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――202○年の日本。
年間の行方不明者の数は20万人に達し、10代・20代はその内の4割を占めていた。
「ここ数年でやけに増えたわねぇ……」
母が俺の朝食を作りながらテレビに映し出されている行方不明者数のグラフを見て驚く。
「そう言えば同じクラスの黒田君だっけ?その子も居なくなっちゃったみたいじゃない……秋斗も気を付けなさいよ?」
「……うん」
母の問いを適当に返し、出された朝食を食べ進める。
この俺、天守 秋斗は黒田に虐められていた。
高校入学初日から目を付けられ、そこから1年間暴力と嫌がらせを受けてきた。
だが、冬休み明けの始業式の日に奴は学校に来ず、2週間経った昨日も来ていない。
黒田の取り巻き連中は始業式からずっと挙動不審で、俺に手を出して来なくなった。
何か犯罪でも犯したのかは知らないが、こちらとしては好都合だ。
「ご馳走様。行ってくる」
俺は母にそう伝え、学校に向かった。
高校は大学に行く為だけの場所だと思っている。
田舎の中学を卒業してから親の都合で東京に引っ越した時に友達は1人も居なくなった。
性格は明るい方だったから、高校入学式の時に友達を作ろうと一番最初に声を掛けたのが黒田だった。
それが間違いだった。少しの言葉の訛りで田舎者扱いされ弄られたのだが、そこから段々エスカレートしていった。
最初は小突かれたり足を引っ掛けられたりする程度だったが、半年後にはすれ違った時挨拶しなければ腹を思い切り殴られ、お昼ご飯は購買だと美味い物が無いらしく、学校を抜け出し近くのコンビニまで弁当を買いに行かされる。もちろん自腹で。
だから皆寄って来ないし、見て見ぬふりをしてきていた。
俺と一緒に居れば虐められると思っているからだ。
学校に近づくにつれて足取りも重くなる。
「はぁ……今日も何事もありませんように」
そう呟きながら校門を潜り、自分の教室へと向かった。
ガラガラとクラスの引戸を開けて中に入ると誰も居ない。
「……あれ?」
今日は最初教室移動だったっけ?と思い時間割を見てみると"現代文"となっている。
登校時間を間違えたか?と思って時計を見てみると、"8:25"となっている。
ここの高校は8:30にホームルームを行い、8:45から授業を開始するから遅刻でも無い。
そして俺はある事に気付く。
「……今日学校に入って1度でも誰かの姿を見たっけ?」
いや、見ていない。誰も居なかった。
いつも校門の前に立っている生活指導の先生や、朝練をしている野球部も校庭に居なかった。
教室から出て他のクラスを確認してみても誰も居ない。
流石におかしいと思った瞬間、
「あれ、まだ居たのか」
そう足元から聞こえ、驚いて視線を声のする方へ視線を下げる。
そこには床から生えている数本の青白い手があった。
「!!――」
その手が俺の顔面・肩・腰に纏わりつき、俺は成す術無く床へ引きずり込まれた。