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天涯孤高

 邪魔だから殺してこいか…… 言うだろうとは思ったが実際に言葉にされるとやっぱり重いな。やらなきゃソマリアに帰る方法を失う、それでも……


「……無理だ、人間は殺せない……」


「そうか、んじゃ足止めでどうよ? 俺が施設に入って亜人を助けるまでの間、この殺し屋を足止めしといてくれねぇか?」


 足止め…… それならやれるだろうけど、問題はこいつを信じられるかどうか……

 ……いや、裏切られても特に問題がない。こいつが逃げてもボクはそこまで困らないのに対して、ボクが裏切ればこいつは相当な危険に曝されることになるはずだ。


「ボクが裏切ったらどうするつもりなんだよ? その殺し屋にビビって逃げるかもしれないぞ」


「そん時はそん時だ、俺の目が節穴だったってだけでな。どうにかするしかねぇだろ。早いに越したことはねぇが今すぐ決めなくてもいい、準備が必要だろうしな」





 家庭菜園か…… もっと本格的なほうがいいのか? レシピ本には野性動物の調理方法は書いてないだろうな、どんな本を買うべきだろう……


「おいヒロト、何をやってるんだ?」

「あぁ。ソマリアに帰った時のために使えそうな知識を集めてるんだよ。今のままじゃキャンプの生活を守れないからな」


 ボクは帽子屋にもらった少額のお小遣いをもって本屋に来ていた。この世界の本を買って帰ればキャンプの運営の役に立つだろう。


 野菜の種なんかも買っていくべきか?


「帽子屋の依頼はどうするんだ?」


「もちろん受けるさ、一から帰る手段を探すよりは早いだろうしな。ただ…… 殺し屋がボクを殺せればそこで終わりだ。あまり期待はしてないけど」


 数冊の本を買って店を出た。服は帽子屋に借りたから馴染んでいるはずだが、相変わらず周囲から視線を感じるのはやはり白髪が原因か。

 ルクローチェが手間をかけて髪を赤く染める気持ちが少しはわかる。髪の色だけでこんなに冷ややかな視線を向けられるとは、さもしい世界だな……


「殺せと言われた時はすぐに断っていたな。人を殺すのには抵抗があるのか?」


「……ある。でも時間稼ぎならやるさ、適当にあしらってればいいんだろ。一度くらいは死んでもいいかもな、もしかしたらこっちじゃギフトは発動しないかもしれないし」


 何が言いたいのか、何を言わせたいのか、ザリチェは難しい顔で眉間にしわをよせている。つるつるのおでこに小さな谷間を作ったところで威圧感は特にないが……


「お前は一度自分を殺しているだろう、なぜ自分は殺せて他人は殺せない? 普通は逆じゃないのか?」


 そんなこと言われてもな、罪に問われるからとしか言えない。


「死を望んでるやつを殺してやるのは救いだからじゃないか? 死にたいやつを生かすのはエゴだろ。他人は死にたがってるかの判断ができないから殺さない? いや、そもそも殺人なんてやりたくないことだからじゃないか……?」


 だいたい深く考えるような事でもないだろう。悪いことだと教えられてきたからやってはいけないこと、くらいにしか認識してないし。


「歪だ、その歪さが納得できない。他人を殺してでも自分が生き残るくらいの気持ちはもつべきだろう」


「文化の違いかな、他人が突然自分を殺そうとするなんてことを想定して生きてない、人を殺すことは悪だという教育を受けて育ってるんだ、だからそんな気持ちを持ってなくてもいいんだろう」


 たどたどしく説明をしてみたが理解できないと思う。前提が大きくずれてる気がする。ザリチェにはこの世界の人間がどう見えているんだろうか……


「信頼というやつか。この辺りをうろついている連中は誰一人お前がナイフを隠し持っていることを知らず、疑いもせず無防備に歩き回っているということだな……」


「そうだな、人は法を作って法を守ることで法に護られてる。人は善だと信じて生きてる。ボクは良いことだと思うよ。お前はどう思うんだ?」


 質問への答えは概ね予想通りだった、呆れたように一言だけ吐き捨てられた答え。


「狂っているとしか思えないな」


 ザリチェらしい…… なんというかこいつは孤高なんだ。その生き方や思想に力強さがある。それは一度目の人生でボクが持ち得なかった強さだ。


「格好いいな、ザリチェは」


 素直に思ったことを口にした。ただこうして褒めると照れ臭そうにそっぽを向いてしまう。せっかくの格好よさが台無しだ。


 そんなところもこいつらしいんだけど。

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