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六刀剣士

 地図は欲しいな、出来ればそれぞれの国の特徴まで書かれているやつだ。


あとは歴史関係の本も読みたい……


ギフトの恩恵だろうか、文字を読むのに苦労はしない。


ならば情報収集もかねて、趣味もかねてと、ボクは書店にやって来た。


(これは……?)


「オッケーザーリチェ、この本は何だ?」


ボクは一冊の本を手に取る、掌に収まる程度の小さな本には魔術書のように呪文めいた文字が並んでいる。


「お前は私を何だと思っているんだ……」


「スマートなやつだと思ってるよ。」


不機嫌な表情から一転してまんざらでもなさそうな顔つきになると、ザリチェは得意気に解説をはじめた。


「一般家庭用の魔術書だな、お前が支給された魔術書の魔術を家庭で使えるように調整したやつだ。

威力を抑えて安全に使えるようにしたものってところか。」


なるほど、火力は低くても火種程度にはなるし、マッチを買うよりコスパがいいのかもしれない。


家庭の魔術、これも一冊買っておくか。


さらにいろいろと本を物色する。


情報収集は生き残るための基本だ。


この世界で生きるためにはボクはあまりにも知らないことが多すぎる。




「見つけたぁ!!お前、お前ぇ!!」


小説? これは絵本か、児童書くらいから読み始めるのもいいかもな。


聞きなれた叫び声が店内に響いたが、必死で聞こえていない振りを続ける。


「無視するなヒロトお前このやろう!!」


(うるさいな、わざわざ置いてきたのに……)


「静かにしてください、三日先輩。」


城を出る際に急いで支度をし、足早に出発したのはミホを置き去りにするためだった。


彼女はザリチェに比べればわかりやすい性格だ。


一緒に行動すればボクに不利益が、というかめんどくさいと思ったからだ。


「ふつう一緒に行くでしょ、バカなの、なに暢気に買い物してんの?」


「……本です。」


「何を買ったのかを聞いてるんじゃないでしょうがっ!!」


人の視線が集まりだす。


彼女はいっさい気にしていないようだがボクは早いところここを立ち去りたい。


「わかったから少し落ち着いてくれ、何の用だよ、金なら貸さないぞ。」


「お金は借りないけど私を置き去りにした慰謝料は払って、あと一緒に行こうぜ!!」


「どっちも断る。」


「あぁ……わかった、あれか、君の望みはあれだな、ちょっと待ってなさい。

あぁ……こほん、んっ、ん」


絶対になにもわかってないであろうミホは、無駄に咳払いをしながら喉の調子を整える。


声色を変えるくらいなら初めから猫をかぶって生活しておかなければ意味はないだろうに。


「こほん、異界よりらいほーせし勇者ヒロトよ、魔獣の討伐のために私の力を貸し与えましょう。

パパパパパパパン、タラタラタラタラターン。

ミホ ガ ナカマ ニ ナッタ。」


「勝手に仲間になるなよ、なんで断られてるのに上から目線で再挑戦してきたんだ……」


「いいのか? 泣くぞ?」


次は脅しか、そんなものが通用するとでも思っているのか。


(いや、泣かれたら困るな……)


「ひっ、うぅ、うっ……」


宣言通りミホは目に涙を溜めはじめた。


宣言してから泣きはじめるなんて完全にウソ泣きではあるが。


(まずいな、周囲の視線がいたい。)


どうすべきか思案する、その間もミホは嘘泣きの準備を進めている、このままでは面倒なことになる。


だが……


「おいってめぇ!! 女の子を泣かせてんじゃぁねぇよ!!」


この危機的状況に見知らぬ男が割って入った。


助かっ…… てない、さらに状況がめんどくさくなったとしか思えない。


「君のせいでチンピラに絡まれたじゃないか……」


「私の誘いを断るからでしょ、自業自得だよ。」


この状況じゃ何を言ってもボクが悪者扱いだろうな……


先程までのんびり本を選んでいたのに、ものの数分でここまで状況が悪化するなんて。


置き去りにするだけでは足りなかった、城を出たらまっすぐに街からも出るべきだったんだ。


「お前に言ってんだよ、聞いてんのか!!」


勝手にヒートアップしたチンピラはボクに掴みかかろうと向かってくる、今からでは走って逃げるのも難しいだろう、それにこの状態でミホを置いていくのはさすがのボクも気が引ける。



だが次の瞬間……


ボゴッ!! と鈍い音をたてながらチンピラの体が宙を舞う。


ガタガタッと本棚をなぎ倒し、品物である本が散乱する。


チンピラを殴り飛ばしたのは鎧に身を包んだ女性だった、綺麗というよりは格好いい系だ。


朱色の鎧やしっかりとセットされたサイドバックのヘアスタイルのイメージか、朱と黒の対比がワイルドさを演出している。


さらに腰の後ろに交差するように携えた剣、その数は六本……


「怖かったでしょ、もう大丈夫だよ。」


優しく声をかけてくれるが何も大丈夫ではない。


この書店は暫く営業できないだろう、その賠償金の請求はいったい誰にくるんだ……


卑怯なようだが仕方ない、ここは被害者面で乗りきろう。


いや、ダメだな、ちゃんと謝って……


「君たち転移してきた子でしょ、キリュウさんに聞いてるよ。

おいで、いろいろ教えてあげるから。」


なんだこの女は、勝手に話を進めるな、まずは書店に対して謝罪しろよ。


「いや、この惨状をどうにかしないと……」


「お姉さんTUEEEEE!! 見たヒロト!? 超すごかったねー!!」


「あぁ、そうだな……」


何を言ってるんだこの女は、チンピラはともかく書店に迷惑をかけるな。


このままだとこの書店に出入り禁止になるかもしれないだろうが。


ちくしょう、非常識な人間が増えた、類は友を呼ぶのだろう。


当たり前のようにやってきて当たり前のように人を助ける。


こんな人は前の世界では出会えなかった、きっと得難い出会いなのだろう。


だとしても……


やっぱり辛い、初日から本屋に出禁は辛いな……

あとがき


本作を読んでいただきありがとうございます。


京マーリンです。


前回はあとがきの代わりにおまけを書かせていただきました。


時々本編に直接関わらない程度の、ちょっとしたエピソード等を書いていこうと思います。


そこまで重要じゃない内容ですので、お時間に無理がない程度にお付き合いくだされば幸いです


では、また次のお話で。


あなたにお会いできることを楽しみにしております。             みやこ

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