未来思案
ソマリア王国内 空き地
「刈」「刈」「刈」
ミホが空中に漢字を書くと、地面の草がひとりでに刈り取られていく。
書いた漢字を現実にするというミホのギフトはただの草むしりにも使えるようだ。
僕たちはギルドからの依頼で荒れ地の草むしりをおこなっていた。
ギルドにはさまざまな依頼がやってきてそれを異世界人やこの世界の傭兵が請け負っている。
簡単に言えば派遣のバイトだ。
国民からの依頼は多岐にわたり原生生物や猛獣の狩猟、魔族と呼ばれる人の外敵を討伐したり、引っ越しの手伝い、壊れた柵の修理などなど。
ギルドの仕事の流れをつかむため、手始めに草むしりの仕事を引き受けることにした。
そうだ、これは草むしりだ。
「三日先輩、草刈りじゃないんだからちゃんと根っこから引っこ抜かないとダメだろ。」
「えー、そんなもんかよー。 じゃあ掘るにしようかな。」
「掘」「掘」「掘」
不服そうにしながら漢字を変えるミホ、画数が増えて面倒になってきたのかダラダラと腕を振っている。
普通に手で引っこ抜けばいいのだろうが手に入れた力を使いたくなる気持ちはわからなくもない。
ソマリア王国 近郊の森
木々の中を駆け回る。
張り出した根、ぬかるんだ土、でこぼこの岩。
森の中は思った以上に走りにくい。
「ぎゃぁぁ!! クモの巣がぁ!!」
「うるさいな、鹿が逃げるだろ。」
今日のギルドからの依頼は鹿一頭の狩猟。
「だってクモの巣が、気持ち悪いよ、取ってよ。」
鹿の姿は確認できても容易に捕まえられるものではない。
そもそもボクたちが受けた研修や訓練は猟師になるためのものではないから当然だ。
三時間程度森の中を駆け回り、ニーナさんに成果を報告に戻る。
報告できるような結果は出ていないため気分は憂鬱だ。
「お疲れさま、どうだった?」
「何の成果も得られませんでした!!」
ミホが元気に報告をする。
あれだけ走り回って結果もだしていないのによく元気に報告できるな。
「そうだと思ったよ、ひとまず私が捕まえた一頭を持って帰ろうか。
それでこの依頼は達成だね。」
そう言うとニーナさんは戦利品の鹿を軽々と肩に背負う。
「どうやって捕まえたんですか? 」
野性動物は想像以上に素早かった、危機管理能力だろうか、こちらの動きを察知してからの初動までがとにかく早い。
罠かなにかを仕掛けていたのだろうか、特殊な訓練でも受けていない限り野生の鹿を捕らえることなんか出来るはずがない。
「遠くから魔術を撃ち込んだだけよ。
君たちこそどうやって捕まえるつもりだったの?
もしかして近づいて飛び掛かるつもりだった?」
イタズラっぽく笑いながら街の方へと歩き出すニーナさん。
確かに魔術を使うという選択肢が出てこなかったのは手痛いミスだな。
この世界の常識にも慣れてきたつもりだったけど、与えられただけの力はダメだ、もっと自分の物になるくらい使い込まないと。
自分に出来ることを理解しておかなければ咄嗟の判断ができないという教訓になった。
「私はまだ本気をだしてなかった、超必殺を温存していた!!」
ぶつぶつと一人で考え込んでいるとミホが突然声をあげる。
その盛大な負け惜しみがゴロツキの捨て台詞みたいでつい笑みがこぼれてしまった。
「そういうのはいいから、さっさと行くぞ。」
その日の夜。
「私の超必殺を使えば勝ってた。」
ミホはまだ負け惜しみを言っていた。
大衆食堂といった店内で夕食をとる。
ソマリアで出てくる料理は全体的に薄味で硬いものが多い。
食べ物に関しては前の世界のものは良いものではあったが、美味しいと感じるのはソマリアの食事の方だ。
一日働いたから、自分で稼いだ金だから、誰かと一緒に食べるから……
理由はいろいろあるのだろうが、やはり一番はボクが今の生活を楽しめているということだろう。
「超必殺ってどんなの? 」
ニーナさんがしびれを切らしたのか、ついにその話題に触れる。
無視しておけばいいものを。
「それはモチ内緒ですよ。
いろいろ漢字を試した中で一番強かったやつで、ソマリア城の庭の樹を切り倒してメチャメチャ怒られた逸話があります。」
「ギフトはあんまり使っちゃダメって、陛下に言われたでしょ。
魔術で出来ることはなるべく魔術で対応しなさい。」
「えー、使った方が便利だと思いますけど、気を付けます……」
これは気を付けるつもりないな、この間も草むしりで使いまくってたし……
ギフトか…… 謎の力だな。
ボクのギフトは未だ不明のままだし、ザリチェは聞いたところで答えないだろうし。
「ニーナさんのギフトはどんなものなんですか? 」
たしか一年くらい前にソマリアに転移してきたって聞いたな、三日で先輩風を吹かせる誰かと違ってその経験や実力は本物だ。
「私のギフトは便利だけどちょっと面倒なところがあるんだよね。
私っていつも剣を6本持ってるでしょこれ全部特注品でさ、製造段階で私の血を混ぜてあるんだ。
そうやって血を混ぜたもの限定だけど遠隔操作出来る力……かな。」
特注だからお金が…… と小声になりながら話してはいるが。
「すごいですね、6本同時に操作できるんですか?」
「むりむり、頑張って3本だよ、思考が追い付かなくなるから。
私はギフトに頼らずに強くなるのが目標なの、そこまで出来なくてもいい。
将来的には国王直属の騎士になりたいって思ってるんだけど、陛下はギフトを使うのを嫌うからさ。
魔術や剣術だけで強くなりたいのさ!!」
そうか、この世界で生きていこうと思ったら進路を考えておかないとダメなんだ。
魔獣を倒して終わりってことじゃないからな……
「王様って超怖くないですか? 庭の樹を切ったときも怒られたし。
その時は王様って知らなかったけどね、あんま王様っぽくなかったし。」
「お前、謁見の時より前に国王に会ったのか?」
「めっちゃ怒られた!! 愚か者ー、むやみやたらとギフトを使うなー、って。
誰だこの兄ちゃんって思ったよ。」
てっきりキリュウさんに怒られたんだと思ってたけど、国王にだったのか。
それって樹を切ったから怒られたんじゃなくギフトの乱用で怒られてるみたいだし。
「えっ? 庭の樹を切ったらそんなご褒美が!?」
ゾッとするような勢いでニーナさんが食いついてくる、もちろんそれはご褒美ではない。
彼女のサイコな一面を見てさすがのミホも少し引いてしまったようだ。
「ニ、ニーナパイセンマジパネェッス……」
国王直属の騎士になりたい理由は聞かない方がいいだろうな。
本作を読んでいただきありがとうございます。
京マーリンです。
下書きをコピー用紙に手書きで書いてます。
その後に入力をするのですが、原稿用紙ではないので文字数が把握できません……
だいたいこれくらいで二千文字かな? と、感覚だけでやっていると多すぎたり少なすぎたりといったことがしばしば起こります。
なんとなく手書きのほうがスラスラ書けるんですよね。
皆さんはどんな書き方をされているのでしょう? 聞いてみたいものです。
ではまた次のお話で、あなたにお会いできることを楽しみにしております。 みやこ