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第拾参話 その陰に隠れるは闇の国

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数年前

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「姫様、そろそろ虫捕りの時期ですね。」


 赤い着物を纏った召使いの女性は藤咲に微笑みかけた。


「えぇ……、あれ嫌じゃ。服脱がされるのもおぬしらに体触られるのも恥ずかしくてかなわぬ。」


「まあまあ、そう仰らずに姫様。」


 召使いは藤咲を諭そうとするが、藤咲はそれでもだだをこねる。


「だいたい、なんでそんな訳の分からぬ行事が毎年あるのじゃ?」


「姫様のお父様、藤園帝と同じ十三色の皇帝の一人に、虫を這わせ他人の体を操る卑劣な者がいるのです。それの対策のために、せめて年に一回はと内通者を見つけ出すため行っているのですよ。色は確か……」


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「黒の皇帝、『漆黒帝』はベルゼブブと呼ばれる悪魔の一種じゃ。おぬし、そいつと何があった?」


 大男は藤色の言葉に包帯に巻かれた顔を上げた。


「操られているのは……私だけではない。」


 大男は拘束具をがちゃがちゃと動かし藤色に訴えた。


「ほう、ちゃんと喋れるではないか。」


「すまない……まだ、貴様らにも警戒していたため。」


 ぽつぽつと呟くように話す大男に、藤色は問いかけた。


「貴様ではない、わらわは藤色と申す。おぬしの名前はなんという?」


「…………。」


 しかし、そのまま大男は黙りこくってしまった。


「答えられぬか?」


「……まだ、答える時では無い。」


 そんな大男の答えに藤色は困惑の顔を浮かべる。


「おかしな奴じゃのう。とりあえず、答えれることだけ教えてくれ。」


 こうして、藤色と大男の問答は日付が変わる頃まで続いたのだった。


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次の日

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 朝食を取り終えた後の、日が昇りきらない午前中。城の会議室にて、藤色と紫、ローズに加え、公国の大臣たちが顔を揃え、先日の事件についての会議が行われた。ローズと魔法学校の研究員が徹夜して検証した魔力測定により、大男の体中に付着していた蝿が人為的な工作である可能性が高まったのだ。


「おぬし?寝なくて大丈夫なのか?」


 ローズは徹夜疲れで倒れた研究員たちをよそに、昨日の検証に参加した者たちの中で唯一この会議に出席していた。そんなローズの体調を藤色は気にかけていた。


「ええ、学生時代の十徹に比べればこんなもの大したことないですわ。あの程度の研究(児戯)で倒れる部下たちが頼りないのですわ。」


「さすが、シクロ公国の若き鬼才。ローズ様でございます。」


 大臣の一人がローズを賞賛する。しかし、ローズはそんなこと気にも留めず議長に会議の進行を要求した。


「十徹って……あの変態さんは何者なんですか?」


 紫はローズの人間離れしたエピソードに耳を疑い藤色に耳打ちをする。


「あやつはの、昔からとんでもない秀才ぶりを発揮しておった。十歳にして魔法論と魔力学をマスターし、その二年後には魔法学校の博士号を獲得、その後は魔法の研究において数々の世界的成果を上げておる。シクロ公国の鬼才、それがやつの二つ名じゃ。」


「ええ!?昨日あんなにアホそうだったあの人が!?」


 この世では、百年に一度程度の割合でとてつもない鬼才が出現し、彼らが人類の文明を押し進めるということがしばしばある。今現在のシクロ公国を統治するローズ・クリニアもその一人であった。


彼女が十五歳の頃に提唱した『生命魔法』の存在は一時期全世界を騒がせ、あらゆる魔法が発展するきっかけとなった。そして現在も、彼女は新しい魔法を求め数々の研究を行っている。


「大男が藤咲様に話した証言を真とするならば、確かにローズ様の検証結果との辻褄もあいますな。しかし、黒の皇帝がこの話に関わってきていたとは……。」


 大臣の一人が頭を抱える。そんな中藤色も口を開く。


「加えて漆黒帝はあと数匹のナックラヴィーを抱えておるという話じゃ。今回の大男の感じでいくと全員が全員完全に操れるとは限らんが、面倒であることに変わりは無かろう。」


「恐らく今回の襲撃は様子見ですわ。あの皇帝、本気でシクロ公国を潰しにかかってるようですわ。」


「しかし、なぜこのタイミングで……。」


 会議は午後まで続き、これからの漆黒帝に対する計画が立てられた。


「やつの特性上、早い段階で対策を打たないと何が起こるかしてくれるか分からぬ。」


「だからこそ、あの大罪人を探し出してぶっ飛ばしてやりますわ!!」


 藤園帝の全面協力の元、漆黒帝を見つけ出し討伐するための対策チームが組まれることとなったのだった。


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 しかし、本来国土を持ちその国を支配するはずの皇帝を探し出すとはどういうことなのだろうか。探し出すもなにも、彼を討伐したいのであれば彼の国に乗り込むのが最適解なはずである。


 彼は、特殊な皇帝であった。


「黒、どうやら、最初の特攻隊はやられたらしいっすよ。」


「ああ、そのようだ。しかも、彼らは蟲の存在に気づいてしまっているね。」


 彼は国土を持たない皇帝であった。いや、正確には国土を思いのままに変化させてきた皇帝である。


「ちょうどここら辺にも飽きてきたし、そろそろ本格的にああいうシクロ公国()に住んでみたいもんだ。」


 気まぐれに小国や集落に踏み入っては、そこの人々を一方的に操作・殺戮し領地と主張する。たった五人しかいない本当の国民とともに、蝿のようにこの世界を彷徨いながら、彼は身勝手な国を造っては自分の手で破壊するのである。


 その様は、『夜が来る。』と世界中で恐れられている。


「あ~、楽しみだねえ」


 『漆黒帝』、ゴーク・グレゴリアス、『夜』と呼ばれる国土が変化する国を支配し、世界中を彷徨う特異な皇帝である。


補足豆知識:藤色の名前は作中何度も紛らわしく変化している。皇帝に成る前の名前が『藤咲』であり、その後『藤園』を襲名している。現在名乗ってる藤色は決して適当につけた名前ではなく、皇帝が身分を偽装する際に、仲間内だけにその人が皇帝であることが伝わるように名乗る名前が『藤色』と妖国では決まっていたのである。本人は自身の名前にあまり関心が無く、この三つのどれで呼んでも訂正することなく反応する。

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