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第玖話 対、シクロ公国の期待の卵

「なにやってんですか藤色さん!?」


 紫は藤色の行動に目を見開く。そんな中、藤色は聖職者が着るような白に金のラインが入った祭服を身に着けた教師に頼み込んでいた。


「頼む!もと紫の皇帝に免じて!」


「もう!いい加減保安隊呼びますよ!?」


 長い髪を後ろでまとめた男の教師は藤色を突き放し怒鳴りつける。そんな中、どこからともなく揉める二人を呼ぶ声が聞こえた。


「別に良いですよ。わたくしが許可しましょう。」


「げっ、その声は……。」


 藤色はその声が聞こえた方向を恐る恐る振り向く。すると、その声の正体は既に藤色の至近距離まで迫っていたのだった。


「会いたかったですわ!藤咲様!!」


 そこに居た女性は顔が青ざめた藤色に抱き着き、藤色の胸元に顔を埋めこすり合わせる。


「ひょえっ!お、おぬし!何をしておるんじゃ馬鹿者!」


 藤色はその白い髪の女性の頭を掴み、引き離そうとするが、女性はなかなか藤色から離れない。


「そんな、せっかくの再会ですのに、そっけないですわよ藤咲様。」


「わらわはおぬしに会いに来たのではない。この美しい国を観光にだな。」


 藤色と言いあう透き通るような長い白髪(はくはつ)を持つこの女性に、教師は咳ばらいをしながら声を掛けた。


「公爵様、生徒がいる前でそういうことはおやめください。」


 その声に女性は辺りを見渡す。


「……。こ、こほん!これは失礼しいたしましたわ。」


 そんな謎の女性と藤色のやりとりを、紫は校庭の外側から静かな怒りを燃やし眺めていた。紫は張り付けたような笑顔を作りスペクロに尋ねた。


「スペクロさん?あの常識をわきまえない下品な女は誰ですか?」


「う、うちの国の公爵様だよ。」


------------------------


「おぬし、公爵に成っておったのか!?」


「はい、そうですわ藤咲様。ここ五年でシクロ公国もいろいろありまして、今はわたくしが公爵代理としてこの国の統治を行っておりますのよ。」


 しばらくのてんやわんやも収まり、女性は藤色から離れ乱れた髪をただしていた。女性が身に纏う青いドレスは花柄のフリルやレース、繊細なガラス細工で装飾されており、他の国民とは一線を画す気品を醸し出していた。


 彼女の名はローズ・クリニア。シクロ公国の現公爵であり、国立魔法学校の名誉教授としての肩書も持つ若き魔法学者である。


「しかし、公爵様、実習に彼女を参加させて良いのですか?」


 教師の質問にローズは今までの醜態がまるでなかったかのように堂々と答えた。


「ええ、かまいませんわ。むしろ、藤咲様の実力は五年前でもかなりのもの、どうせ実習をするのであれば軽く揉んでもらうといいですわ。そして……」


「そして?」


 教師は首を横に傾ける。そんな教師にローズは顔を赤らめ言葉を続けた。


「藤咲様のお眼鏡にかなう生徒が居なかったらわたくしが揉んでもらうことにしますわ。」


(ああ、やっぱダメだこの人……。)


 教師は呆れたようにローズから藤色に視線を移す。


「いちおう、私の名は(シルク)と呼んでください。これからよろしくお願いします。」


 シルクは藤色に頭を下げる。


「そんな硬くならなくてよい。せっかくの試合じゃ。楽しもうぞ!」


------------------------

数分後

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「はじめ!」


 シルクの合図と共に、藤色に向かって複数の生徒が一斉に魔法を放つ。それらの魔法で生成されたキラキラとした円錐や(つるぎ)、水のような透明度の球体は一直線に藤色の元へ飛んでくる。


「シクロ公国の魔法と言えど所詮は学生、やはり攻撃は単調じゃの!」


【玉藻妖術・玖の尾】~災と呼ばれた狐の尾~


 藤色のスカートの中から九本の尻尾が飛び出す。それらの尾は一本一本が藤色の体以上に太く、鉄のように頑丈であり、藤色の思いのままに伸縮する。それらの尾を振り回すことにより、藤色は一歩も動くことなく生徒達の結界を粉砕した。


「まって!強すぎでしょ!」


 女子生徒の一人がそう叫ぶ。


「いや、こっちだって作戦はある。」


 そう言うと一人の男子生徒がもう一人の女子生徒に合図を送り、藤色の元へ駆け寄った。


「ほう、次は何をしてくれるのじゃ?」


「せーの!!」


 掛け声と共に二人は藤色に向かって杖を振る。すると、球の形をした二重の結界が藤色を囲んだのだった。その結果は藤色を尻尾ごと囲み、じわじわとその直径を縮め始めた。


 藤色はその結界を破ろうと尻尾を球面にぶつけるが、球面がツルツルしていることもあり上手く当たらない。何より、思いっきりぶつけるだけのスペースを球体の中で確保できないことで藤色の攻撃手段は確実に狭められていた。


「いくら強靭な尻尾でも、振りかぶるスペースが無ければただの荷物でしょ!」


 男子生徒は自信満々にそう言い放つ。そんな男子生徒に藤色は微笑みかけた。


「考えたのう、おぬし。この結界も破れぬことは無いが……。そうじゃ、その褒美に面白いものを見せてやろう。」


【玉藻妖術・壱の尾】~幻を魅せる鬼火~


 その妖術が使われた途端、藤色の近くにいた女子生徒が悲鳴を上げる。


「きゃああ!!虫!!」


 女子生徒は何も付いていないはずの背中や腹を必死にはたき始め、たまらずローブを脱ぎ捨てた。


「なんでとれないの!?ねえ!ねええ!!」


 女子生徒はひとしきり走り回ったとこで泣き崩れ、そのまま気絶してしまった。女子生徒が気絶したことによって脆弱となった結界を、藤色の尻尾はいとも簡単に破る。


「いいのう、楽しいのう!皆の衆!もっと来ていいぞ!!」


「ほ、ほんとに強い……。」


 シルクは歯を噛みしめ藤色の妖術に見入っていた。そのとき、シルクの目の前にローズが現れた。


「こ、公爵様!?」


「ここからはエキシビションと参りますわ!わたくしが藤咲様と戦いましょう!!」


補足豆知識:今回公開実習を行っているのは現代で言うところの高校一年生くらいの人達。藤色はちょっとだけお姉さん。

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