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逃亡勇者

 ボクはある勇者のパーティーに入った。


男性二人と女性一人の三人組で、この世界で二年近く過ごしているらしい。


ソマリアで活動しているパーティーは現在三つあり、そのうちの一つが彼らであった。


彼らと一緒にいくつかの依頼をこなし魔族との戦闘にも慣れてきた頃、ある依頼が舞い込んできた。


「また街の近くでトロルが見付かったらしい、ヒロトは戦ったことあるんだろ?」


パーティーのリーダーが依頼書を見ながら問いかける。


トロル、あの時とは別の個体か……


「はい、あの時は手も足も出ませんでした。」


率直に事実を述べる、ボクはあれから成長できたのだろうか……


今戦っても何も出来ないかもしれない、未だにギフトは使えないままだし。


「話は聞いてる、仇を討ちたくはないのか?」


仇か……


いろいろと考えはした、ザリチェに煽られてそんなことも考えた、でもそれは違うと思う。


ボクがミホのために出来ることはもっと他にあるから。


「危険なやつなので対処するべきだとは思います。」


今言えることはそれだけだ、少なくとも彼らを巻き込んでまで仇討ちをやるのは間違っている。




 

 トロルが目撃されたという山中を進む、道中足跡などの痕跡は見付かったもののその姿を確認することは出来なかった。


このままだと日が暮れる、一度引き返すべきだと思うが。


「何やってるんだよヒロト、止まっている暇なんかないんだ、日が暮れちまうだろ。」


リーダーの叱責が飛ぶ、彼も焦っているんだろう。


メンバーにも疲れが見え始めている、今日は切り上げるべきだ。


「だからこそですよ、諦めて引き返すなら今のうちです。」


「リーダーは俺だ、引き返すなんて選択肢はない。さっさと行くぞ、ついてこい!!」


聞く耳を持たないか、焦りからイラついているのは明らかだ。


それでも皆しぶしぶリーダーについていく。


あるいはもう少し強く引き止めるべきだったかもしれない。




さらに山の奥へ、木々はその高さを増し日の光を完全に遮るほどだ。


辺りは暗くなり太い樹の幹が視界を狭める。


しかし収穫はあった、先程よりも頻繁に足跡が見付かっている、その足跡を辿った先に洞窟の入り口を発見できたのだ。


「この洞窟がトロルの住処らしいな、いくぞトロルはこの先だ!!」


ようやく見付けた確実な痕跡にメンバーが浮き足立つ、しかし……


「待ってください、この足跡は一人分じゃなさそうです。」


だがボクの忠告は届かず、リーダーを先頭に二人も洞窟の中へ、疲れと焦りから冷静さを失っているとしか思えない。


全員で中に入るべきじゃない、しかしここで見捨てることなんてできない。


犠牲を出すのだけはゴメンだ……


飛び出した彼らの後を追い、ボクも洞窟の中へと入った。





 ガラガラッと岩の崩れるような音が洞窟内にこだまする。


「うわぁぁぁっ!!」


続いて誰かの叫び声、しかし声が反響していまいち近いのか遠いのか判断できない。


横穴も多く複雑に入り組んでいる、足場も悪いし何より暗い。


何度も行き止まりにぶつかったせいか方向感覚も狂ってきた、手探りでひたすら奥だと思われる方向に進んでいく。


「ちくしょーっ!!」


リーダーの声だ近い、すぐさま声のした方向に向かう。


するとようやく広い空間にでた、そこにいたのはリーダー達とトロル、あのでっぷりとした巨体が……


5体も……


「ヒロト!! てめぇ何やってたんだよ、一人だけ逃げるつもりだったんじゃねぇのか!?」


巨人の攻撃をかわしながらリーダーが叫ぶ。


何とかかわしているように見えるが、巨人に弄ばれているようにも見える。


戦うには数が多すぎる、一度逃げて体制を整えるべきだ。


「とにかく脱出してください、こっちです、早く!!」


ボクの言葉に納得してくれたのか、彼らは出口に向かって走り出す。


その時だった。


「ヒロト、お前ギフトを持ってないらしいな……」


なんだ、こんなときに何を……


「俺がギフトを与えてやるよ。」


そう言うとリーダーはボクをトロルの群れの方へ蹴り飛ばした。


「お前のギフトはデコイだ、俺が逃げきるための時間稼ぎをしてくれよ。」


自分が生き残るためにだと…… ふざけるな……


「ふざけるなっ!! 戻ってこい卑怯者っ!!」


ボクの叫びが洞窟の壁に反響すると、トロルが一瞬動きを止めた。


大きな音に弱いってニーナさんが教えてくれたな……


あの後から顔を合わせるのが怖くて避けてきた、このパーティーに入ったのもそのためだ。


その結果がこれか……


巨人は逃げたリーダー達を追うものとその場に残るものとで二手に別れた。


残った巨人の一体がボクの腕を掴むと無造作に放り投げた。


「ぐっぁ!!」


肩に痛みが走る、脱臼したのか……?


ボクの身体は天井近くまで舞い上がる、かなりの高さ、地面に叩きつけられれば確実に死ぬ。


しかし地面に激突する寸前、別の巨人が雑にボクの足をキャッチした、捕まれた衝撃で足に激痛がはしる。


そんなキャッチボールを何度か繰り返した巨人は、ボクで遊ぶのに飽きてしまったのだろう。


最後は無慈悲に、無造作に、まるで紙を破り捨てるようにボクの身体を引き裂いた。



本作を読んでいただきありがとうございます。


京マーリンです。


今回のお話で出てきたリーダーというキャラは作者都合により悪人にされた悲しきキャラです。


私がもっとうまく話を展開できればよかったのですが、力量不足によりこのような結果となりました……


名前とかもあるんですけど、きっと陽の目をみることはないでしょう。


物語の序盤で主人公の強さを魅せるために出てくるチンピラ、私は彼らが好きです。


この子は尖っているなとか、よく見るタイプだなとか、その話にしか出てこない子がほとんどですけど愛すべきモブだと思います。


彼らがいないと物語が進みませんからね!!


そんなところに注目して作品を読むのも面白いかもしれませんよ。


私だけですか、そうですよね……


ではまた次のお話で、あなたにお会いできることを楽しみにしております。        みやこ

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