第拾質話 退治、対峙する。
シクロ公国編が思ったよりか長すぎて、空一のざまぁ展開が来ないことをここに謝罪申し上げます。
「暴論じゃな。」
「近い未来の常識さ。」
スーツ姿の男は右手を腹部に持ってきてお辞儀をした。
「失礼、申し遅れたが俺の名前は砂と呼んでくれ。無常の国『夜』の国民だ。」
サンドはそう告げると建物に手を触れた。次の瞬間、建物から四本の足が生え藤色たちに向かって走り出したのだ。
「なんじじゃあれ!?」
しかし、老朽化が進んだ建物は藤色の尻尾により簡単に破壊される。
「まあ、そう上手くはいかねえよな。」
男はそう言いながらパチンと指を鳴らした。
「俺が貰った兵士は十匹、もうこれで終わらせてやるよ。」
次の瞬間、村のどこかから地響きが鳴り響く。
「なんだ?」
源信はその地響きがする方向を魔力を感知することで探し当てる。そこを見ると、疑いたくなるような光景が待ち受けていた。
「頼むぜ。バケモノども!」
地響きの正体、それは、こちらに向かって突進してくるナックラヴィーの群れであった。
「うそお!?」
村はその光景に目を見開き驚愕する。その数は約十体ほどが確認される。
「お嬢ちゃん、あれだよあれ!」
顔を死人のように真っ青に染める紫に、源信は人差し指を立てそう言った。
「ほ、ほんとに使えるんですか!?」
「ああ、お嬢ちゃんのポテンシャルならいけるさ。」
そう言われ紫は渋々銀の十字架のペンダントを左手に持ち、右手の平をその群れに向ける。源信もペンダントを持ち同じポーズをとる。
「お国の皆さまごめんなさい!わたしは異教徒です!」
そう叫ぶと紫は源信と共に呪文を唱えたのだった。
「「神よ!魔物を消滅させ給え!」」
すると、目に見えない気の流れがナックラヴィーの群れを貫く。それにより、前衛にいた四体ほどのナックラヴィーが倒れたのだった。
「おいおい、嘘だろ?」
その様子を見てサンドは眉間にしわを寄せる。
「おお、まじかよ。俺とお嬢ちゃんの攻撃合わせて全員倒れねえとはな。」
深刻そうな顔をするのは何もサンドだけでは無かった。源信にとっても今の攻撃は自身があったようで、それに見合わない成果に肩を落とした。
「いや、上出来じゃ。あとはわらわとラヴィで何とかする!」
「……承知。」
藤色陣営のナックラヴィーも満を持して真の姿へと変貌を遂げる。藤色も九本の尻尾をフル展開して臨戦態勢に臨んだ。そんな中
「お二人も行ってください!」
そんな中、源信と紫に指示を出したのはシルクだった。シルクは続けて二人に言う。
「この幹部は私が倒して後で追いつきます。あの怪物が来た先に核となる何かがある可能性は高い。お二人も怪物討伐の援護と残り幹部の捜索を行ってください!」
「りょうかい!」
「わかりました!シルクさんも無理をなさらず!」
二人はそう言うとナックラヴィーの群れの方へと走っていった。そんな二人を見送りシルクは踵を返す。するとそこには浮かない顔をするサンドの姿があった。
「ずいぶん舐められたものだな。」
「舐めてなんかいませんよ。私が勝とうが負けまいが、この選択が我々の最善手です。」
「ほんとにそうかねえ。」
サンドはそう呟くと地面を触る。すると、地面の砂が巻き上がりサンドを包み始めた。
「ほら、倒してみろよ。」
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「ああ、呪術を使われたら蝿が死ぬのか……。」
とある屋敷にて、漆黒帝・ゴークは思いついたように口を開いた。
「呪術……っすか。あれって魔法となんか違うんすか?」
喇叭が首を傾げゴークに疑問を投げかけた。
「呪術はね、魔力を自分の体から生み出せない異世界人が、この世界の魔力を操るために生み出した術なんだよ。呪術を使って蝿の魔力抜かれたらあっという間に使い物にならなくなってしまう。」
「ふーん。」
ラッパはゴークの答えに無機質に返した。
「まずいな、相手に優秀な呪術師が居たら我々の兵器がやられてしまう。」
「……じゃあ、始末してくるっす。」
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村の一角にて、藤色とラヴィは理性を失い対象を破壊しに来るナックラヴィー達の討伐を始めていた。彼らはすでに死体となっており、漆黒帝に従えるだけの傀儡と化していたため、二人にとっては生かす必要もないぶんむしろ楽な作業なのかもしれない。しかし、一体一体の負担が異常に重いのも事実である。
「これで何体目じゃ?」
「……二十はいった。」
「さすが『遭遇してはいけない怪物』じゃ。理性を失った状態でこれだけの強さとは……。」
「……俺の居ない間にこれだけのことを……許せない。」
ラヴィの赤い眼光からは確かに怒りの意思が見て取れた。藤色の事情聴取によって発覚したラヴィにとってここが地元であるということと、帰ってきたら漆黒帝により廃村となっていた事実。その後、シクロ公国の様子見の弾として操られたことも考えるとこれだけの怒りでも少ない方だろう。
「おぬし、口数も少なければ感情も抑えめじゃの?」
「……そうか?」
首を傾げるラヴィに藤色は笑った。
「そうじゃ、変わったやつじゃ!。」
藤色は屈託のない笑顔で微笑むとラヴィの馬の頭の上に乗った。
「ほんとだ!ほんとにバケモノの一人がこんな敵になってる!」
「これ、私達だけで相手できますかね?」
屋敷までの道中にて、次に現れたのは対照的な格好をした姉妹であった。
補足豆知識:呪術師たちが使う呪術道具というのは、本人たちの価値観・宗教観で大きく変わる。源信は名前は日本人であったがキリシタンということで、基本的に十字架を模した呪術道具を使う。




