第拾壱話 ついに見せたるは悍ましき災害
「負けてしまいましたが、藤咲様のお体はこれでもかと堪能させていただきましたわ。試合に負けて勝負に勝つとはこのことですわ。」
「おぬしそういうのまじできもいからやめてくれ。」
勝負の終わった藤色とローズは校庭を抜け、ローズの家臣が用意した即席の休憩所で休んでいた。そこに、取り繕った笑みを浮かべた紫と普通の顔を浮かべるスペクロがやってきた。
「お疲れ様でした。藤色さん。」
「おう、紫か、どうじゃった?わらわかっこよかったか?」
「はい、とってもかっこよかったですよ。」
そんな藤色と紫の会話にローズが割って入る。
「あんた誰ですの?藤咲様に向かって馴れ馴れしいですわよ?」
そんなローズに紫は張り付けたような笑みと無機質な声で反応した。
「はじめまして、私の名前は紫と申します。これからよろしくお願いします。」
そう言いながら紫は自身の手を差し出し握手を求める。
「おいおいおいおい待て待て待て待て!」
藤色は慌てて紫の手を引っ込める。
紫「ちっ」
藤「おぬしローズになにか恨みでもあるのか?」
紫「ないですよ。藤色さんにべたべたしてなんかムカつくとかそんなこと全然思っていません。」
藤「本音だだ洩れじゃぞ。まあそれについては同感じゃが。」
ローズ「あら!わたくしと藤咲様の仲睦まじい関係に嫉妬しているのですか!?」
紫「違いますよ!藤色さん迷惑してるじゃないですか!うらやm、不快なんでやめてください!!」
ローズと紫の間に火花が散る。
「スペクロ、わらわは人間関係を見つめなおした方がいいのかの?」
「慕われてる証拠ですよ。たぶん。」
------------------------
とある住宅街の一角
------------------------
「たすけて!!バケモンだ!!」
家屋の一部が破壊され、人々は逃げ惑う。人々が逃げるその正体は、黒いフードを被った大男である。大男は巨大化させた赤い筋肉が剥き出しの腕で近くの人を無造作に掴む。
「やだ!やだ!!」
涙する少女を前に、大男は大きな口を開ける。そして
グシャッ!ビチャッ!
------------------------
「公爵様!公爵様!」
未だ紫と張り合うローズの元に、一人の兵隊が大慌てでやってきた。
「どうしたのですか?そんなに慌てて。」
兵隊は顔を真っ青にしながら、ローズに報告をした。
「第六方面住宅地が、何者かに襲撃されたとのことです!」
それを耳にしたローズは首を傾げその家臣に忠告した。
「報告はありがとうですわ。ですが、そういうのは始めに第六管轄の保安官に」
「第六保安隊が半壊しました!人手不足により私が直接参った次第でございます!」
「なに?」
その言葉が休憩室に響いた瞬間、ローズの表情が変わった。
「……分かりましたわ。藤咲様、紫さん、少し用事ができましたわ。」
ローズは少し下がった音量でそう口を開くと、休憩室を後にした。
「ん、何か大変そうじゃの?」
「……行ってみますか?」
------------------------
「あぐあ!あがが!」
建物が崩壊し、血の跡が至る所に点在する。数十分ほど前までの穏やかな住宅街は一人の大男によって荒野と化していた。そこに生成した結界に乗ったローズがやって来る。
「あら、思ったより大変なことになってるのですわね。」
ローズはそう呟くと【白日の女王】と【暗闇の女王】が一体となった白と黒のグラデーションが美しい杖を取り出す。そして、生成した巨大な二本の腕によっローズはその大男に殴りかかった。しかし、その硝子のように半透明な二つの巨腕は、大男の赤くグロテスクな巨腕に掴まれ止められる。ローズが造り出した腕の方が一回り大きいのだが、
バリンっ!
「なに!?」
ローズが繰り出した自慢の攻撃がいとも容易く砕け散る。そんな光景を目の当たりにするのも間もなく、大男は人とは思えない跳躍を見せ結界に乗り空中に浮かぶローズに急接近する。
「まずい!」
ローズのたった数センチ目前を大男の巨腕が通過した。しかし、ローズは攻撃を避けきったものの足場となる結界を破壊され地面に向かって真っ逆さまに落ちる。
その瞬間を男は見逃さなかった。
ドガンッ!!
「ふう、危ないところじゃったのお。」
「ふ、藤咲様!?」
無防備となったローズに放たれた凶悪な一撃を、ローズは間一髪のところで避けることができた。ローズの服を掴み、藤色が無理やり上空に引っ張り上げたのだ。
「あやつの特徴……あの種族ってこんなに恐ろしい奴らだったかの?学者先生よ。」
藤色はだらしない格好で藤色につままれているローズに問いかけた。
「……分かりませんわ。ですが、もともと格好が不気味そのものの種であることに間違いないですわ。」
ローズは崩壊した自国の街と叫ぶ大男を眺めながら呟く。
「まずい奴らが来やがりましたわ。遭遇してはいけない『災害』、ナックラヴィー……。」




