表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/23

第拾捌話 白いメイド服と黒いスーツ

(はり)ちゃん、ちゃっちゃとやっちゃって!」


「承知しましたお姉さま!」


 そう言うと純白のメイド服を着た少女はスカートの中から中型のランスを取り出し、人とは思えない跳躍で藤色に向かって飛びかかった。


「なに!?」


「藤園帝覚悟!」


 しかし、そんな見え透いた攻撃が藤色に当たるわけも無く、藤色の尻尾により(ニードル)ははたき落される。


「ウグェ!」


 ニードルは地面に叩きつけられ肺を圧迫する。藤色の加減もあり死ぬほどでは無いものの、気絶してもおかしくないダメージがニードルの全身を走る。しかし、


「まだまだ!」


 ニードルは何も無かったかのように起き上がる。それだけでも不思議なのだが、今度は先程と勢い変わらずラヴィの足に狙いを定め突進してきた。それもラヴィの蹴りによってはじき返される。しかし再びニードルは起き上がる。


「なんなんじゃこいつ!?」


「気を穿て!」


ドスンッ!


 そんな中、紫の呪術により放たれた魔力を揺らす衝撃波がニードルにクリーンヒットする。それに対して体内の魔力をかき乱されたニードルは胸を抑え怯む。


「このくらいの二人なら、俺達が瞬殺する!藤咲様とラヴィは先に行って様子を見てくれ!」


 源信はそう言い放つ。


「承知した。状況が分かればすぐに戻る!」


 そう言うと藤色はラヴィに乗り屋敷を目指した。


「はは!あんたらごときが!?」


 福祉(ウェルフェア)は腹を抱えて源信の発言を嘲笑する。そんなウェルフェアの様子を見て源信は驚愕する。


「どうした!?お前のその傷!?」


 源信が驚いた理由、それは、ウェルフェアが未だ戦闘に参加していないにも関わらず、既に全身が(あざ)だらけでボロボロになっていたからであった。


「隙ありです!」


 そんな驚く源信にニードルのランスが飛んでくる。


「わるいな嬢ちゃん!」


 源信はニードルのランスを軽々と躱すと腰に携えた剣を取り出した。


「みねうちで終わりにしてやるよ。」


 源信の剣撃がニードルを襲う。しかし、その攻撃は当たっているにも関わらずニードルは一切怯むことなくランスを振り回す。源信の剣は手加減しているとは言えど決して軽い攻撃ではない。


「くそっ!じれったい!」


そんなニードルに源信はしびれを切らし、本来ならニードルのような華奢な少女にはとても振れないような重い一撃を繰り出した。それはニードルを吹き飛ばす。しかし、


ドガンッ


「私は怯みませんよ!」


 ニードルは吹き飛ばされながら源信にそんなことを言い放つ。


「……なるほど。」


 その様子を見ていた紫はこの奇妙な現象の正体について理解した。そして、その正体を源信に向かって叫ぶ。しかし、


ジャガジャガジャガジャン!!


「ぐっ!」


 耳をつんざくような騒音と共に、源信は何者かによって吹き飛ばされた。


「ありがたいっす。獲物が二匹まとまってくれてたら俺もやりやすいんで。」


 そこに現れたのは、『夜』の最後の一人、喇叭(ラッパ)であった。


------------------------

屋敷の目の前

------------------------


「なんだか随分ナックラヴィーも減ってきたのう。」


「……しかし、この村の人口はこんなものではない。」


 藤色とラヴィは屋敷の扉を突き破る。ロビーに差し込んだ日の光は、そこに佇む一人の男をスポットライトのように照らした。


「ああ、どうりで対応が早いと思ったら、シクロ公国(そちら)側にチートが二人もいたのか。」


 男は立ち上がり、藤色の元へ歩み寄る。


「しかも不幸は重なるものだ。喇叭(ラッパ)が君たちと対峙していないということは、本当に優秀な呪術師がいたのか。」


「近寄るな!」


 藤色の叫びで、男の歩みがぴたりと止まる。そして、男はゆっくりと口角を上げ口を開いた。


「おいおい、藤園帝、あんたこんなところで油売ってる場合かい?」


「どういうことじゃ?」


「知らねえのかよ。深緑帝が今、妖国を狙っているんだよ。」


「なに!?」


 男の発言に藤色は耳を疑った。


「だからあんたが妖国に居たときはビビっちまったぜ。国の一大事にこの新米女帝は何をしているんだか、まさかここまで来るなんて思いもしねえよな!!」


 男は目を見開き藤色を見つめる。それに対して、藤色は明らかな動揺を見せていた。


「違う!わらわじゃ妖国は駄目になってしまうから、空一たちが謀反を起こすまで苦しんでいることが耐えられなかったから!」


 震えるような声で叫ぶ紫の皇帝に、その声をかき消すかのような圧で黒の皇帝は叫んだ。


「おのれの国も守れねえ愚帝が人の領地に踏み入って正義面すんじゃねえよ。てめえごときの自分勝手な安い正義で何ができるってんだ!?」


 藤色は泣きそうな顔を浮かべながら必死に涙を堪え首を振る。しかし、漆黒帝の言葉は藤色の頭に否が応でも突き刺さる。


「違うのじゃ。見捨てたかった訳じゃなくて、わらわにできることなんて何もなくて……。」


(いたって純粋、人の話を簡単に真に受ける。しかも本人の感情は分かりやすい。これは得意分野だ。)


 精神をすり減らした藤色は、自身の体が重くなるのを感じ取った。今までのナックラヴィーとの戦闘で蓄積されていた疲労が、気持ちが凹んだことにより一気に藤色の体にのしかかったのだ。それを黒の皇帝が見逃すはずがない。


「あばよ!」


 ゴークは大量の蝿を自身の体から創造する。そして、黒い靄のように群がった大群は藤色目掛けて襲い掛かった。


ドガンッ!


「……違います、藤色様。」


補足豆知識:(ニードル)の真名のファーストネームは「ハリコ」、なので姉のウェルフェアは(はり)ちゃんと呼んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ