休日に悪の組織のボスごっこするの楽しすぎwwwww
テレビでニュースが流れている。
「黒ずくめの集団が宝石店を襲撃し、2億円相当の宝石を……」
物騒なニュースだ。俺はテレビを消す。
なぜなら俺はこれからもっと物騒なことをするからだ!
その名も――悪の組織のボスごっこ!
子供の頃から「悪の組織のボス」というのに憧れてた俺は、ついに休日ごっこ遊びをやるまでに至ってしまったわけである。
今の俺の恰好はだいたいこんな感じ。
まず、上下ともに黒スーツ! 肩には黒マント!
さらにはサングラス!
膝には猫のぬいぐるみ! 悪の組織のボスは猫飼ってるイメージあるし!
葉巻を口にくわえる!(通販で買った。火はつけないし吸わない)
豪華な椅子は……高くて手が出ないので普通の椅子に腰かける!
う~む、どこからどう見ても悪の組織のボスに見える。かっこいいぜ、俺!
椅子の横には地球儀を用意してある。
これをコロコロ回転させて、どの国を攻撃するか決めるためのものだ。
え、マフィアのボスだとか怪人の首領だとか魔王だとかがゴッチャになってる?
いいんだよ、俺のイメージをブチ込んだ悪の組織ボス像なんだから!
どうせごっこなんだし、ごった煮しなきゃ損だっての!
本格的にごっこ遊びが始まる。
まず、ブランデーグラスにブランデー……ではなくウーロン茶を入れる。
なんでブランデーじゃないかって? あんまり飲めないのよ酒。酔うとすぐ寝ちゃうし。
葉巻を吸うフリをする。
「ふぅー……」
眼前にイマジナリー煙を吐き出す。
グラスを存分に回してから、ウーロン茶を飲む。(勢いよく回しすぎて少しこぼれた)
うーむ、ブランデーグラスで飲むウーロンはまた格別……。
地球儀を回す。
「さて、次はどの国を滅ぼそうか……」
邪悪な笑みを浮かべつつ、某番組のダーツの旅のノリで、適当な箇所を指さす。
思いっきり太平洋のど真ん中を指していた。
国なんかねえ!
「……太平洋か。ふ、ふふ、太平洋を滅ぼすのもいい」
お、だんだんノッてきたぞ。
「太平洋を滅ぼせば水不足になり、人類は滅ぶからなァ!」
俺も滅ぶ気がする。
「フ、フハハハ……ハーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
悪のボスらしい高笑い。だが、やりすぎると、
「ハッハッハッ……ハ!? ゲホッ、ゴホッ……むせた」
高笑いは用法用量を守って正しく使いましょう。
さて、ここまで見て諸君は俺のことをどう思っただろうか?
せっかくの休日に一人でバカやってる寂しい奴だ、病院行け、なんて思ってやしないだろうか?
そりゃま、確かに俺もたまに我に返ってそんなことを考える時もある。
だが、今の俺はもうそんなことは考えなくなった。
――なぜなら!
今の俺には仲間がいるからだ!
そろそろ来てくれるはず……。
ピンポーン……。
来たっ! 小躍りしながら、俺は玄関に向かう。
来客は、俺よりいくらか若く小柄な青年。少々抜けてそうだが、優しそうな風貌をしている。
「こんにちは!」
「やぁ、いらっしゃい。上がってくれ」
悪の組織のボスコスプレをしてる俺にも全く引かずに挨拶してくれるこの青年は、俺の同志である。
SNS上で「悪の組織のボスごっこしてまーすw」なんて自己紹介したら、大抵は冷ややかな反応が返ってくるのだが、彼だけは食いついてくれたのだ。
そして、「僕も参加させてくれませんか?」と仲間になってくれたのだ!
最初は一人でバカやることの気楽さが失われることに躊躇したが、今ではやっぱり仲間を増やしてよかったなと思う。
「じゃあ、僕が部下やるんで!」
「いつも部下役やらせて悪いね」
「いえいえ、いいんですよ! 僕は悪の組織の部下をやりたい人間なんで!」
いかにも下っ端怪人というコスチュームに着替えた青年に、再びボスになりきった俺が言い放つ。
「世界征服計画はどうなっておる?」
「は……。ヒーローに邪魔されて、思うように進んでおらず……」
「バッカモーン!」
お、今のはなかなか「バッカモーン」だった。95点。
さらに葉巻を投げつける。外れた。
「いいか、次こそヒーローを倒すのだ! 失敗は許さん! よいな!」
「ははーっ!」
うーん、気持ちいい。
やっぱり悪の組織のボスには、部下を叱るシーンがあってナンボだよな。
もちろん、せっかく部下役がいるのだからこれだけではない。
こんなシーンもやる。
「ボス……あんたの時代は終わりだ」
青年が俺にモデルガンを向ける。意外と迫力が出てる。
「よ、よせっ! 話せば分かる!」
「あばよ……ボス」
バン、と撃つ真似をする青年。
「ブ、ブルータス……お前もか……」
死ぬ俺。悪の組織のボスは下克上されがちなのである。
犬養毅とカエサルが混ざった死に様となった。
どっちも悪の組織のボスじゃないけど。
これ以外にも、
最終兵器を起動させようとするボスとその部下ごっこ。
容赦なく部下を盾にする非道なボスごっこ。
覚えてろーと二人仲良く逃げるボスと部下ごっこ。
などを楽しんだ。実に充実した休日となった。
「じゃあ、僕はそろそろ……」
「ありがとう。今日も楽しかったよ」
「次はいつにします?」
「来週は予定があってね。再来週はどうだい?」
「かまいませんけど、予定って?」
「ノーベル賞獲った前田教授の講演会さ。俺の恩師でもあるから出席しなきゃならないんだ」
「そうですか、分かりました。では再来週またやりましょう!」
青年は笑顔を見せると、帰っていった。
今日も楽しかった……。これで明日からも頑張れる。
やっぱり悪の組織のボスごっこって楽しすぎる!
*****
アパートの一室を出た青年は、こう独りごちた。
「やはりいいものだな。部下になりきるというのは……初心に帰れる」
スマホを取り出し、どこかに電話をかける。
「ああ、俺だ……。先ほどの宝石店襲撃、ご苦労だった。後で褒美をくれてやる」
さらにこう付け加えた。
「それから……来週の前田教授誘拐、あれは中止する。あの教授は我らの組織の役には立たんと考え直した。ああ……その代わり別の指令を与えるから準備は怠るな」
完
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