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第拾玖話 心優しき強き者

 藤色を襲うおびただしい数の蝿の大群、それを巨体を活かし振り払い、傷一つ付けることなく藤色を守ったのは、優しき怪物であった。


「……違います、藤色様。」


 その言葉に、藤色は顔を上げる。


「ラビィ……。」


 ラビィは体にくっついた蝿を払いのけ、藤色の顔を見た。


「あなたの……優しく寛大で……純粋で真っすぐな心は、多くの悪党に利用されます。しかし、その心に救われた者はそれ以上にいるはずです。」


 ラビィの言葉に、藤色の目から一筋の涙がこぼれる。


 「おかしなやつじゃのう。」いつかの藤色が言った言葉と、そのときの笑顔がラビィの中で蘇った。


「あなたはお強いから何者も怖がらない……。だから私は救われました。初めてです、あの姿を見せ、それを恐怖では無く興味の眼差しで見てくれた人は……。」


 ラビィが連ねる言葉に、藤色の目からはいつの間にか涙が止めどなく溢れていた。しかし、藤色は笑っていた。


「なんだおぬし、そんなに喋れたのか。」


「だから藤色様!私はあなたに忠誠を見せます!だから、何も怖がらないでください!」


 ラビィの声に藤色はクスクスと笑う。そして、藤色は涙を拭きいつもの口調で口を開く。


「ありがとうラビィよ。しかし、恐れぬというのは無理じゃ。わらわだって迷うことや恐怖を覚えることなどたくさんある。これは防衛反応じゃ。」


「藤色様……。」


「だからラビィよ、そのときはおぬしが教えてくれ。わらわが立ち直るまでわらわを守ってくれ。びびるなよと言っての?」


 その藤色の言葉に、ラビィの大きな口が笑ったように見えた。


「妖国の真偽がどうあれ今は何も出来ぬ!おぬしを倒すことに注力させてもらうぞ、漆黒帝よ!」


 いつもの調子に戻った藤色とは対照的に、ゴークの表情は曇る。


「ああ、開き直っちゃったよ。」


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少し時は遡る

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 出発前日の話である。


「俺は源信(げんしん)って言います。よろしくお願いします。」


「小野町紫です!よ、よろしくお願いします!その名前、あなたも日本から?」


「ああそうだ。キリシタンってやつだがな。」


 この日、二人は村の呪術習得のため猛特訓を行っていた。


「ほんとにお嬢ちゃん、良く言えば美白、悪く言えば青白いというか。」


「ほんと、あの死神さんと和尚様は許せません!二人とも勝手にいなくなりましたけど。」


「まあ、それのおかげで嬢ちゃんの呪術のポテンシャルは並みの人間に比べてかなり高い。明日までには形になるかもな。」


「ほんとですか!ありがとうございます!」


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 村の一角にて、(ニードル)福祉(ウェルフェア)喇叭(ラッパ)の三人と、源信・紫のペアは対峙していた。数的優位は『夜』側にあったのだが、いかんせんウェルフェアは全く攻撃を仕掛けてこないため丁度の人数を保っていた。


「あら、ラッパさん。いらしていたのですね。」


 ニードルはランスの土を拭いながらラッパに微笑みかける。


「ニードルはそっちのガキ頼むっす。俺はこっちのおっさんやりますんで。」


 ラッパはそう言うと源信が吹き飛ばされた方向へと歩いて行った。


「了解です。」


 その瞬間、ニードルの剣撃が紫を襲う。


「わわわ!まずい!」


紫はその鋭い剣先から逃げるが、すぐにニードルに追い付かれる。


「くたばりなさい!」


「きゃあ!!」


 ニードルの渾身の一突きを紫はぎりぎり回避した。そして、そのランスの先端を掴んで対抗する。しかし、その様子を見てニードルは不敵に微笑んだ。


 バリバリッ!


「くっ!」


 けたたましい音と共に、紫の体に電撃が入る。


 シュー……パチパチッ


「ふふふ、電気ショックによる心停止、死亡確定ですね。」


 勝ちを確信したニードルの顔から笑みがこぼれる。しかし


 ビュンッ!ドカッ!


 ニードルの額に鋭い痛みと共にバットで殴られたような打撃が撃ち込まれた。ニードルは急に襲ってきた打撃に驚き急いでその場所から離れた。


「……なんで?」


 ニードルはまるで幽霊でも見たかのような戦慄を覚える。ニードルは確かに心肺機能を停止されるレベルの電撃魔法を撃ちこんだ。しかし、そこにいた紫は何事もなかったかのように木の杖を持ち立っていたのだ。


「わたしもよく分からないんですけど、わたしの心臓もう止まってるからその攻撃効かないみたいです。」


 そう言うと紫は十字架を持ち呪文を唱える。


「我に魔力を与えたまえ。」


 呪文が唱えられた瞬間、紫の持っていた杖に電気が走る。


「魔力、少しだけちょうだいしました。」


 紫はにっこり笑うとニードルに向けて電気魔法を撃ち放った。


「うぐっ。」


「でも、知ってます。これだけじゃ攻略できないって……。」


 そう言いながら、紫はウェルフェアの方を一瞥した。そこにいたウェルフェアの様子を見て紫は確信する。


「やっぱり、あなたが受け負っているのですね。」


 その紫の言葉に、息も絶え絶えになったウェルフェアはにやりと笑った。ウェルフェアは未だ戦闘に参加していない。しかし、おでこからは血を流し、何かに殴られたような痣を作っている。さらに全身は感電したかのように震えていた。


「当たり……前でしょ……可愛い可愛い愛しの妹に傷がつくのは見てられないもの。」


 ボロボロの体から絞るように発せられたその声に、紫はある種の狂気を感じ鳥肌を立てる。福祉(ウェルフェア)の魔法、それは、対象の傷を自らの体で受け負う特殊魔法だったのだ。


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