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第弐拾弐話 赤に近寄る深い青

「この世界に皇帝を名乗る者が現れ始めたのが約百年前。『黄金帝』が名を広めた数年後、それを追うように『白銀帝』が現れました。」


 海のように深い青の瞳を持つ少女は、その引き込まれるような目でフェルコンドルを見た。


「それから二十年ほどして、あらゆる『色』を名乗る皇帝が台頭し始めました。当時は七人でしたっけ?」


 フェルコンドルはしびれを切らし群青帝をじとっと見つめる。


「あのなあ、今日俺は確かに時間があるが、てめえの昔話を聞いてる暇はねえんだよ。」


 イライラを溜めたフェルコンドルを他所に、群青帝は無表情のまま口を開く。


「漆黒帝の国が滅びたのは五年前、あなたが紅蓮帝の名を奪い取ったのが三年前で、去年、あなたの師である藤園帝が亡くなり若き姫君が皇帝の名を襲名しました。」


「お、おう……いきなり時間が飛んだな……。」


 群青帝は目を閉じ、出された紅茶をすする。その後一切の表情を変えずにフェルコンドルに向け口を開く。


「これから瞬く間に時代は動くでしょう。ここ数年、あなたを始めとした多くの皇帝が天下を取ろうと動き始めています。だからこそ、『世界会議』を開く必要があるのです。」


「『世界会議』?」


「はい、紅蓮帝フェルコンドル・インフェルノ。あなたを我が国『リュウグウ』に招待します。」


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ナックラヴィーの村

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「来いよ!紫の皇帝!」


 漆黒帝ゴークは蝿の大群を藤色にぶつける。藤色は展開した九本の尻尾で蝿から身を守るが、相手はあらゆるものを数の暴力で食べつくす殺人蝿である。


「うう、痛い!痛い痛い!」


「ほう、この小さいバケモノ相手に痛いで済むとは大した奴だ。」


「あまり使いたくないのだがの!」


【玉藻妖術・捌の尾】~狂い囃子の神通力~


 藤色は尻尾から衝撃波を出し蝿を一掃する。余裕ができた藤色は漆黒帝に向かって一気に距離を縮める。しかし、それを漆黒帝は新たに生み出した蝿の大群でガードする。


「くっ……。」


 一匹一匹が凶暴な蝿たちは藤色の体に群がり、藤色の白い肌や黒い制服を食いちぎっていく。そのあまりの激痛に藤色は顔を歪める。


「馬鹿な皇帝だなあ。」


「馬鹿はお前だ……。」


 藤色の相手に精一杯となっていた漆黒帝の背後から、怪物の姿となったラヴィがその巨大な拳を下す。漆黒帝はその一撃に自身の拳をもって応戦した。二人の拳がぶつかる。


ガキンッ


 拳がぶつかったとは思えないほどに高い声を響かせ、漆黒帝は吹き飛ばされる。そのまま転がり壁に激突するも、漆黒帝はすぐに立ち上がった。


「さすがに力勝負じゃ勝てねえか……。」


(今の一撃で無傷……何者だあいつ……。)


 応戦した方の手首をぐりぐりとまわす漆黒帝に、ラヴィは只ならぬ不気味さを覚えた。


「俺はきみらと一緒さ。ベルゼブブという種の悪魔、人の形をした怪物なんだよ。」


 漆黒帝はそう言うと拳を振りかぶり瞬く間に藤色の眼前に接近する。それを藤色は尻尾で払おうとするが、


ドガッ


「うっ……」


 藤色は尻尾を避けられた挙句背中に強い衝撃を受ける。漆黒帝の重い一撃がヒットしたのだ。


「俺は蝿の悪魔だ。蝿が払った手に当たるわけねえだろ?」


 そう言うと漆黒帝は更なる一撃を藤色に叩きこむ。しかし、その一撃は空振りに終わった。


【玉藻妖術・壱の尾】~幻術を呼ぶ鬼火~


「わらわもやられっぱなしでは終われないんじゃ!」


「ちっ、(身代わり)か……。」


「ラヴィ……おぬしに頼みがある。」


 藤色は漆黒帝から距離を取りラヴィの方を見た。


「……なんですか。」


「今すぐここを出ろ。」


 藤色のその言葉にラヴィは思わず言い返す。


「なぜですか?私は藤色様のために……。」


「わらわのことを考えたのなら、今すぐここから離れるのじゃ。」


 そう言いながら藤色はラヴィに近づき、九本の尻尾を巧みに操りラヴィを屋敷のドアから外に投げ飛ばした。その様子に漆黒帝は口角を上げる。


「はは、御人好しもここまでくるとただの馬鹿だ。お前が俺の身代わりになったところで、俺はお前をすぐに殺し、あいつらもすぐ俺に殺される。」


 乾いた笑いをこぼす漆黒帝に、藤色は確かな眼差しを向けた。その目にこもっていたのは勝利への確信と何かに対する不安であった。


「おぬしは皇帝、そう簡単に倒せる相手ではないことくらい覚悟すべきじゃった。だから、ほんとはわらわ一人で来るべきだったのじゃ。」


 そんな藤色の言葉に、漆黒帝は明らかな不快感を示し眉間にしわを寄せる。


「自己犠牲に留まらない傲り。お前ひとりで俺を倒せると思ってることが大間違いだ。」


「おぬしはわらわに勝てぬ!」


 藤色は九本の尾を放射状に展開する。


【玉藻妖術・質の尾】~三日三晩の已まぬ嵐~


 その術が展開された瞬間、藤色の目が紫色に発光し、顔つきが獣のように変形する。鋭い牙と爪、発達した長い耳と尻尾、その姿は、麦色の毛並みが美しい異形の狐であった。


「その程度で勝てると思ってることが間違いなんだよ!」


 その神々しい妖狐の姿を見ても、漆黒帝は怯まず蝿の大群を創造し藤色に突進させる。その蝿の量はかつてないほどに多く、その密度により一寸の先も見えない。


ズバッ!!


 しかし、その蝿の軍勢は一瞬にして崩れ去った。その大群を抜け、鋭い紫色の目を輝かせた藤色の爪が、漆黒帝の体を切り裂く。その体はへそから上と下で分離する。


「な……に……。」


 崩れ落ちた漆黒帝の上半身は、口から血を吐き出し絶命する。


「はあ、はあ……。」


 漆黒帝を切り裂いた藤色は、体を震わせその場に倒れ込んだ。


今判明している皇帝達

藤園帝:玉藻藤園

紅蓮帝:フェルコンドル・インフェルノ

深緑帝:?

漆黒帝:ゴーク・グレゴリアス

群青帝:?

黄金帝:?

白銀帝:? etc...

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