。


―――ブーン・・・チン


レンジから温まったお弁当を取り出していると・・・


「ねえ・・・」

「ん? まだ起きてたの?」


「奈菜がスマフォ欲しいんだって」

「まだ早くない?」


「今時はクラスの子達、半分以上持ってるんだって」

「ふ~ん、イイんじゃないの・・・って、そういえば、俺もそろそろスマフォ買い換えたいんだけど?」


「なんで? あなたのスマフォまで買い替える必要があるのよ」

「イヤ、もう充電が全然もたなくなって。今日も連絡しようとしたら電池切れてて」


「使えるんだったら、そのままでも良いでしょ?」

「イヤ、すぐ電池切れるから、万が一の時に困るじゃん?」


「大丈夫よ、万が一なんて無いから。 それよりも、奈菜のスマフォの件よろしくね」

「ハッ?」


なんだそれ? 万が一が無いとかどういうことだよ?

なんなのお前・・・マジで。


もう何年も前からこうだ・・・

子供は反抗期で、その癖して、おねだりだけはしてきやがる。

嫁は俺のことなんて、心配もしてくれない。

なんなんだこの家族、終わってるんだけど・・・


俺・・・どこで間違えたんだ・・・

こんなはずじゃなかったのに、なんでこうなった?

はぁ~ やり直したい・・・もう、全部をやり直したい・・・


イヤ、止めた・・・考えるだけ無駄だ。

はぁ~ 何であいつと結婚なんてしたんだろう。


忙しい仕事の合間に、同期に誘われた異業種交流のパーティーに行った時に知り合い。

遠距離の彼女と別れた直後で、なんかこう優しくされてそのまま・・・


俺は末っ子で、親が他の同年代の人達より若干高齢だ。

だから、早く結婚して親を安心させないといけないと思っていて。

いま思えば、あんなに焦る必要は無かったんだよ・・・


23歳で、俺はなんて選択してくれたんだよ・・・

もっと違う人がいたかもしれないのに。


もう、今日はとことんダメだ・・・

考えること、考えることすべてがネガティブになってしまう。

はぁ~ もう寝よう・・・今日はもうダメだ。


お弁当を食べ終り、シャワーに入るとうるさいと言われるので、そのままパジャマに着替え。

音を立てずに寝室に入り、嫁が寝ているベッドの横へ行くと、気を使いながらベッドへと入った。


はぁ・・・今日は一段と疲れた・・・


目を閉じて数時間後にはもう仕事に行かないといけない・・・

はぁ、ヤダな、こんな人生、本気でやり直せたらどんなけ幸せだろうか。


イヤ止めよう、考えるだけ時間の無駄だ。

早く寝ないと、また・・・


すぐ仕事が・・・


気を失いように眠りについていった―― ――― ――― zzzzz



―――ん? 眩しい!



何だこの光は? 夢・・・なのか?


瞼の裏が全部白い光に包まれて、次第に何かが見えはじめた。

昔の記憶にある、懐かしい光景は目の前に広がっていった・・・


―――これは・・・小学生の頃の夢?


ふっ、いつぶりだろう、しばらく見ることの無かった夢なのに。

これは小学5年生の頃の記憶で・・・やっぱり、ここから始まるのか・・・


昼休み・・・僕はポツンとの体育館の中央に立ちすくんでいた。

そして、僕の視線の先には、体育館の壁際を寂しそうにしながらトボトボ歩いている、1人の女の子がいた・・・


―――アッコちゃんだ!


岩崎亜希子(いわさきあきこ)ちゃん。

当時同じクラスの同級生で、皆からはアッコちゃんって呼ばれていた。


久しぶりだな、結婚してからほとんと見ることが無くなっていた、この夢・・・

当時、アッコちゃんがイジメられて、皆から仲間外れにされた彼女が、ひとり体育館の隅で寂しそうに遊んでいる姿を、僕は何もできずに体育館の中央からずっと眺めていることしか出来ない夢・・・


ずっと、彼女に謝りたかった・・・

あの時、守ってあげられなくてごめんと言いたかった。


あの日、アッコちゃんが仲間外れにされる流れを止めることができず。

しかも、その後も僕は勇気が無く、仲間はずれにされた君を救うことができなかったんだ。

ただただ、隅っこで1人寂しそうにしている君の姿を見てることしか出来なかった僕・・・


ずっと忘れられなかった・・・

君が転校していなくなったあとも、ずっと。


小学5年生の冬の終わりに、君は札幌から名古屋に転校していった。

小学生だった俺はもう二度と会えないんだと思ってしまった。


転校する日までの間、僕は何度も手紙を渡そうと思ったんだ。

内容は、君が好きだ、また会いたいから手紙が欲しいという手紙を書いた。

当時流行っていたキャラクターのキーホルダーと一緒に渡そうと思っていた。

でも結局、それも勇気が無くて、手紙を彼女に渡せすことが出来なかったんだ。


それから月日が流れても、僕は何度も何度もその時の夢を見続けた・・・

ずっと、彼女への片思いを引きずりながら・・・


もう二度と会えないと思っていたのに。


でも、結婚する前に1度だけ、君に会うことが出来たんだ。

偶然、小学校のSNSのコミュで君を見つけ、勇気をだしてメッセを送ったら、君だった。

新宿で待ち合わせして、一緒にご飯を食べた。


君は、あの時のことは全然覚えてなくて、もう結婚して子供も2人いて、毎日子育てで大変で、それに旦那にも浮気されたり、踏んだり蹴ったりだって笑っていた。


そして、再開した彼女から名古屋に行った後、2年後に札幌の隣の恵庭に引っ越して来ていたと聞かされ、かなりのショックを受けたんだ。 もう二度と会えないと思って諦めていたのにそんな近くに彼女がいたなんて・・・もし、当時の俺がそれを知っていたら、俺がアッコちゃんを幸せにしてあげることが出来たかもしれないのにと思ってしまったんだ。


彼女に再会して一度だけ二人だけの同窓会のようなデートをしたあの日を最後に、僕はいまの妻と結婚して、仕事が忙しくなってからは、そんな夢も見なくなっていたのに。


なんで、また・・・


どうして・・・


目の前で再生されていた映像は次第に消えて行き、目の前が真っ暗になり・・・


ハッ!? っと思った瞬間、目が覚めてしまった・・・


それから、しばらく寝付けずにいた。

そして、ベッドを抜け出してトイレに行った後、キッチンへ行き冷蔵庫から麦茶を出すとグラスに注ぎ、気持ちを落ちつかせるためにグイッとそれを飲み干した。


そして、またベッドに戻ると、静かに瞳を閉じた・・・


さっき見た夢があまりに懐かしく、久しぶりに見た夢のせいで、あきこちゃんへ思いを馳せていると。

また次第に眠気の中で気を失ったように眠りについた・・・


― ― ――― ―――――― zzzzzz



―――ん? 眩しい!


また? っと思っている内に、目の前は白い光でいっぱいなった。

今日は疲れてるんだろうか、よく夢をみる・・・


瞼の裏が全部白い光に包まれて、また何かが見えはじめた。


ここは?


あぁ、あそこだ。

ということは、近くに・・・


やっぱり・・・聖子がいる・・・


高校に入学して、1週間くらいしたある日。

自転車で下校途中に赤信号で止まっていると、自転車に乗った彼女がスーッとやって来たんだ。


中学の時にずっと片思いをしていた人だった。

卒業した後も、ずっと彼女の事が好きだったんだ・・・


もし、あの日、自転車に乗った女子高生になった彼女に、勇気を出して声を掛けていたら何かが変わったかもしれないのに・・・


アッコちゃんと入れ替わるように、小学6年生の初めに転校してきたのが、三田聖子(みたせいこ)ちゃんだ・・・


アッコちゃんが居なくなってずっと沈んでいた気持ちが、聖子を見た瞬間世界が変わった。

小学生の頃は違うクラスだったけど、登下校時に彼女を見かけてはずっと彼女を目で追っていた。

家が自分と同じ住所で、近所だと知ったのはそれから間もなくしてからだ。


サッカー少年団の帰りに、彼女が犬の散歩をしているのを見かけて。

それで、家が近所だって初めて知った。


中学生になって、聖子と同じクラスになってすごい嬉しかった。

3年間同じクラスで、何度か席が隣同士になって。

気軽に話しかけてくれる彼女が凄い可愛くて、いつも良い香りがした彼女が大好きだった。


同じ委員会をやろうって言われて、二人で立候補もした。

嫌いな女子の話や、好きな芸能人の話、漫画の話、色んな話をした。

隣の席で、同じ委員会に入ったせいで、女子に噂されたこともあった。


でも、俺は引っ込み思案の性格で、女の子との会話も得意じゃなかったから、聖子にも結局告白なんて出来なかった。 なんどもチャンスはあったけのに、嫌われたらどうしようという恐怖に勝てず、結局中学3年間で彼女に告白することなんて出来なかった。


高校はそれぞれ違う高校へ進学をした。

でも、家が近所だったから、学校帰りに何度も彼女と会う機会はあったんだ・・・


高校に入っても、そんなすぐ性格や人間性が成長するはずもなく。

高校3年間もずっとヘタレだった僕は、一度だって彼女に声を掛けることが出来なかった。

好きだと意識すればするほど、彼女を意識すればするほど、遠くに感じてしまい。

一度だって声を掛けられずに、高校を卒業してしまった・・・


でも、一度だけ・・・


大学生になった初めての夏休みに、家でボーっと1人で考え事をしている時に、聖子の事がふっと頭をよぎり、どうしても聖子の声が聞きたくなってしまい、思わず電話をしてしまったんだ・・・


「久しぶり! どうしたの?」


中学校の時と変わらずに明るく会話を始めてくれた彼女。

聖子が高校を卒業してから、旭川の隣にある、深川の短大に進学していたことや、札幌と違って田舎で物価が高くて、一人暮らしが意外と大変とか、本当に他愛のない会話をした。


電話をする前に決めていたはずなのに・・・

彼女に告白しようって。


でも、ヘタレな僕は電話を切る最後まで、彼女へ気持ちを伝えることが出来ず、懐かしい友達のまま、バカみたいに電話を切ってしまった・・・


それが、聖子とかわした最後の会話だった。

それ以降、彼女に会うことは一度も無かったんだ・・・


今の僕なら、高校1年の春の学校帰りに、あの場面で偶然出くわした聖子に絶対話しかけることが出来るのに・・・あの日、あの時、彼女に声さえ掛けていたら、何かが変わったのかもしれないのに。


少なくとも、午前授業で帰ったあの日なら、そのままどっかご飯でもとか。

こんど遊ぼうとか、声さえ掛けていれば、次につながら何かがあったかもしれないのに・・・

そうしたら、高校3年間に、聖子と偶然会えるかもしれないと、彼女の通学経路に合わせて偶然を期待しながら過ごして、彼女を遠くから見ることが出来ない残念な思いをすることだって無かったのに・・・


真冬の学校帰り、同じバスに乗り、同じバス停で降り、彼女が先にバスから降りて、吹雪いて視界が悪いなか、僕の数メートル先をスタスタと歩いていってしまう聖子の後ろ姿を見ている映像が最後だった・・・


あぁぁ・・・また夢が終わる。

目の前の映像が霧散するように消えて行き、また次第に目の前が真っ暗になっていった・・・

 

あぁぁ・・・また大好きだった女の子との思い出が消えて行く。

暗闇に消えていく・・・


なんで、こんな辛い過去の思いでばっかり。

どれもこれも、僕が少しでも勇気があれば変えられたかもしれないのに。

やり直せるなら、やり直したい・・・



そう、頭の中で思っていると、どこからか女の人の声が聞こえて来て。



―――後悔してる?

「えっ? そんなの、後悔してるさ」



―――あの頃に戻りたい?

「どこに?」



―――いま見たじゃない

「いま見たって・・・さっき見た夢の場所へってこと?」



―――そうよ。どの場面に帰りたいの?

「どの場面って・・・そんなやり直せるわけないじゃん」



―――もし、やり直せるとしたら?

「そんなのやり直したいに決まってるし・・・」



―――どこに戻りたいの?

「どこにもどりたいって、アッコちゃんのあの瞬間? それとも聖子とのあの瞬間ってこと?」



―――どっちでもあなたが願えば、それは叶うわ

「じゃあ・・・小学5年生?」



―――そう、わかったわ・・・



誰? 女の人の声・・・誰だったんだ?

わからない・・・


今日はもう本当なんでこんな色んな夢を見るんだろう?

いまいったい何時なんだ?


―――アキラ~ 起きなさい!


ん? もう、朝・・・



―――早くしないと秀樹君が迎えにくるわよ!


秀樹!? はっ!?


びっくりして、目を開けた・・・


どこだここ? 実家?


・・・実家の、俺の部屋?


昔の実家だ・・・そして俺の部屋!?


えっ? なんで? どうして!?


「なにぼ~っとしてるの? 早く起きなさい!」

「えっ? お母さん?」


階段の下から声を掛けたのに、中々起きてこない僕を起こしに、部屋に母親が入って来て、戸惑っている僕に向かって、早き起きろと言っている・・・


「なに? 寝ぼけてるの?」

「イヤ・・・ここは?」


「はっ? あんたの部屋でしょ?」

「俺の部屋・・・」


「寝ぼけてないで早くしなさい、秀樹君が来るわよ」

「えっ? 秀樹?」


・・・夢じゃない?


妙にリアルだし、こんな感触がある夢とかあるワケ・・・

母親も、なんか若いし・・・


いったい、いつなんだ?


混乱しながらも、とりあえずベッドから出ると。

そのまま、部屋から出て階段を降りて行った。


リビングに入ると、お姉ちゃんが新聞を眺めている姿が目に入り・・・


「ちょっと姉ちゃん、新聞貸して!」

「なに? 見てるのに・・・」


「ちょっとだけで良いから、どうせテレビ欄しか見てないでしょ?」

「はあ? もう・・・なにコイツ・・」


そして、お姉ちゃんから新聞を奪うと、真っ先に日付欄を確認した。


―――2000年9月25日 月曜日!?


はっ!? えっ!? 2000年って嘘だろ!?


新聞の日付欄を見ても、まだ現実を受け入れられずにいると。

リビングのテレビから・・・


え~ 次のニュースです。


第27回夏季オリンピック・シドニー大会、10日目の24日。

注目の女子マラソンが行われ、高橋尚子選手が2時間23分14秒の五輪最高記録で日本陸上界戦後初の金メダルを獲得しました。


はっ!? シドニーオリンピック・・・金メダル?

本当に2000年なのか!?



「アキラ! はやくご飯食べなさい!」

「えっ? うん・・・」


現実を受け入れられないまま、母親に出された朝ごはんと食べ始め。

母親に急かされながら、ご飯を食べ終わると、そのまま洗面所へ向かった。


えっ!? マジかよ・・・


鏡に映っていたのは、小学5年の自分の姿だった・・・ 


―――本当に戻ったのか?


イヤ、でも・・・これもまだ夢の中なのでは・・・

また、あの白い光に包まれて、あたりが真っ白になるんじゃないのか?


そんな事を考えながら、ボーっとしていると。


「―――アキラく~ん」


ん? この声って・・・


「ほら? 秀樹君が迎えに来ちゃったわよ! ごめんね~ もう少し待っててね~」


秀樹!? 本当に秀樹なのか!?


清水秀樹(しみずひでき)


幼稚園からの幼馴染みの秀樹だ・・・

毎朝、俺の家まで迎えに来てくれていたんだ。


僕は、混乱したまま、学校へ行く準備をすると。

そのまま、玄関で靴を履き、外で待っている秀樹と対面した。


「おはよう!」

「えっと、秀樹・・・なんだよな?」


「はっ? 何言ってんの? 寝ぼけてるのかお前?」

「イヤ・・・だいじょうぶ。 たぶん・・・」

「ふ~ん」


間違いない・・・オレ完全に戻ってる。

小学5年生に・・・


秀樹は同じ住所の近所に住んでいて、毎日こうやって迎えに来てくれていた。

俺が1組で、秀樹は3組。


すると、1組には・・・彼女がいるはずで・・・

転校までにもう半年しか時間が無いけど、岩崎亜希子ちゃんがいるはずなんだ。


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