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第拾話 女王と女帝の騙しあい

 シクロ公国の魔法学校の校庭にて、二つの人影が対峙する。


黒のセーラー服を纏い、妖艶でありながらも微かなあどけなさを残す黒髪の少女の名は玉藻藤園(たまものふじその)。国を追われ新たな居場所を探すため、藤色と名乗り旅をする狐の少女である。


対峙する女性は藤色よりも若干年上に見えるが、その白く美しい髪と清涼感溢れるドレスはその年齢以上の気品を醸し出す。彼女の名はローズ・クリニア、若くして魔法と公国を司るシクロ公国屈指の天才である。


「おぬしと会う気はさらさらなかったのじゃが……戦ってくれると言うなら話は別じゃ。」


「いけませんわ藤咲様。ですが、そんなわんぱくな藤咲様にお仕置きするのもされるのもわたくし感激ですわ!」


 いろんな意味で正反対な二人のエキシビションが、実習の生徒そっちのけで始まろうとしていた。そして、その戦いは、観客が思っていたよりもいとも容易く始まった。


「わたくしも強くなりましたのよ!この【白日の女王】の力見せてやりますわ!」


 ローズは腰に携えた杖を取り出し藤色に振りかざす。繰り出される魔法はもちろん結界魔法ではあるのだが、創造された結界は今までの生徒たちの結界を凌駕する。


「おっと、これは……。」


 そのとき、藤色は今回の戦いで初めて地面から足を離した。杖が振られ飛んで来たのは、眩しい日差しを乱反射させた半透明で巨大な拳だったのだ。しかも、その拳は一つではない。


ブンッ!ブンッ!


「藤咲様がわたくしに興味を示されないなら分からせるまでですわ!」


 ローズはそう言いながら杖で空中に浮遊する四本の巨腕を操る。しかし、藤色もそう簡単にやられるような実力ではない。


「うるさい!おぬしそう言ってべたべたいろんなとこ触って来るから嫌なのじゃ!」


「だって藤咲様がいい反応するんですもの!!」


紫(それはわかる。)


 藤色は言い返しながらも尻尾を駆使し四本の腕による猛攻を避け続ける。いや、避けきれていないものもあるのだが……


(くっ、藤咲様、避けきれない分の拳は普通に尻尾で受けきってますわ。しかも、そのうち何発かは腕が押し返されてる……。)


 その場から動かすことに成功した。しかし、それだけでは藤色の力には到底及んでいないことをローズは理解する。藤色は尻尾と四肢を上手く利用し、まさに雪の上を跳ねる狐のように軽い身のこなしで攻撃を避け続ける。しかし、ローズの一撃がぬるい訳ではない。本来なら拳一発でも石の建物を木端微塵にする必殺技なのだ。


「ですが藤咲様、これだけではないですわよ。」


 次の瞬間、眩しい光が藤色の目に差し込んだ。


「なに!?」


 一瞬怯んだその隙に、結界の拳が藤色の腹に命中する。


「うぐっ!」


 藤色は眩む目で辺りを見渡し急いで四方を尻尾で固める。


「藤咲様、これが【白日の女王】の本当の力ですわ!」


 ローズは鼻高々と口を開くが藤色はそれどころではない。光の正体を探ろうと少し目を開け辺りを探すも、藤色の四方八方全てが光に包まれていたのだ。


(これがシクロ公国の魔法、五年前には無かったわたくしの秘密兵器ですわ。)


 ローズは勝ちを確信し、追い打ちをかけるように四本の腕で藤色に止まらない猛攻を仕掛ける。


(あの腕は実際のとこ魔導具【暗闇の女王】によって作り出された魔法。魔導具【白日の女王】の本当の魔法は小さな光を屈折させる結界を空中に大量出現させることですわ。)


 実は、ローズは二本の杖、つまりは魔導具を携えていた。一つは半透明の硬い結界を創り出す【暗闇の女王】、そして、もう一つが光を操る結界を創り出す【白日の女王】。ローズは一本に見せかけた二本の魔導具を用いて藤色との戦闘に臨んだのだった。


(これで勝つる!藤咲様はわたくしに分からせられるのですわ!)


 藤色を守るようにして構えられていた九本の尻尾も四本の腕の猛攻により消耗し消え失せた。それを見計らい、ローズは巨腕で藤色の細い両腕を掴み藤色を持ち上げる。そして、藤色のローズの前まで持ってくる。


「くっ、おぬし、やるようになったの……。」


 満身創痍の藤色は息も絶え絶えに口を開く。


「いいですわ。なにも抵抗できずにわたくしに拘束された藤色様……とっても艶めかしい。」


 ローズは荒い呼吸で藤色に近づき、体力の消耗で真っ赤に染まった藤色の顔に手を伸ばした。


「なんての。」


 その瞬間、藤色の体が煙となって辺り一面を包み込んだ。


「けほっけほっ、あれ!?藤咲様!?どこに!?」


「ここじゃよ。」


 煙で視界が遮られる中、ローズの背後から藤色の声がする。


「なに!?」


 がしっ!


 突如、ローズの体が何ものかに捕まれた。


「うそ……。」


 ローズを掴んだもの、それは、ローズが使役していた巨大な腕の一本であった。


【玉藻妖術・伍の尾】~いとも可笑しな変化術~


 腕は煙を上げローズを包む。するとそこに現れたのは、ローズに抱き着く藤色の姿だった。


「悪いのう、おぬしの腕一本破壊して化けておったわ。あの眩いの見たときは焦ったが……どうじゃ?わらわも成長したろ?」


「藤咲様が、藤咲様がわたくしに……。」


 ローズは藤色に抱き着かれているという現実に混乱し、興奮のあまり鼻血を噴き上げその場で気絶した。


「そ、そういうつもりだった訳じゃ無いのだが……。」


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