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最高主教

 教会を出ていく信者たちと入れ替わりでボクは聖堂に入った。


しばらく中で待っていると扉が開く気配を感じ、すぐさま膝をついて頭を下げる。


横目でチラリと確認したところ女性が一人と護衛らしき騎士が一人、足元しか見れないためわかるのはそんなところだ。


どちらかが椅子に腰かけたのだろう、ギシギシと軋むような音が聞こえる。


しかし何か言われるまではじっと床を見続けるしかない。


「白髪…… なんだか不吉ね」


女性の声、だがどちらが発言したのかも判断できない、騎士の方も鎧を着ているというだけで女性の可能性もある。


「発言を許すわ、用件はなに?」


さっきと同じ女の声、まだ顔は上げないほうがいいのか……?


「この度は謁見の許可を賜りまことに光栄です……」


この言葉で正しいのか? 自信がないな……


「神器をご使用になられると聞き及び……」


「マリーの命を使って神器を撃つわ、決定事項よ。

私のやることに何か意見があるのかしら?」


これは厳しそうだな、口を挟むなって釘を刺された。


ギルベルト陛下もそうだったけど何でこの人たちが喋るだけでこんなにプレッシャーを感じるだよ……


「顔を上げなさいプトーコス」


(ぷとーこす? 何だ?)


「プトーコスとは放浪者という意味だ、この辺りでは異世界人をそう呼ぶやつもいる」


ありがとうザリチェ、居てくれて助かった。


心の中で礼を言い、意を決して顔をあげる。


そこにいたのは二人の男女。


椅子に腰かけた女と傍らに立つ男。


赤い髪の女がベル・クロン・ルクローチェで間違いなさそうだ。


シンプルな修道服はマリーと同じデザインではあるが、高価な生地なのか質が違うように感じる。


何よりも目を引いたのは両目を塞ぐように巻かれた包帯だ、あれでは前が見えないだろう、そもそも視力がないのか?


「少し前の話なのだけれど……私の可愛い聖女がさらわれたわ。

さらったのは異界の勇者よ、神器を使う為に呼んだのだけれどそんな非道は許さないと言って連れ去ったわ。

マリーはその代わりに呼んだの、ここまでの護衛、ご苦労さま、それで用件はなに?」


用件は……って、聞く必要ないだろ、なんでわかってて聞いてくるんだよ……


そんな話をされて神器を使わないでくれなんて頼めるか。


この女はボクの目的がわかった上で先手をとって潰してくる。


対してこっちは完全に情報不足、話にならない。


まずは情報、少しでも取り入る隙を見付けなければ。


「なぜ神器を使おうとされているのでしょうか?」


「サバトの山羊という悪魔を殺すためよ、異界の勇者が『自分がその悪魔を殺すから神器を使うな』って言ったの、私はその言葉に心をうたれて、うかつにも信じてしまったわ。

まさか逃げ帰ってきたあげくに聖女を連れて逃げ出すなんてね……」


やれやれといった表情で両手を拡げて肩をすくめる仕草があからさまに胡散臭い。


ここでボクがその悪魔を倒すなんて言っても信じやしないだろうし、下手すれば笑い者だ。


とはいえ、それ以外の方法もない……


「ボクがその悪魔を倒しますので、少しだけ神器を使うのを待ってもらえないでしょうか……?」


「ブフッ…… 失礼…… あまりにも勇敢だったのでつい、な」


初めて男のほうが口を開いた、というよりは笑われた。


それも仕方ないだろう、言うなと釘を刺されたのに言ったボクが悪い。


「そう…… じゃあ頑張って、三日あげるわ」


「えっ……?」


ルクローチェの口から出たのは以外な言葉だった、まさか許されるとは思っていなかったのでしばし思考が停止する。


「ルクローチェの星は上空から高熱の矢を地上に落とす武器よ、悪魔だけを狙うことはできないの。

その時あなたが近くにいて巻き込まれる可能性があったとしても撃つわ。

どのみち準備に三日はかかるから好きになさい」


上空から? まるで衛星兵器だな……


いや、そんなことより時間だ、三日以内にやらなければマリーが死ぬことになる。


「わかりました、必ずやりとげます。

それで、そのサバトの山羊っていうヤツはどこにいるんですか?」


上空から攻撃するってことは居場所を補足できてるんだろう、場所さえわかれば行って倒して帰ってくるだけだ、充分に間に合う。


「えっ、教えないわよ。あなたがそれで死んだりしたらギルベルトに付け入る隙を与えちゃうもの。あなたソマリアの兵士でしょ?」


おい、冗談だろ? この辺りの地理もわからないのに一から探せっていうのか……


それで時間制限つきなんて無理だ。


ダメだ、引き下がれない、ここで居場所を聞き出せなきゃ本当に不可能になる。


悪魔が魔族とどう違うのかはわからないが、おそらくギフトは発動するだろう……


「死にません、それだけは確実に言えます」


ゾッと背筋が凍るような視線を感じた、発言が軽率すぎたのだろうか。


ルクローチェが射殺すように冷ややかにボクを見ている。


「嘘は言ってないわね、レオン試してみて」


その言葉にレオンと呼ばれた騎士が一歩前に出る。


ルクローチェやギルベルト陛下と違いたいしたプレッシャーは感じないが……


「気を付けろよヒロト、こいつは剣聖と呼ばれるこの大陸最強の剣士だ」


また…… そういうことを直前に言わないでくれよ……

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