第零話 とある国で起きたこと
「藤咲…お前、は…優秀な子に育った……。あとは…頼むぞ。」
「父上!駄目です!わらわの力ではまだこの国は!父上がいなければ!」
少女は大粒の涙を流し、難病に侵された父親の最後を看取った。この日、彼女は唯一の肉親との別れを告げたのだった。
この年、『妖国』を治めていた皇帝が死んだ。それから皇帝の娘であった藤咲改め藤園が新たな女帝となったのだが、彼女はまだ十七と若く、親の七光りにより国のトップとなった少女が政を司ることができるのか不安がる家臣は多くいた。
結果は散々たるものだったと家臣は口をそろえて言う。
「しかし姫様!このような策を行えば多くの役人が職を追われます。」
「知らん、わらわに忠義を尽くした優秀な役人であれば職なぞいくらでも手に入ろう。」
「姫様、おやめください!その方は!」
「おぬしは何も分かっておらぬ。こやつはわらわの手で処刑する。」
彼女は彼女なりに舐められぬように、信頼を勝ち取るためにと人一倍働いていた。しかし、無茶苦茶な政策をためらいも無く行う若きトップは、家来達から見れば悪人そのものであった。
その様子を隣で静観していたのが空一であった。
(まだ都合というものを知らぬ子娘が……、こいつを利用してやれば、この国は我のものに……。)
国で様々な問題が起き始めたのは、空一の企みが動き出してからであった。
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これは、ある日のことである。
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「藤園帝、国の南で暴動が起き、火災が発生しております。」
「なに?分かった空一、今すぐ参る。」
国の南側『南野横丁』にて
「おぬし、なぜ町に火を放った?」
「違います姫様!体が勝手に!」
藤園が縛り上げた町民の男は、涙を流し藤園に訴える。そんな男の懇願を無視し、空一は藤園に忠告をした。
「藤園帝、こやつの民家から焦げてはいますが暴動の計画書が見つかりました。確信犯かと思われます。(全部我々の呪術を使ったでっち上げだがな。)」
空一は藤園に焼け焦げた書物を渡した。
「……。しかし、この様子は本当に……?」
「帝が舐められてはいけません。放火を行った者は死刑というのが我が国の法律。ご判断を。」
そんな空一の言葉を聞き、藤園は男の方を向く。
「……分かった。すまぬなおぬし、証拠が出ている以上お前は裁かなければならぬ。」
藤園の発言に男は涙を流し声を上げる。
「ほんとに違うんだ姫様!俺だってなにがなんだか分からんまま家族が火に巻き込まれて!」
それに同調するように町民たちも声を上げた。
「そうですよ帝様!彼はこの町一番の優しい人間だよ!」
「こいつのおかげで俺達は何回も救われたんだ!」
耳を塞ぎたくなるような懇願に藤園はゆっくり目をつむる。
「家族が燃えたのはおぬしが放った火じゃろ?法は法じゃ。」
藤園はその無情な一言を男の目を見て言うことが出来なかった。
「それでは藤園帝、処刑は役人が……。(それでいい、貴様は黙って国民からの不満を溜めろ!)」
「いい、せめてこれ以上心を痛める者が増えぬよう、わらわ自らが執行する。」
(ふん、馬鹿な皇帝だ。)
そんな紫の皇帝は、町民達からは悪魔のように見えた。
(帝様、俺達の話を聞いてくれないなんて……。)
(先代皇帝の方がよっぽど優しかった。)
「空一、この件で家を失った者達に米を配ってはやれぬか?」
「しかし、藤園帝、今の我々の蓄えではこれだけの人々は……」
「だったら役人どもから徴収しろ。その代わりと言ってはなんだがわらわはしばらく飯は要らぬ。」
その藤園の言葉に空一は思わず笑みをこぼす。
「……。藤園帝の優しさには感服いたします。かしこまりました。(新しいネタができた。適当に子娘を悪者に役人から多めに徴収しよう。過剰分は密かに集めている呪術隊に分け与えるのもいいな……。もちろんこの愚民どもには一粒もやらぬがな!)」
「父上は上手くやっていたもんじゃ……。」
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こんなことがたくさん起きた。何か事件が起きては必死に藤園が体を張るのだが、その全てが空一に利用され空回りする。まだ純粋な子供と卑劣な大人の経験の差だったのだろう。
そして、藤園の地位を揺るがす事件が起きるのであった。
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こちらの作品は、作者が連載しているもう一つの作品と同じ世界観で違う時間軸を描いております。よろしければそちらもご覧ください。