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真相逆凪

 あれから二日が経過した。


ミホの葬儀はソマリア城で執り行われ、ボクとニーナさんも参列した。


エリュシア聖教の様式で進められるとかの説明を受けたが、まったく頭に入ってこなかった。


ただなぜと、何が起きたのかと、そればかりを考えていた。


葬儀が終わると国王に呼び出された。


こちらから謁見を申請しても早くて三日はかかる。


国王という立場上仕方ないこととは理解しているが、早く会って事情を聞きたかったため助かった。


「先に言っておくが、殴りかかってくるなよ。

そうなれば俺は王としてお前を罰する必要がでてくる。

だが言葉であれば聞く、俺に言いたいことは全てここで吐き出しておけ。」


初めて見たときの重圧は感じない。


そればかりか疲れているようですらある。


責めるつもりなんてなかったが、弱々しく見える王の姿に言葉がでてこない。


「……何が起きたんですか?」


なんとか言葉を捻り出す。


なぜミホが死ななければならなかったのか、納得のいく理由を聞くまでは帰れない。


「俺たちもギフトについて全てを知っている訳ではない。

だがおそらくギフトの過剰使用だ、同様の原因で死んだ者は過去に二人いた。」


「知っていたんですか? こうなることを予想できてたんですか!?」


一瞬で頭に血が昇る、わかっていて言わなかったのは明らかに裏切りだ。


「知っていた。言い訳はせん、使用を控えるようには言ったが禁止にはしなかった。

俺たちにはその力が必要だからだ。

そんな謎の力に頼らねばならぬほどに俺は弱い、女一人を守れずに死なせるほどにだ。

笑いたければ笑え、嘲笑も蔑みも全て呑み込んでやる。

魔獣を討ちこの国に安寧を取り戻すまで、俺は決して止まることはない。」


何も言えない、ボクには覚悟が足りなかったから。


なんとなく言われるがままに進んでいるだけのボクに、言い返す言葉なんて……


「お前にこれを渡しておく、いらなければニーナにでも渡しておけ。」


王に手渡されたのはミホの学生証だった。


おそらくこの世界に転移した際に持っていたものだろう。


「貴様のような軟弱な男の手を引き、輝かしい新世界への扉を開いた勇者の遺品だ。

それを持ってお前もその勇者のように強くなれ。」


そうだ、ボクはきっと一人では前に進めなかった。


あいつが無理矢理ボクを連れ出してくれたから昔よりも前向きになれたんだ。


「ありがとうございます、お預かりします。」


少し血の付いた学生証、常に持ち歩いていたんだろう。


楽しかった前の世界に、いつか帰ることを願って……





 「ザリチェ、お前が知ってることを教えろ。」


王との謁見の後ギルドへの帰り道でボクはザリチェに声をかけた。


王と話せたことで少しは冷静になれたと思う、ならばこれから成すべき事を考えなければ。


「ミホの件か? あれはおそらく逆凪だな。」


「ぎゃくなぎ……?」


聞きなれない言葉にただ疑問符がうかぶ。


「術の反動だ、強い力を使った反動にミホの身体が耐えられなかったんだよ。」


「術の反動ってことは魔術でもありえるのか?」


術の反動…… 人を呪わば穴二つ? みたいなことか。


「魔術や魔術書は人間が使うために人間が作ったものだ、安全に使えるように作ってあるだろうな。

だがギフトは違う、これを言えばお前が逆上しそうだから控えていたがこの際だから言っておいてやる。」


そこまで言ってザリチェは一度言葉を切った、止めるなら今のうちだと言わんばかりの間を取るために。


「ギフトとは、よくわからんやつがよくわからん理由でお前達に与えているよくわからない力だ、なぜお前たちはそんな物を警戒もせずに使えるのか私には理解できんな。

他人に与えられたものをまるで自分が特別になったような気分になって好き勝手に使い、自分に不利益が発生したらキレ散らかす。

見るに耐えん愚かしさだな、あの女を死なせたのはお前の無知と無能だ。

なぜ死んだか? 原因を探るふりをしていたのはそれが自分のせいではないと思える理由が欲しかっただけだろう? お前が無力だからあの女が死んだんだ、忘れるなよ。」


ザリチェはボクが言われたくないことをハッキリと言った。


こいつはボクを甘やかさない、間違っていることは間違っていると言ってくれる、優しいやつなんだ


でも……


……クソッ、クソッ……ちくしょう……


そうだよ、わかってたさ、あの場でボクは何もできなかった。


こいつの言う通りだ、だから国王にも何も言えなかった。


自分の弱さを認めて、それでも堂々と振る舞ったこの国の王に、逃げ場所を探していただけのボクが何を言えるっていうんだ。


「誰が……ギフトなんてものをバラ撒いているんだ?」


「知らん、使いこなせるだろうと人間を過大評価した神か、使ってどうなろうと知ったことではないと傍観している悪魔か、どっちにしてもロクなものじゃないな。

まぁおそらく前者だろうな、悪魔にそれほどの力があるとは思えん。

ついでに教えてやる、神とかいう連中は人間よりもはるかに高い次元に存在している。

あいつらが降りてこないかぎりは人間が干渉することは出来ない、そして私は人間よりも少しだけ神に近い位置にいる。

だれも私を知覚できないのは存在しているステージが違うからだ。

理解できたか? お前がどれだけ異常な存在か、私が見えているということはそういうことだ。

クックック、初めて会った日にお前は不幸だと言ったのをちゃんと覚えていたか?」


そしてザリチェはボクに選択肢を突き付けた。


神を殺したければ人間を止めるしかない、神に抗うために神となるか、神に弄ばれても人間として死ぬか。


どちらを選んでもお前は不幸にしかならないと笑いながら……

おまけ


英雄の墓標


 ソマリア城の中庭を抜け、花で飾られた小道の先にいくと小さな聖堂がある。


深夜。


カツーン、カツーン、と石を叩く音が響く。


その音が聞こえると城内の人間は目を閉じて静かに祈りを捧げる。


聖堂の中には二人の男、国王であるギルベルトと宮廷魔術師のキリュウがいた。


「終わったかい?」


石を叩くギルベルトに近付きながらキリュウが声をかける。


「あぁ……」


王は覇気のない声でそれに答える。


「この石碑に刻まれた名前もこれで五十を超えた、俺たちはあと何人の犠牲者を出すんだろうな……」


キリュウからグラスが渡される、渇いた喉を潤すには向かない酒を一気に飲み干しそっと石碑に触れた。


「アリス、ロベルト、ユキト、ハンナ……」


順に名前を読み上げる、皆この国の為に戦い死んでいった英雄たちだ。


異世界から戦士を呼び始めたのは今に始まったことではない。


彼が生まれる前から繰り返されてきたことであり、この国の王が背負うべき罪。


「俺も……死ねば魔族になるのだろうな……」


「罪人だからね、私もそうなるだろう。」


「フッ……その時は魔王にでもなるか。」


「冗談じゃない、勘弁してくれよ、この国を滅ぼすつもりかい?」


王の言葉が冗談だとしてもキリュウはあわてふためく。


「知るか、俺が死んだらもう俺の国ではない、次の国王がどうにかすればいい。

だが、俺が魔王になった時に魔獣が残っていれば確実に人類は滅ぶ、俺が滅ぼす。」


「それは詰みだね、魔王か魔獣どちらかにしてくれよ。」


もはや呆れ果てた様子で苦笑いをうかべるキリュウは空になった二つのグラスを酒で満たす。


「当然だ、魔獣は必ず俺たちの代で仕留める、この国の王としてその責務を果たす、手を貸せキリュウ。」


「もちろんだ、そのために支払った代償だからね、無駄にはできない。」


決意を新たに乾杯をする二人、グラスがぶつかり合う音が真夜中の聖堂に響き渡った。

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