自殺少年
本作はノベルアップ+様でも投稿しております。
この世界に希望はないと思った。
学校でのイジメ、家族からは存在を無視され、どこにも自分の居場所がないと感じるようになった。
(こんな世界滅べばいいのに……)
毎朝そう願いながら目覚める。
きっかけはほんの些細なことだった。
正直、もう何がきっかけかもわからない。
積もりに積もった苦しみ、何がイヤなのかもわからない。
(いや、違うな……)
全てがイヤになったんだ、受け入れられるものなんて何もない、心にそれだけのキャパシティが残っていない。
だから死ぬことにした。
なるべく楽な死に方を調べて練炭自殺を選んだ。
自宅の浴室で、きっと家族には迷惑をかけるだろう。
(もうどうでもいいや……)
目を閉じて、眠るように、ボクの肉体はその役目を終えた……
はずだった。
(いったっ!! なんだこれ、痛い……!!)
身体を引き裂かれるようような痛み、内蔵が全身の穴から飛び出るんじゃないかという程にかき回される不快感、頭は煮えたぎるように熱いのに手足の先は冷えきって今にも壊死しそうだ……
死ぬ、これが死ぬってことか?
イヤだ、怖い、痛い、気持ち悪い、死にたくない、死にたくない……
そんな地獄の苦しみが続くなか、ぼんやりと人の声が聞こえてきた。
「大丈夫か、キミ、聞こえているかい!?」
聞き覚えのない男の声だ。
「大、丈夫……うっ、オエッ……」
ビチャビチャと吐瀉物を撒き散らす。
大丈夫かと聞かれたら大丈夫と反射的に答えるのは人間の致命的な欠陥だろう。
まったく大丈夫ではない、今もまだ痛みと不快感が残り続けている。
ボクは冷たい石畳に倒れこみ、そのまま意識を失った。
目覚めたのは簡素なベッドの上だった。
簡素とはいえシーツや布団はおろしたてのように綺麗だ、来客用の者なんだろう。
(どこだ? 病院って感じではないな……)
「やぁ、目が覚めたみたいだね、キミみたいな反応をした子は初めてだったから驚いたよ。」
意識を失う前に聞いた男の声と同じものだ、白衣のようなものを着た男性がボクの顔を覗きこみながら一杯の水を差し出す。
「今のキミの状況を説明しようと思うんだけど、体調はどうかな? 人それぞれだけどショックを受ける子もいるからね。」
誰だろう、医者か?
穏やかな表情と声、線の細さから受ける印象はとても優しげだ。
状況を説明してもらえるのは助かるけど。
「大丈夫です、おねがいします。」
そう答えると男性はにっこりと笑う。
口振りからしてボクと同じような人間は他にもいるのだろう、まずは現状把握だな。
「オッケー、聞きたいことがあればその都度、私の話を遮ってもいいから聞いてくれ。
気になることはすぐに解決しておいた方がいいからね。
まずはここがどこかという話から始めようか。」
ボクが小さくうなずくと男性はゆっくりと話を始めた。
「ここはソマリアという国で、キミのいた世界とは完全に別の世界だと定義されている。
パラレルワールドとか異世界とか、そんな言葉で説明すればわかるかな?
転移術式と呼ばれる魔術でキミはこの世界に喚ばれたんだ。」
(異世界……転移、昔そんな小説を読んだことがあったな……)
「この世界には魔獣と呼ばれる危険な生物がいてね、その魔獣と戦うことのできる戦士を集めて教育するのが私の仕事の一つなんだ。
無理を言っているのはもちろんわかっているんだけど……」
男性は申し訳なさそうな表情を見せながら一度話を句切る、無理を承知で頼まなければいけない状況ということなんだろう。
あまり楽観視は出来ないみたいだな。
「質問なんですけど、ボク以外にも喚ばれた人がいるんですよね?
あと、この世界の人間だけで対処できない問題なんですか?」
「うん、二つ目の質問から答えようか、答えはわからない、だね。
魔獣は今から100年程前に封印された、それがどの程度の危険度なのかははっきりとはわからないんだ。
その魔獣を封印した人間というのが異世界からの来訪者で、私たちの使う魔術とは体系の異なる不思議な力をもっていた。
そして一つ目の質問の答え、キミ以外にも喚ばれた人間は大勢いる、私たちは異世界人がもたらすこの世界にはない力をあてにしているんだ。
ギフトと呼ばれていてね、キミにもなにかしらの力が与えられているはずだよ。」
どの程度危険かわからないからできる限りの対策をとっているってことか、でも……
「ギフト……すみません、そんな力をもらった記憶はないし、なにがなにやらって感じで……」
「大丈夫だよ、キミにはこれからしばらくの間、ここで研修を受けてもらうから。
しばらくこの世界の常識や、魔術、ギフトについて勉強してその後どうするかはまた考えればいいさ。
それに、ギフトはキミにも与えられているよ、こうして不自由なく会話できているのも、そのギフトの恩恵だとされているからね。」
確かに言葉が通じるのは不思議だな。
別に前の世界に未練なんてないし、しばらくは付き合ってみるのもいいかもしれない。
得難い経験だ。
しかし……
「確認なんですけど…… ボクは生きているんですか?」
状況的に確認しておきたい、あるいはここが死後の世界という可能性もある。
「うん? 私たちの使用する転移術式というものは、転移であって転生ではないからね。
死んだ人間を喚ぶことはできないんだよ。
ここが死後の世界だと思っているのかな?
確かに理解しがたい状況ではあるだろうし、転移の際もかなり苦しそうにしていたからね。
死んだと錯覚しても仕方ないだろう。
でも大丈夫、キミはちゃんと生きてる、私たちの世界の定義で言えばだけど……」
「いや、自殺している途中だったんで、タイミング的にどうなのかなって思っただけです。」
淡々と話すボクの言葉を聞き、男性は少しうつむく。
しかし安心させるためだろう、穏やかな口調で答えてくれた。
「前の世界で何があったのかはわからないけれど、ここは完全に別の世界なんだ。
生まれ変わった気持ちでこの世界を生きてみるのもいいんじゃないかな。」
一瞬見せた悲しい顔に嘘は感じられなかった、悪い人ではないのだろう。
「詳しい話は明日にしようか、疲れているだろうしもう少し休むといい。
何かあったら階段の所に見張りの兵がいるから、彼に声をかけてくれ。」
そう言い残し男性は部屋を出ようとする、その背に向かって急いで声をかけた。
「すいません、名前、名乗ってなかったので、ボクはソウマヒロトです。」
「あぁ、ごめんよ、大人として私が先に名乗るべきだったんだけど。
私はキリュウ、ここで魔術の研究やキミたち異世界人の教育係を任されている、宮廷魔術師というやつかな。
明日からもよろしくね。」
キリュウさんはペコリと頭を下げて部屋を出た。
かなりざっくりとした説明ではあったがここが明らかに日本ではないことだけはわかった。
そして目の前に残ったもう一つの謎。
「君は一緒にいかないのか?」
ベッドに腰掛けている銀色の髪の少女に声をかける。
不健康そうなほどの白い肌、歳は12歳くらいだろうか、背中までのばした嘘みたいに綺麗な銀色の髪はこの世界では普通なのか、その見た目同様に纏っている雰囲気がこの世のものではないみたいだ。
ボクとキリュウさんが話している間、じっとそこに座っていた少女は、当然キリュウさんと一緒に部屋を出ると思っていたがその様子はなかった。
「そうか、やはりお前には私が見えているんだな。」
「見えているけど、ボク以外には見えていないような口振りだな。」
少女は口元に笑みをうかべ、心底楽しそうに答える。
「そうか、お前、不幸なやつだな。」
はじめまして、京マーリンと申します。
まずは本作を読んでいただき、ありがとうございます。
作品を投稿するのは初めてのことでいろいろと悩みましたが、本作があなたの一時の楽しみになればと思い書かせていただきました。
文章力や小説の知識、このサイトの特色など理解していない部分も多く未熟な点もあるかと思いますが、どうか時間に無理のない程度でお付き合いいただけますと嬉しいです。
また評価に関しまして、星の数は別段気にしませんが『読んだよ』という気持ちで星一つでもいただけますと執筆の励みになります。
誰か一人でも読んでくださる方がいる限りは書き続けようと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
では、また次のお話で。
あなたにお会いできることを楽しみにしてますね。 みやこ