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第伍話 湯けむり紫の暴走

「あの……フェルコンドル陛下殿……これはなんじゃ?」


「あ?今朝山でとれたキノコだ。ちゃんと飯出してやってんだから食え。」


「誰が生で食えるかボケ!!」


 藤色は皿いっぱいに盛られた生のキノコを皿ごと地面に叩きつける。


「ああ!てめえ!ふざけんな!せっかくのキノコ!」


 フェルコンドルは藤色に歩み寄り目を吊り上げる。


「狐風情が山の幸ぐらい生で食え!」


「おぬしさっきのいたずらを引きずり過ぎなのじゃ!そういう男はもてぬぞ可哀そうに!」


 紫はバターでジャガイモと一緒にソテーにされたキノコを頬張りながら、二人の若き皇帝の言い争いを眺める。


(ああ、やっぱり尊いなあ。)


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そのころ

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「なに?妖国に異変?」


「はい、緑帝。どうやら毎朝の日課である妖術修行に藤園帝が顔を出していないらしく、これは藤園帝になにかあったのかと思われます。」


「……そうか、しばらく様子を見ろ。場合によっては妖国を堕とすチャンス。」


「は!」


 妖国と山一つ挟んだ先にある国、名前は『気国』。そこには、妖国に睨みを利かすもう一人の皇帝がいた。


「ふふ、おもしろくなりそうだな……。」


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再び紅蓮帝の城

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「ああ、あと、お前ら服もボロボロだな。」


 フェルコンドルは鋭い目つきで二人の服装を見る。


「そうじゃな。紫はもともとこんなだったし、わらわも長旅で所々ほつれておる。」


「そんな動きづれえ恰好で旅なんてしねえよ。ほら、洋服も貸してやるからとっとと着替えてこい。」


 フェルコンドルはそう言うと使用人に服を用意するよう指示を出した。


「フェルさん、もぐもぐ口と態度があれですけど、もぐもぐ普通に面倒見がいいですよね。」


「面倒見いいやつが客人に生のキノコなど出さぬわ。…………ところで紫?」


「はい、もぐもぐ、なんですか?」


「確かにフェルはいくらでも食べて良いと言った。しかし、おぬしそれ何皿目じゃ?」


 藤色は少し引いた目で紫を見る。紫の座る席の横には、無数に積み重なった皿の塔が乱立しており、山のような形を形成していた。紫はそう言われ顔を赤らめる。


「す、すみません。こんなおいしいご飯久しぶりで……。」


「いやいや、そういう次元じゃないじゃろ。おぬし絶対腹の体積以上食べてるぞ?」


「そ、そう言う藤色さんはあまり食べてないようですが……。」


「ま、まあ、もともと小食じゃし、最近あまり食べないことも多かったからの……。」


 そうこう他愛ない会話を繰り広げている二人の元に、メイド姿の使用人がやってきた。


「それでは藤色様、紫様、お風呂とお着替えの準備ができました。こちらへどうぞ。」


 使用人の言葉に藤色の目が輝いた。


「おお!風呂つきか!」


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浴場にて

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「すごい!藤色さん細いし綺麗!軍人さんみたいです!」


「わらわの洗練されたボディを褒めるのはいいが、軍人って例えはどうなんじゃ?」


「軍人さんはとても立派な人たちです。立派な褒め言葉ですよ。」


「しかし、おぬしも……あの奇怪な格好※で分かりづらかったが……結構あるんじゃの……。」


 藤色は紫の半分湯に浸かった裸体を舐めまわすように見つめた。細身で健康的な肉付きをした藤色の体も十分に魅力的ではあったが、紫の思った以上に蓄えられていた豊満な胸に藤色は思わず嫉妬する。


「わらわだって、二十とかそこらになれば……。」※紫の方が年下です。


「藤色さん、お腹触らせて下さい……。」


 紫は湯船につかった藤色に近寄り手を伸ばした。


「おお、ちょっ、やめ……ひゃん!」


(あれ、藤色さん実は敏感?)


 筋肉フェチという思わぬ紫の性癖に藤色は翻弄され、如何わしくもとれる声が浴場内で響き渡る。


「いいですね。ずっと触ってたくなる……。」


 いつの間にか、紫の目から光がなくなっており、目がぐるぐると回っているようにも見て取れた。


「おぬしのぼせてるのではないか!?先程からスキンシップが……んっ!」


 藤色の体を触りしだく紫は藤色の背中を触っているときあることに気付く。


「あれ、藤色さん尻尾付いてるんですか?可愛いですね。」


「やめろ!尻尾(そこ)はほんとに触られると!」


「てめえら!!ここは健全な場だこの野郎!!」


 そんな如何わしい空気を醸し出す二人に、どこからともなく怒号が響き渡る。その声の正体は、壁一枚隔てた男湯で昼寝をしていたフェルコンドルであった。


「あれ?フェルさんいたんですね。」


(まずい!あいつにあんな声聞かれてしもうた……。)


 藤色は顔を真っ赤に染め湯船の中に沈み込む。


「紫とかいったか?うちの飯は美味かったか?」


 しばらくの沈黙ののち。フェルコンドルは紫に問いかけた。紫は壁に向かって声を張り上げた。


「はい、とても!お風呂も温かいです。」


「それは良かった。召使いに言っとくよ。」


 フェルコンドルの声が返ってきた後、紫は悲しげな顔を浮かべフェルコンドルに尋ねた。


「あの!これって贅沢に入りますかね?」


 その質問にフェルコンドルは首をかしげる。


「なに言ってんだてめえ?」


「父様が戦場で敵国と戦っているのです。だから、私達も贅沢なんかしないで、質素な生活で戦争にはげんでいかなければならないのです。それが……私だけこんないいことばかりして貰って……。」


 紫の声は次第に小声になっていた。フェルコンドルも後半何を言っているのかは分からなかったが、紫が抱える思いをくみ取ることはできた。


「ずいぶんと優秀な国民だ。てめえのいた異世界の人間は皆そうなのか?」


「はい!日本は一致団結しております!」


「……はん、まだ年端も行かねえようなガキがいっちょ前に人の心配してんじゃねえよ。」


 その後、フェルコンドルが話すことは無かった。そして、藤色はお湯に沈みすぎてのぼせることとなる。なにはともあれ、藤色と紫の二人は旅の準備を着々と進めるのであった。

※奇怪な格好→紫が着ていたもんぺ、異世界にもんぺなんて無いもんね。

補足豆知識:藤色は耳を隠すことはできるが、尻尾を隠すことには慣れてないのか基本出しっぱなしにしている。ちなみにフェルコンドルは藤色が常に尻尾を付けていることも性感帯であることも知っている。

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