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才能反転

 なんとなく三人でパーティーを組んで一週間ほどたったある日、ボクはかねてより疑問に感じていたことをザリチェに聞いてみた。


「なぁザリチェ、魔族って何なんだ?」


動物も人間も死ねば死体が残る。


だが魔族は違う、彼らは死ぬと光の粒子になって消えていくのだ。


街の外に出ると多少なり魔族と呼ばれる者達に会うこともある。


これから先はもっと強い魔族に遭遇する可能性もあるだろう。


今のうちに情報だけでも仕入れておきたい。


「悪霊と言うのが一番近いな、生前に罪を犯した人間は魔族として生まれ変わる。

そこで罪を償うなり罰を受けるなりすれば次は人間として生まれ変われるらしい。

実際は知らんが、そういう教えをこの世界の者は受けている。」


実態がないから消滅するってことか……


「でも人間を襲っていたら償いにならないんじゃないか?」


「クックック、人間の尺度で言えばな。

人間が作ったシステムならそうなるだろうが、これはこの世界のシステムだからな。

今は魔族を管理する者がいない、もちろん生前の記憶もない以上魔族の原初の行動指針は魔族らしさ、つまり人間の敵対者だ。

魔王が人間の勇者に殺されてからの魔族は そういうものだから という理由で人間を襲うようになった。

それがこの世界の現状だ、賢くなったか?」


最後に一言多いがなんとなく理解した。


人間が魔王を殺したのなら因果応報ってことか。


「もう一つ、魔獣も魔族なのか?」


「違う、あれは呪いだ。」


ザリチェはそっけなく答えた、話したくないときの雰囲気はこれまでの付き合いで覚えた。


理由はわからないがこれ以上聞くなという視線は理解できる。


呪いか……


精神的なものだよな、呪術やら魔術やらで産み出されたものなのか……


現時点ではなんとも言えないか。


ザリチェが話す気分になるまでできる限りの準備をしておくしかないな。





ソマリアは城を中心に城下町があり、その周囲を壁で囲まれている。


当然商業目的の人間の出入りはあるが、壁の中で暮らしておけば魔族の驚異に晒されることもない。


壁の各所に設置された見張り台から常に外の様子を監視する兵が存在し、何かあればすぐに各方面に連絡がいく。


その情報はギルドにも入ってきて依頼という形でボクたちに伝わってきた。





「見つけた!! こいつは間違いないぜ。 でっかい足跡があった!!」


ミホの言葉にボクとニーナさんもすぐに駆け寄る。


確かにそこにあったのはでかい足跡。


この足のサイズなら身長は4~5mありそうだ。


「人間とは思えない巨大な人影…… 見張りの証言とも一致するね。」


ニーナさんがじっくりと足跡を観察する。


「指のあともあるからゴーレムではなさそう、サイズ的にオーガの線もないし、トロルかな……」


言葉の感じから七割くらいの自信ってところだろうか。


トロルの線で戦略を練るのが良さそうだな。


「今の戦力で勝てると思いますか?」


「勝てなくはない、ってところね。 一度戻って準備を整えるべき、無茶する場面じゃないよ。」


勝てなくはないか、ニーナさんでもギリギリってところなんだな。


トロルがどの程度の強さかわからないけど、準備して勝率が上がるならそうするべきだ。


「ミホちゃん一度帰るよ、トロルは大きな音に弱いから戻って小型の爆弾を準備する。」


小型の爆弾? ものすごく物騒なことを言い出したな。


そんな準備が必要な相手ってことなのか。


ニーナさんの言葉は聞こえていたであろう、しかしミホはその場から動こうとはせずボクたちのはるか後方を指差して言った。


「なんか煙がみえるよ。」


ミホの言葉に振り替えると木々の合間から白い煙が立ち上っているのが見えた。


さっきは見えてなかった、煙は確か白から黒に変わるから燃え始めたばかりか、あるいは狼煙の可能性もある。


「私たち以外にも傭兵やら王国騎士なんかも調査に出てる、もしかしたら件の魔族と開戦したのかも……」


「様子を見に行くべきだと思います。 もし戦闘になっているなら無茶をしてでも助けるべきです。」


「私もヒロトに賛成!! 助けに行きましょう!!」


ニーナさんは少し考え込む、この場でもっとも判断力があるのはニーナさんだ、自分の決断で誰かが危険な目に合うようなことは避けたいだろう。


「まずは様子を見に行く、私の指示に従ってね、危険だと思ったら逃げるよ。」


それでも無視はできない、やはりこの人はそういう人だ。






「うわぁぁ!!」


煙の出所に近づくと男の叫び声が聞こえた。


王国の騎士ではなさそうだ、ならば傭兵か。


そしてその傭兵に相対しているもの、あれがトロル……


大きな耳と裂けた口、でっぷりとした巨体はやはり人と比べると倍以上はある。


棍棒と呼ぶにはあまりにもお粗末な武器を持った浅黒い巨人は、今まさに逃げ惑う男に襲いかかろうとしていた。


「私が気を引いてる間に怪我人を!!」


すぐさま男を助けに入るニーナさん。


様子見はなくなったらしい、ボクも近くに倒れていた男に駆け寄る。


「動けますか? 動けるなら自分で逃げてください。」


悪いが肩を貸してやる余裕はない、ボクたちもギリギリなんだ。


飛び出したニーナさんの表情がそれをものがたっていた。


いつもの冷静さを感じられなかったのだ。


「ヒロト、こっちの人もだいじょぶみたい。」


遠隔操作、ニーナさんの周囲を2本の剣が浮かんでいる、さらに右手に1本。


3本の剣であらゆる方向から斬りつける独特の戦術、ギフトを使った戦闘を見るのは初めてだが見惚れるような強さでトロルを圧倒している、ように見えたが……


「斬ったところがすぐに再生してる?」


「トロルの強みは耐久力と再生力だ、あの女では火力不足だな。

さっさと逃げるべきだぞ。」


ザリチェが状況を説明してくれる。


ボクにはわからないことでもこいつなら知っているし、なによりこの場でもっとも冷静だ。


「ニーナさん!! 怪我人は大丈夫です、逃げましょう!!」


ボクの言葉に小さく頷くのがみえた。


あとはここからどうやって逃げるか。


ボクは魔術書に書かれた魔術の中から使えそうなものを思いだそうと思案する。


攻撃か、目眩ましか、逃げる時間を稼げればいい……


「ニーナ先輩、危ない!!」


隣で様子を見ていたミホが叫ぶ、考えている内に状況は刻一刻と変わっていく。


もっと早く判断しなければいけない場面のはずなのに……


ボクがまごまごしている間にミホはギフトを発動しようと空中に文字を書いた。


「殊」


特殊の殊という字がうっすらと空中に浮かび上がった。


次の瞬間……


ボンッと不快な破裂音をさせて、トロルが胴体から真っ二つに切り裂かれる。


なんだ今のは、ミホがやったのか……


ボクも漢字に詳しくはないためその字にどんな意味があるのかはわからないが、ひとまずはなんとかなったようだ。


「ミホちゃん凄いね、今のが超必殺ってやつ?」


ニーナさんから見てもやはり凄かったのだろう、あの巨体を一撃だなんて。


もしかしてミホは凄いやつなんだろうか、性格はあれだが。


「そうですよ!! 樹を切れるからこいつも切れるかなって思ってやっ……たら……ごぼっ……」


得意気に語るミホはなぜか口から大量の血を吐き出した。


トロルはすでに消えている、うっすらと光の残滓が残っている程度だ、あの状態から攻撃を出来たとは思えない。


「ミホ、おい大丈夫かっ!!」


ボクの呼び掛けに反応したミホはこちらに視線を向けた、恐怖に震えるその表情はいつもの元気な…… 元気しか取り柄のないミホとは別人のようだ。


声を出そうとしているのか、微かに唇が動く、だが……


ミホの身体は先程のトロルと同じように胴体から真っ二つに裂け、そのまま事切れた。


本作を読んでいただきありがとうございます。


京マーリンです。


今回は漢字のお話を少し。


『殊』という漢字の成り立ちです、本編の補足を後書きでやるポンコツです、ごめんなさい。


作中に説明できるキャラがいなかったんです……


では言い訳はこの辺りで本題ですね。


殊という漢字は切り株のように身体を真っ二つに切断する死刑方法からきているらしいです。


左側の「歹」かばねへんは死に関する漢字によく使われていますね。


今回は必要最低限しか調べていませんが、機会があればもっとたくさんの漢字を勉強したいと感じました。


今はちょっとインプットする余裕がなくて……


では今回はこのあたりで、言い訳ばっかり書いてた気がしますが。


また次のお話であなたにお会いできることを楽しみにしております。         みやこ

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