第肆話 幼馴染みの城はよかろう
ここはとある国の中心にそびえる城。
「陛下!陛下!」
「どうした、うるせえなくそったれ。」
「申し訳ございません陛下!」
「うるせえっつってんだろ!!」
甲冑を身にまとった兵士が昼寝をしていた若い男の元へとやってきた。
「陛下!実は来客がいらっしゃっておりまして……。」
「ああ?客?そんなもん……タウロスに通しやがれ。」
男はぼさぼさの髪を掻き上げ兵士に向かって言い放つ。
「それが……。客というのが……。」
「やっほー!元気かの!?」
「…………おいおい、まじかよ。」
男はそう吐き捨てると赤い髪を再び掻き上げる。寝起きで上半身裸の男の前に現れたのは、紫と金を基調とした豪奢な着物を着た藤色であった。
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お着替え中
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「そんで、紫の皇帝がなんでわざわざこんな小国へ?」
「行く当てが無いのじゃ。報酬は体で払うからここで旅の支度をさせてくれぬかの?」
藤色は着物を胸元をはだけさせ、上目遣いで男に懇願した。
「はあ、一国の皇帝がこんな売女に成り下がっちまうとは世も末だな。」
男はため息をつく。白い軍服に身を纏い、赤いマントを羽織ったこの男は、藤園帝と同格に数えられる十三人の皇帝の一人。
人々は彼を『紅蓮帝フェルコンドル・インフェルノ』と呼ぶ。彼の年齢は十九歳、去年新たに皇帝となった藤色を除けば、最年少で皇帝の地位を獲得した男である。
そんな男のじとっとした目つきに、藤色は恥ずかしくなったのか咳ばらいをした。
「ふ、ふん!冗談としれ小僧!わらわがおぬしに体を預けるなど百年早いわ。」
「ガキかてめえ。」
「それよりおぬし、この国の名はいい加減決まったのかの?」
「はあ?だから言ってんだろ。この国の名は『帝国』だ。それ以上でもそれ以下でもねえ。」
出会ってそうそう止まらないこのような言い合いも、二人にとっては日常であった。彼が治める帝国と、藤色の父が治めていた妖国は仲が良く、フェルコンドルと藤色も腐れ縁のような仲であった。
「……にしても久々だな。先代藤園帝の葬式以来か?」
「そうじゃな、父上が居なくなって、わざわざおぬしと会う機会も必要ないってものじゃ。」
「……ちゃんと国やれてんのか?」
そんなフェルコンドルの質問に、藤園は涙目になりながら答えた。
「…………追い出されてしもうた。」
「はあ!?」
フェルコンドルはその答えに目を見開き驚嘆する。
「だって!空一がもう必要ないって言うんじゃもん!」
「空一、あの胡散臭いおっさんか。」
フェルコンドルはそう呟きながら冷静を取り戻し藤色の隣を見る。
「ちょっとその話は長くなりそうだから置いておく。それで、そのガキは誰なんだ?」
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説明中
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「まあ、いいだろう。魔法道具が欲しかったらそれも手配するから俺に言え。今からアリエス呼ぶからちょっと待ってろ。」
「やっほー!やっぱ言ってみるもんじゃの!紫!」
「ええまあ……なんかフェルコンドルさん困ってるみたいですけど。」
「おお、分かってくれるガキじゃねえか。」
フェルコンドルはやれやれといった具合に部屋にある受話器をとり、違う部屋へ命令を出した。
「おぬし、それはなんじゃ?」
「ああ?電話だよ。スコピウスってやつが開発してくれたんだ。」
藤色は興味津々に電話を見つめ、うらやましそうに呟いた。
「おぬしの部下は優秀じゃのう。」
「当たり前だ。この世界の頂上を取るのは俺達だ。」
ぼやっとしつつも強面な目つきのフェルコンドルに紫は疑問を投げかける。
「皇帝というのは世界を征服するために争っているのですか?」
そんな質問にフェルコンドルはしばらく考えるような素振りを見せ紫を見つめた。
「そう考える奴もいるしそうじゃない奴もいる。だからこそ皇帝達は睨みあうんだ。誰かが出過ぎた真似をしないように。」
「一番出過ぎた真似をしてるのはおぬしだと思うがな。」
「うるせえ。」
フェルコンドルはため息を吐き、再び鋭い目つきに変わる。そんなフェルコンドルを見て、何を思いついたか藤色は紫の肩を掴む。
「紫、おぬしが触れれる人間はなにもわらわだけじゃないぞ!」
そう言うと藤色は紫の肩を捕まえ、フェルコンドルに押し付けた。ぶつかりそうになった紫は反射的にフェルコンドルに触れてしまう。
「あ!」
紫の手が触れたフェルコンドルは、眠るように地面に倒れ込んで動かなくなってしまった。
「ああ!!フェルコンドルさん!なんてことするんですか!?」
紫は思わず藤色の肩を掴みぶんぶん振り回す。しかし、藤色は動じない。
「まあ、見ておれ。」
すると、フェルコンドルの体が燃え始めた。
「え!?なんか死ぬより悲惨なことなってませんか!?」
驚く紫をよそに、フェルコンドルから噴き上げる炎は衰えない。その体は黒く焦げ、次第に炭となり灰になる。しかし、炎は何を燃料にしているのか一行に消える気配がない。
そして……
「てめえほんっとにふざけんなよ!?」
その燃え盛る灰は炎と一緒に人型を形成し、再びフェルコンドルの姿へと戻ったのだ。
「いいじゃろ、これでおぬしは死の呪いも克服じゃ。」
藤色は口をとがらせながらフェルコンドルから目を逸らす。
「ええ……なにが起きたんですか?」
「フェルコンドルはフェニックスと呼ばれる怪鳥の種族なのじゃ。フェニックスは死ぬことがなく、一度死んでも灰から蘇る。」
藤色が紫に解説している間、フェルコンドルは鬼のような形相で藤色を見つめる。
「てめえが調子乗ってることが問題なんだよ。だめだ!もうてめえに食いもんやんねえ!」
「お、おいフェルコンドル!話が違うではないか!冗談じゃ!ほんと、冗談ですごめんなさい!」
藤色は涙目でフェルコンドルの足にしがみ付き許しを乞う。フェルコンドルはそれを振り払おうと足を振り回す。その光景を見て、紫は改めて思ったのだった。
(これは……なんか……尊いです……。)
補足豆知識:フェルコンドルの帝国と妖国は実はかなりの距離がある。たった一晩の散歩でたどり着くわけも無く、藤色の能力の一部を使い、二人は帝国までやってきた。