矛盾願望
「さっさとコンテニューしろ、いつまで私をこんな穴蔵に閉じ込めておくつもりだ。」
これで三回、いや自殺を含めれば四回死んだか、やっぱり死の感覚には慣れないな。
「うるさいな、あいつらにはお前が見えてないんだろ、嫌なら一人で出ていけよ。」
地面に寝そべったまま思考を巡らせる。
『次はどうなることやら……』
ザリチェの言葉を思い出す、耐性が付いているような感じか、巨人が遅く感じたのはボクの目が奴等の動きに追い付き始めたのだろう。
そしてボクを引き裂けなかったのは肉体が奴等の膂力を上回ったからか……
決めつけるのは危険だが死ぬ度に生きる力が向上しているってことだろう。
『長期戦なら分がある』
つまり死ねば死ぬほど勝率が上がるということか。
「クソッ、死んでたまるか。」
死にたくないが生き返りたくもない、死ぬのは怖い、あの耐え難い苦痛は味わいたくない。
でも死ねるなら死にたい……
自分でも矛盾しているのはわかっている、だが仕方ないだろう強制蘇生なんて隷属はゴメンだ。
それでも今は死ねない、こんなところで死ぬのは絶対にダメだ、奴等を殺す。
「殺される前に殺す、ボクや人間をおもちゃにして意味もなく殺した奴等を許すことはできない。
悪いなザリチェ、奴等を皆殺しにするまでボクはここを出ないぞ。」
死にたいけど死にたくない、これはあくまでボクの内側にある感情、願望だ。
あの巨人共には関係ない、奴等に向けるべき感情はこの怒りと憎しみ、殺される度に溜め込んできた殺意だ。
「あぁ、好きにしろ、私としてもそちらのほうが楽しめるからな。」
いつの間にか折れていた剣をその場に放り捨て、ボクは洞窟の奥を目指し歩みを進めた。
洞窟の奥、再びあの広い空間に戻ってきた。
二体のトロルがいるがこちらには気付いていないようだ。
使える武器は魔術書のみ、ボクは開いたページに掌をあて魔力を流し込む。
「燃え尽きろ……」
想定より大きな火球が作り出されそのままトロルに向かい飛んでいく。
火球は一体のトロルに直撃すると周囲の岩肌を融解させながらもう一体のトロルも巻き込み巨大な爆発を起こした。
「おいヒロト、私の言ったことを忘れたのか!!」
「忘れた、いつの何の話だ?」
耳が聴こえにくい、何であんな爆発が? そんなに強力な魔術を使ったつもりはないぞ。
「指先から水を出すイメージだと言っただろう、あれは使う魔力の量を絞るために言ったんだ。
魔力を込めすぎたんだよ愚か者。」
研修の時のあれはそういう意味だったのか、説明不足すぎだろ。
しかも解決になってない、ボクの魔力はそんなに多いのか……
「もう一度説明しておいた方がよさそうだな、人間がもっとも魔力を産み出すのは魂を燃やし尽くしたときだ、つまり死の瞬間なんだよ。
死ぬほど魔力を産み出して生き返り、魔力の総量はその分増える。
それを繰り返せばそうなるのは当然だ。」
死んだ分だけ魔力が増えるか。
増えるペースがボクの成長スピードを遥かに超えてしまっている、魔術はしばらく使わないようにするか、かなり魔力を調整しないとダメだな。
「お前の魔力はすでに人間の域じゃない、やたらと魔術は使うな。
魔力を込めて殴るくらいにしておけ。」
「あぁ、気を付けるよ。ボクだって自分で制御できない力なんてゴメンだ。」
今の爆発音で他のヤツも集まってくるな……
いや、大きい音が苦手なら動けなくなっている可能性もあるか。
ここで力を試しておかないと人前でいきなりはダメだ。
「いくぞ、残りの奴で力の制御をおぼえる。」
しばらく休んで聴力も回復してきた、微かに聞こえた足音の方へと向かう。
「ボクの力は死なないと発動しないんだよな。
例えばさっきの爆発音で鼓膜が破れていたら回復しないのか?」
「生きている間はな、死ねば回復するだろ。」
不便な力だな……
「魔力が増えれば肉体も強くなる、容量が増えれば容器も大きく強くなるんだよ。
ニーナがギフトを使わなくてもそれなりに強かったのはそういうことだ。
勝手に頑丈になるから放っておけ。」
魔力が増えればってのは死ねばってことだ、これ以上死にたくないんだよ。
今ある力で出来ることをやるしかない、さらなる力なんて望まない。
その後残りのトロルを見付け出し、魔力を込めて殴るというものを実践してみたがこちらも調整が必要になるだろう。
巨人の上半身を一撃で吹き飛ばした際はまたしてもザリチェに小言をいわれてしまった。
「……っ、眩しいな」
そうしてトロルを全滅させ洞窟を出た、死んで生き返るまでにかかる時間がわからないためどれくらい時間が経過したのかはわかっていない。
ボクは足元にあった石を拾い上げグッと力を込める。
パキッというこぎみいい音をたて、石は真ん中から二つに割れた。
こんなものか……
確かに洞窟に入る前よりは強くなった、しかし微々たるものだ。
対トロルには特化したようではある、奴等の攻撃を真正面から受けきれるし、素手で手足を引きちぎることも出来るだろう。
だが別の魔族や生物に対してもそれができるかはわからない。
検証の必要はあるがやりたくはないな……
「久しぶりの太陽だな、ソマリアに帰るのか?」
「いや、目的が変わった、この世界を見て回ることにするよ、観光ってやつだな。」
魔獣との戦いには参加する、この世界で現状もっとも危険視されているのが魔獣ならそれなりに期待できるだろう。
でもその前に目的を果たせるならそれに越したことはない。
「あの勇者に復讐でもするのか?」
あぁ…… いたな、忘れてた。
「……それは暇ができたらだな、正直どうでもいい。
関わるのは時間の無駄だし、ボクが死ぬほど欲しいものをなんの苦労もせずにあいつが手に入れるのは癪だ。」
「死ぬほど欲しいもの? 何が欲しいんだ?」
もしかしたらこいつは理解できるんじゃないかと思ったが、本気で聞いているのか……
「死だよ、ボクは強制蘇生なんて呪いから解放されたい、人間として死にたいんだ。
そのための方法を探す、ボクを殺せるやつを見付け出すんだ。」
魔獣ならば期待できる、それにこの世界には魔法なんかもあるんだ。
ギフトを消すような力も存在しているかもしれない。
「そうか、死ぬほど頑張れば死ねるかもな。」
ザリチェがニヤニヤと笑う。
今のボクがさぞ歪で滑稽に見えるんだろう。
「うるさいな、それで死ねたら苦労はしないさ……」
本作を読んでいただきありがとうございます。
京マーリンです。
ここで一章は終わりとなります。
これまでお付き合いくださりありがとうございました。
今後はあとがきをノベルアップ+様のほうに書いていこうと考えておりますので、こちらでは引き続き本編とたまのおまけのみ楽しんでいただけたらと思います。
では次のお話で、またあなたにお会いできることを楽しみにしております。 みやこ