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第弐拾壱話 屍の成す所業

「マジっすか……。」


 その言葉を最後に、ラッパの胸元から真っ赤な鮮血が吹き上がり、だらしなく着たワイシャツが真っ赤に染まる。


 しかし、ラッパの意識が途切れる最後の言葉は、源信に届くことは無かった。


「……。やっちまったな、鼓膜が破れたか、あるいはそれ以上の……。」


 源信はそう呟きながら、衝撃波の余韻を受けその場に倒れ込んだ。ラッパの慢心によりできた隙に打ち込んだ源信の捨て身の一撃は、相討ちという形で『夜』の一角を打ち取ったのだった。


------------------------


「覚悟!」


「ひっ!」


 片や決着がついた一方、ニードルと紫の戦いは紫が防戦を強いられていた。ニードルの攻撃は全てが自身の負担もいとわない強力な一撃。対する紫はどんなに攻撃してもニードルにダメージを与えることができない。圧倒的に不利な状況で、紫は辛うじて身体強化で攻撃を捌いてはいたものの、そろそろニードルから奪った魔力が尽きようとしていた。


(全然魔法を使ってこない……魔法から魔力を奪ってることばれちゃってるからですかね……。)


 紫が教わった呪術の一つとして、触れている物質が持つ魔力を奪い自身のものとして扱う術があった。しかし、その呪術を使用するにあたって、致命的な欠点があった。


(私が触れたら、ニードル(この人)を殺してしまう……。)


 そんなことを考えながらこの危機的状況を観察しているうちに、紫にはとある疑問が浮かんだ。


(あれ?ですが、ニードル(この人)が受けた攻撃でウェルフェア(あの人)は死なないんですよね。だったら私が触れても誰も死なないのでは?)


「覚悟!」


「きゃっ!」


 ズサッ!


「やっと当たってくれましたね……。」


 考え事によりできた紫の隙を、ニードルは逃さなかった。ニードルの鋭いランスが紫の細い喉元を貫いた。紫は息も絶え絶えに呟く。


「なんて……ことを……。」


「普通に喋りますね、やはり臓器のどうこうっていうのは関係ないんですね。」


 そう言うとニードルは喉元のランスをぐりぐりと押しねじる。それにより紫の首に激痛が走り、そのあまりの刺激に紫は悲鳴を上げた。


「きゃああああ!」


「おや、痛みは感じるのですか。それなら、肉体が原型を留めなくなるまでひたすらにあなたを痛めつけるのがあなたの攻略の最適解のようですね。」


 ニードルは紫の冷たい返り血を浴びながらもにっこりと笑う。


「どこまで狂ってるんですか……。」


 そんなニードルを睨みつけ、激痛を堪えながら、必死に紫は呟いた。


「何が、誰が、あなた達姉妹をそこまで狂わせたのですか!?」


 その紫の必死に搾り取った言葉に、ニードルは静かに答えた。


「何も狂ってないですよ?私達姉妹がとても仲が良かった、それだけです。」


「そんなわけ……。」


「御託はいいんですよ!さっさと死んでください!」


 ビタッ


 ニードルがランスをさらに深く突き刺そうとした瞬間、ニードルの体が止まった。ニードルは不気味な違和感を覚え、自身の胸元に視線を移すと、そこにあったのは紫の左手であった。


「なんですか、あなたに触れられただけで何か変な感じがします。」


 紫は苦し紛れに口角を上げる。


「……私の体は呪われてますから。」


 そう言い紫はウェルフェアの方を一瞥する。すると、ウェルフェアは悶絶しながら胸を抑え、地面に這いつくばり苦しんでいた。


「うぐっ、なに、これ、やばい!死ぬ!しぬ!」


 ウェルフェアはそう叫びながらニードルの方に手を伸ばす。


「ごめんなさい、ちょっとだけ我慢してください。」


 そう言い紫は十字架を抑え、呪文を唱える。そしてニードルからありったけの魔力を奪い取った。それによりニードルは力が抜け、がくんと地面に膝を着く。


「うそ、体が、動かない……。」


「この魔力、使わせていただきます。」


 紫は杖を持ち替え振り上げる。そして、その杖から生成された結界が二人を拘束する。かたやダメージの受け負いにより満身創痍、かたや魔力を奪われ体自体が動かない。そんな二人が紫の結界から抜けられる道理は無かった。


「はあ、はあ、何……今の……。」


「もう、動けないです。」


紫は勝利を確信した安心感から膝から崩れ落ちる。


「はあ、良かった。やりましたよ、藤色さん!わたし、やっと皆さんの役に立てました。」


------------------------

その頃、『帝国』にて

------------------------


「陛下!陛下!」


「うるせえ!!」


 家臣の慌てた声と足音に、フェルコンドルは眠りから覚める。


「陛下!来客でございます。」


「だからタウロス通せっつってんだろ!?学習しねえのかてめえは!?」


 そう怒鳴りながら、フェルコンドルは来客用の白い軍服に着替え始めた。


------------------------


「おう、待たせたな。」


「申し訳ございません。急にお呼びして。」


 フェルコンドルは客室に正装で入室する。そこに居たのは、深い青と紫を基調としたワンピースに身を包んだ少女であった。その見た目はフェルコンドルより幼く見える。


「しかし、ほんとに急だな。わざわざ遠いところから……。」


「紅蓮帝、あなたを含めた皇帝達にお願いがあって参りました。」


「おう、化け狐の脅威も消えて今日は平和だ。ゆっくりきいてやるよ。『群青帝』。」


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